サウナ師
サウナ師
~登場人物~
・男
・サウナ師
・本場の人
スーツを着ているサウナ師と私服の本場の人が座っている。
そこに、タオルで下半身を隠している上裸の男が入ってくる。男は服を着ている二人に驚き、訝しげに見ながらも同じように座る。
本「お兄さん、満々だね」 男「え、と、満々って、何のことでしょうか?」
本「またまた、こんなところまで足運んでんだから察しがつくでしょうよ」
男「(辺りを見渡して)いや、ごめんなさい。分かりませんけど」
本「お兄さん、とってもお得なこと教えるからよく聞いてね。今なら二千円ポッキリで最高に気持ちよくなれるんだ」
男「え、いや、僕はそういうのホントに大丈夫なので。すみません」
本「ヘイヘイヘイ。タオル一枚でこんなとこ来る変態さんがそんな野暮ったいこと言っちゃ駄目だよ。ヤル気満々なんだろう。身体はうずいちゃって仕方ないんだろうに」
男「ちょ、やめてください。変態って、僕こそ普通の人ですよ。だって、ここはサウナですよ!」
沈黙し、本場の人とサウナ師が目を合わせて、「うん、知ってるよ」。
男「わあ、何だかこっちが恥ずかしいやい」
サ「恥ずかしがることは無い。人間誰しも裸だ、タオルまとってるだけ偉いもんだよ」
男「いや、慰めて欲しいのではなくて。あの、サウナでは着ている人の方こそおかしいと思うんです」
本「なるほど」
男「納得していただけましたか」
サ「ゆくゆくはわしのようにサウナスーツを着れるようになるから安心しな」
男「ゆくゆくって何ですか。え、というより、え、サウナスーツ?」
本「今、この人間違っている、と思ったろう」
男「え、いや、そんな」
本「サウナスーツはサウナに入っているかのような効果が得られるものであって、決してサウナに着込んでいくものでは無い、そう思ったろう」
男「それに合わせて、サウナスーツではないとも思いました」
本「君はつまらない概念に捉われている!」
男「な、何ですか、いきなり」
本「原宿の斬新なファッションをお洒落上級者と位置づけるのに、サウナでサウナスーツは受け入れられない。サウナでは裸、そんな古い思想が脳裏にこびりついているからだと思わないか?」
男「何だって!…別に原宿のファッションも受け入れていない。そしてあれはサウナスーツではない」
サ「いいんだ、初めはそんな考えでも。肝心なのはこれから変われるかどうかだろ?」
男「待ってください。サウナで服を着るなんてあり得ないんです。マイノリティなんですよ」
本「このサウナでは僕たちの方こそマジョリティなようだね」
男「...確かに。あれ、もしかして、これはサウナの新提案なのか?」
サ「くだらない横文字並べてないで、どうするんだい?」
サウナ師「やるのかい?」とかあらぬ方向に聞いてしまう。
男「いや、ここですよ、ここ」
サ「ごめん。あっつくてね」
男「意識もうろうとしちゃってるじゃないですか。それ完全にスーツのせいでしょ」
サ「何てな、冗談だよ冗談」
本「(拍手)粋なサウナジョークだ」
男「なんだこいつ」
サ「さ、冗談はここまでにして始めようか」
男「え、ちょっと、勝手に何を始めるつもりなんですか。やるなんて一言も言ってませんよ」
サ「心配するな、2000円はまけてやる。なんたって、わしはサウナ師だからな」
サウナ師、どこかにはける。
男「サウナ師?」
本「本当に何も知らないでここに来たとしたなら、あんた相当運がいいよ」
男「どういうことですか、サウナ師というのは」
本「ふふ、私もこの本を見てわざわざこんな所まで訪れたんだ」
本場の人、サウナに関するガイド本を渡す。
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