Retweet〜夢から出た言葉(まこと)〜
登場人物
一色小夜子
山城芳樹
山城舞
女
SCENE0
暗闇に一人の女の姿が浮かび上がる。
女 夢のまにまに漂う歌は
いつかあなたが教えてくれた 私の悲しみ癒やす歌
眠れぬ夜のその先に 遠い夜明けを夢見つつ
ゆらりゆらりと揺れていた 私が目覚める恋の歌
二人の魂どこまでも あの旋律に導かれ
希望の見えない人の世の うつつの時を超えていく
夢のまにまに漂う歌は
いつか私の唇に 光と共に舞い降りた
過去の私に別れを告げる 二人で奏でるレクイエム
「それ、このはの頭の中にあった言葉なんだ」
と直也は感心したようにこのはの顔を見つめた。このはは、少し照れたような笑顔になった。
「本当に思い付きだよね。今読み返しても、あんまり意味が分かんないところもあるし。それに、これは直さんと初めてネットで会った時に書いたから、直さんとの共作、みたいなもんかな。」
「今までネットとかに詩を載せたことはないの?」
「うん、そんなことは考えてなかった。ただ自分の気持ちを書き留めておこうと思っただけ。そうしないと、誰も私が生きていたことを証明できなくなるでしょ。それも何だか淋しい気がして。」
…じゃあ、詩だけじゃなくて、夢も書き留めておいたら?このはは思った。私が生きた証は、案外夢の中にあるのかも知れない。直也と出会ったと思ったのも夢の中の出来事のようなもの。だったら、私の人生もまるごと夢のようなもんじゃないか。そう思うと、目の前で微笑んでいる直也の存在も、儚く、そしてなおいっそう愛しく感じられるのだった。
「夢なら、このまま覚めないで欲しいな。」
別の空間に別の女(=一色小夜子)の姿が浮かび上がる。
小夜子 「それならば、ずっと覚めない夢を見せてあげよう」
女 「えっ?」
小夜子 「夢と現実が地続きならば、夢からずっと覚めずにいることができる。別の言い方をしましょうか。夢が現実を侵食すれば、そこはもう何処までも夢の世界。あなたはずっと夢から覚めずに現実を生きることができるわ。」
女 「言っている意味が分からない。」
小夜子 「うん、私にも分からない。」
女 「はあ?」
小夜子 …あー、ダメよダメダメ!全然ダメ!
小夜子、頭を抱える。
女の姿は見えなくなる。
SCENE1
小夜子の部屋。
小夜子、机のパソコンの前に座る。
小夜子 やっぱ他の作品とくっつけたらダメだよな。何とかこれを生かそうと思ったんだけど。おちゃらけは思い付くのに、いい展開は出てこないんだよな。次こそは何か賞とりたいんだけど。頑張れ、私。
小夜子、パソコンでツイッターの画面を見ている。
小夜子 あ、コズエ、一人目産まれたんだ。男の子か。可愛いだろうな。早くフェイスブックに写真アップしないかな。…え、リョウコの絵、入選か。ずっと頑張ってたもんな、そりゃ当然だよ、うん。…おー、ヨシエは仕事で表彰されたか。去年のボーナスもいっぱい出たし、今度の報奨金で自分へのご褒美何にするって、こっちにきかれてもねぇ。えっ、カナッチさん、小説で入賞したんだ。そっかー、先越されたな。…っていうか、あらゆることで、あらゆる人に先越されてるよね、私。
小夜子、机の上にある封の切られた封筒を見る。
小夜子 「末筆ながら、一色様の益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。」もうこれだけ祈られると、私成仏しちゃいそうだな。祈らなくてもいいから採用通知よこせよ。頼むからさ、来月で派遣の期間切れるし。
小夜子、再びツイッターの画面を見つける。
別の空間に、スマホに文字を打ち込む別の女(=山城舞)の姿が浮かび上がる。
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