はしものがたり
いちき串木野市立串木野中学校 総合芸術部
平成26年度中学校演劇フェスティバル 上演作品
はしものがたり
場面?@ 初夏の夕暮れ
ホリゾントはやや青みがかって、正面から西日のような明かりが当たっている。港の船の出入りの音がかすかに聞こえる。
舞台上に橋の欄干がある。橋のたもとでイーゼルにキャンバスを立てかけ、絵を描いている男性。年齢もよくわからない。服装は長袖、麦わら帽子をかぶっている。クビにはタオルをかけ、時折汗を拭う。
上手側からクーラーボックスを肩に重そうに担いでいる少年がやってくる。立ち止まって汗を拭く。
少年は絵を描いている男性をしばらく見つめている。絵描きは、それに気付かず絵を描いている。少年が、クーラーボックスを下ろし、絵描きに話しかける。
悠介 玄さん。こんにちは。
絵描きの男性が少しハッとしたように振り向き、のんびりした声で返答する。
玄一郎 やあ、悠ちゃんか…配達の帰り?
悠介 そう。
玄一郎 今日は、5月にしてはずいぶん暑かったねえ。
悠介 玄さん。こんな日にその格好じゃ熱中症になっちゃうよ。
玄一郎 大丈夫、ここは、いつもいい風が吹いているんだ。
玄一郎のとなりに並んで立つ悠介
悠介 ほんとだ、きもちいい。今日は暑くて結構大変だったんだ。
玄一郎 いつもえらいねえ。
悠介 大したことないよ。手伝わされてるだけだし…
しばらく、橋の上から2人で「町」を見下ろしている。悠介、玄一郎の描いている絵を覗き込んで
悠介 なに描いてるの?
玄一郎 町。港の方。
悠介 玄さんの絵って、いつも橋の絵か、橋から見た町の絵だね。よく飽きないね。
玄一郎 そりゃ、飽きないよ。同じ景色でも、毎日違うし、朝と夕方でも、全然違うから…それにね、こうして、橋の絵を描いてると、思い出すんだ。むかし、おばあちゃんとこのあたりを散歩したなあとか…
悠介 玄さんのおばあちゃんってずいぶん前になくなったんだよね。
玄一郎 うん。
悠介 俺もこの橋、大好きだし、ここからの眺めは最高だと思うけど、玄さんにとっては、もう、いのちの半分っていう感じだね。…
玄一郎 そう。だって、僕はなんと言っても…
悠介 (玄一郎の言葉に重ね、口調も真似て)「何と言っても、橋守りの家に生まれたんだからねえ」だろ
玄一郎 そう。そうだよ。
ひとしきり、笑う二人
玄一郎 ねえ、悠ちゃん、これぐらいの時間になるとね…なんとなく、町が紫に見えるんだよ。
悠介 …ほんとだ。…たしかに、紫色だ。
玄一郎 (嬉しそうに振り向いて)不思議だろ?
悠介 うん、不思議だ。…でも…そう言えば、この前、美術の中村が言ってたんだ。「お前たち、影の本当の色を知ってるか?黒じゃないんだ。青みがかった紫なんだぞ。太陽の光が黄色だから、影の色はその補色である紫に見えるんだ。」って
玄一郎 へえ、そうなんだ。そんなことちっとも知らなかったなあ。
悠介 玄さん。絵描きのくせに知らなかったの?
玄一郎 うん。
悠介 …おれ、玄さんに言われるまで、町の色が紫だなんて考えたこともなかったなあ。…あれ?ここ、空が緑色になってる。これはどうして?
玄一郎 え?お日様が海に沈みきる時、海がジュッっといって、一瞬だけ空が緑色になるんだよ。
悠介 ええ?嘘!
玄一郎 嘘じゃないよ。
悠介 本当かなあ。…いくらなんでも「海がジュ」はないでしょ。
玄一郎 こうして待ってたら、見られるかも。こんな夕暮れには見えることが多いんだ。
しばらく橋の上にたたずむ2人。
悠介と同じクラスの山路みゆきが上手から現れる。手には、器のボールを持っている。下手側に通り過ぎようとしたみゆきに、悠介が気付き、話しかける。
悠介 あれ?山路じゃんか!
みゆき、声をかけられ驚く。
みゆき え?…坂上くん?
悠介 なんか、久しぶりだな。…あれ?山路のうち緑町の方じゃなかった?あ、そうか、美鈴んちにでも遊びに行くのか?
みゆき ううん。クラス変わってからあんまり美鈴と話したことないから……わたし、最近、港町に越してきたの。
悠介 え?本当?
玄一郎 悠ちゃん。お友達?
悠介 あ、う、うん。同じクラスの山路みゆきさん。
みゆき …こんにちは。
玄一郎 こんにちは。
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