3万の憂鬱
(朝。キッチン。朝食を食べ終えて一息ついている「兄」。洋服のカタログを眺めている「母」。)
母「トースト、もう一枚食べる?」
兄「いい、いい。お茶ちょうだい」
母「はいはい(と、お茶を淹れてやる母)」
兄「(受け取り)……××は、もう部活行ったの?」
母「あの子今日休み」
兄「え、何?まだ寝てんの?」
母「違う違う。朝から起きて、ずっと準備」
兄「何の?」
母「(嬉しそうに)デート」
兄「(笑って)ええ?」
母「何かね、同じクラスの女の子とね、遊び行くんだって」
兄「(笑って)ああ、そう。え、どこに?」
母「遊園地」
兄「うわー!(笑って)あー、そー」
母「(笑う)」
兄「色気づきやがって……」
母「いいでしょ別にー。高校生なんて一番色気づいちゃう年頃なんだから」
兄「俺はもっとしっかりしてたよ」
母「あんた、彼女なんか出来たことないでしょ」
兄「ま、それ言われちゃうとね」
母「そういう意味じゃ、あの子の方がよっぽどしっかりしてるよ」
兄「うーん」
母「あんたもさ、早く彼女見つけてお母さんを安心させてよ」
兄「(笑って)そんな、お袋が不安を感じるような年でもねえだろ、俺まだ」
母「(笑う)」
兄「でも、朝から準備って、何を準備することがあんだよ」
母「やっぱり、洋服とかじゃない?」
兄「そんなの一番興味ねえだろ、あいつ」
母「好きな子ができると変わるんでしょ」
兄「ふーん」
母「あんたもあの子見習いなさいよ」
兄「それは兄貴としてのプライドがな……」
母「(笑って)何言ってんの。……だってさ、あの子、すごいよ、今日デートするっていうから、私にさ……」
兄「うん」
母「……あ、これ、お父さんには内緒にしといてね」
兄「何?」
母「あのね……」
(階段を下りてくる足音が聞こえてくる。)
母「あ、下りてきた」
兄「おっ。(階段の方を振り返りながら)××、お前、兄貴を差し置いて……」
(「弟」が現れる。すさまじくセンスの悪いTシャツの上に、おそろしくひどいデザインのジャケットを羽織っている。下はパンツ一丁。)
兄「……」
母「……」
弟「あ、おはよう」
兄「……」
母「……」
弟「……何?」
兄「……いやいやいや」
弟「え?」
兄「……パジャマ、だよな?」
弟「何が?」
兄「その……お前の上半身を包んでいる……服みたいな形の布」
弟「服だよ。あと、パジャマじゃねえよ」
兄「パジャマじゃないとすると……何?」
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