失恋と、男と女と招き猫。
失恋と、男と女と招き猫。


第一幕


『ふく』

【登場人物】

千 男。サラリーマン。三年前に別れた女のことを引きずっている。
福 女。招き猫。マジメな性格で、千のために別れた彼女と再会させようと奮闘する。



舞台中央にサス。
千「3年も前に別れた彼女のことを、僕は未だに引きずっていた。
他の女の子を見ても彼女のことを重ねてしまって、あれ以来ずっと一人身だ。
時々、彼女の夢を見る。付き合っていた頃の楽しい思い出、彼女の仕草、笑った顔。
全く、未練がましい男だと思う。昨日も友人と飲みに行ってお説教を食らった。
「おいおい、いつまで引きずってんだよ。いい加減新しい女作れよ」って。
ダメなんだ。彼女の事がどうしても忘れられない。
そんな会話をしたもんだから、また彼女の夢を見てしまった。
朝起きてベッドの横を見ると、見知らない招き猫が転がっていた。
またどこかから拾って来てしまったのだろう。酔った時の悪い癖だ。
僕はその招き猫を家に置いておくことにした」

暗転

明転
舞台前中央に福が座っている。頭には猫の耳、腰からは尻尾が生えている。
鬼気とした表情で一心不乱に左手で招きまくる。
だんだんエスカレートしていき、観客を威嚇したり、狂ったように左手を振りまくる。
そこに千が帰ってくる。
千「ただいまー」
福狂ったように招く。
千「おい、何やってんだよ!」
福「…………」
千「ストップ。ストーップ!」
福「なんだ、千か。どうした?」
千「どうしたじゃないよ。何やってんだよ君は」
福「何と言われてもな。私はただ待ち人を招いているだけだが?」
千「招いているって、そんな顔じゃみんな逃げちゃうよ」
福「そんな顔とはどんな顔だ?」
千「さっきの変な顔だよ」
福「変な顔とは失礼だな。これでも私は一生懸命やっているのだぞ」
変な顔で招く。
千「その顔!その顔!」
福「むむ、うるさいぞ、邪魔をするな。だいたい私は千の為にこうして働いているのだぞ?」
千「それは……ありがとうだけどさあ」
福「だろ?ならば問題ないだろ」
変な顔で招く。
千「待て。逃げる、逃げるから」
福「何が逃げるというのだ?」
千「だから、招こうとしてる人がだよ!」
福「ふん、注文の多い奴だ。それで、今日は会えたのか?」
千「……いや、会えなかったよ。やっぱり仕事帰りの短い時間だけじゃね」
福「そうか」
千「ごめんな、気を遣わせちゃって」
福「何を言っている、約束したではないか。私がお前と彼女を再び巡り合わせるとな。
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