遺書
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登場人物

探偵 木下タカシ
助手 高橋なつみ
男  畑中太郎
ヨメ 藤本やよい
花屋 花本ハナオ


探偵 「面白い話をしましょう」と言って始まる話はたいてい面白くないものです。
   ですが、「つまらない話ですが」と言って始まる話はたいてい本当につまらない。
   しかし、わたしはこれから始める話をあえて「つまらない話」と言う事にします。
   その日もわたしは、この小さな探偵事務所の固いイスに……(客席を見て)そうですあなたが座っているようなそんなイスです。そのおもちゃのようなイスに座って、ラジオを聴いていました。
   流行のアーティストが緩やかに下り行く幸せをだらっと続けることの不安を歌っていました。
   それは、無味無臭で流れるいつものわたしの日常そのものでした。たまに来る浮気調査をして、毎日の生活をやり過ごす、わたしへの嫌味のようにも聞こえました。

  男に光が当たる。

男  そろそろ俺の出番は?
探偵 うるさいだまれ。
男  (ノックする)
探偵 勝手に芝居を進めるな。
男  ここ、探偵事務所ですよね?
探偵 だから
男  ふと思うのです。緩やかに下り行く幸せと、緩やかに上り行く絶望はどちらがいいのかと。
探偵 この男は畑中太郎。わたしの数少ない友人の一人です。
   会社に勤めるかたわら、たまの休みに小説を書くと言うのが趣味のつまらない奴です。
   その日、彼がわたしの探偵事務所の扉を叩いたところから
男  (ノックする)
探偵 だからまだ喋ってるのに。

  そこは探偵事務所。

男  (ノックする)
探偵 入っていますよ。
男  ここ、探偵事務所ですよね?(ノックする)
探偵 違います。
男  表に看板ありましたけど?
探偵 それ、隣です。
男  隣、宗教法人の事務所みたいですけど?
探偵 今、その宗教の神様が来てるんで、
男  じゃあ結構取り込んでるんですね。
探偵 結構どころじゃなく取り込んでるんですよ。
男  どんな風に取り込んでるんですか?
探偵 カレーパンマンがクチからじゃなくてケツからカレーを
男  うん、入りますね。
探偵 たとえ話じゃん!

  男、入ってくる。

探偵 もー、取り込んでるって言ったのに、今日休みだよ休み平日だけど休み、そう決めた今決めた。
   もう寝る! おやすみ!
男  …木下? おまえ、木下か?
探偵 …おまえは!?
男  俺だよ。
探偵 畑中じゃん、みんなも知っての通りの畑中太郎じゃん。
男  何言ってんの?
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