花のお江戸へいらっしゃ〜い!
花のお江戸へいらしゃ〜い!(一幕三場)
作・瀧澤 豚琴
登場人物
伊勢屋(江戸村オーナー)
リ サ(フリーター)
アンナ( 〃 )
さやか(伊勢屋の姪)
教 授(未来の歴史学者)
少 年(未来人)
中学生A(修学旅行中)
〃 B( 〃 )
〃 C( 〃 )
〃 D( 〃 )
〃 E( 〃 )
第一場
幕が開くと、舞台には江戸時代とおぼしき情景が広がっている。
舞台中央に、伊勢屋が袴をはき、日本刀を腰にさすといった出で立ちで、ガマの油売りの口上を
述べようと構えている。
上手に茶屋らしき縁台があり、そこにリサとアンナが暇そうにしておしゃべりをしている。
さやかが縁台に腰掛け三味線を弾いている。(目が不自由な様子)
伊勢屋 (口上の口調で)さあさ、お立会い、御用とお急ぎでない方は、ゆっくりと聴いておいで。
遠目山越し傘の内、ものの文色(あいろ)と理方(りかた)がわからぬ。おっと待った、お立会い、てまえ大道に
未熟な渡世を致すといえど、投げ銭やほうり銭はもらわないよ。では、何を稼業に致すかと
いえば、てまえ持ちいだしたるは、これにある蟇蝉噪(ひきせんそう)四六のがまの油だ。そういうがまは、
俺の家の縁の下や流しの下にもいるというお方があるが、それは俗にいう、おたまがえる、
ひきがえるといって、薬力と効能の足しにはならん。てまえ持ちいだしたるは、四六のがまだ。
四六五六はどこでわかる。前足の指が四本、後足の指が六本。これを名付けて四六のがま。
このがまの棲めるところは、これよりはるーか北にあたる、筑波山の麓にて、おんばこという
つゆくさを食らう。このがまのとれるのは、五月に八月に十月、これを名付けて、五八十(ごはっそう)は
四六のがまだ、お立会い。このがまの油をとるには、四方に鏡を立て、下に金網を敷き、その
中にがまを追い込む。がまは、おのれの姿が鏡に写るのを見ておどろき、たらーりたらりと
油汗を流す。これを下の金網にてすきとり、柳の小枝を持って、三七二十一日のあいだ、と
ろーり、とろりと煮つめたるがこの油だ。お立会い。
さやか おじさん、それ、練習? さっきからお立会いお立ち会いって・・・・
リサ そのお立会いがぜんぜんいないみたいじゃない?
アンナ おかげでこっちは、ひまでひまで・・・・・・(大きなあくび)
リサ そんなことしてる暇があったら、そのお立会いを集める工夫でもしたらいいのに。
アンナ ほんと。この分じゃ、貰えるものが貰えるかどうか、不安でしょうがないわ。
伊勢屋 はて、これは面妖な。その方らにその様な言われ方をしようとは。拙者がいかに苦労をしておるか
わかりもせぬに、言っておくれじゃござんせんか。
アンナ あらら、すっかりその気。
リサ ついていけませんわねえ。
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