雪鈅花 イロドルトキニ キミオモフ
ラン バージョン
雪鈅花(せつげつか) イロドルトキニ キミオモフ
サクヤ(郷士の少年)
アズサ(サクヤの妹)
ハツナ(謎の美女(笑))
ジンアン(サクヤの父)
エイジロウ(サクヤの祖父)
犬神
村長
ラン(雪狼の一匹)
村人
雪狼
※ 村人と雪狼は基本的にそれぞれの場面に出ていない役者が演じる。
序景
花道に語り部(アズサ)が現れる。紙芝居風の絵が浮かぶ。
語り部 昔々、伏山というところに、一匹の不思議な獣がおりました。ある十五夜の夜
に現れたその獣は、いつも一人ぼっちでした。なぜかというと、獣はとても恐ろしい力を持
っていたのです。ひと吠えすれば雲を呼び、ひと駆けすれば疾風が起りました。泣き声は吹
雪となって、野山や里を、真っ白に染めました。
その力を畏れた里の者たちは、いつしか獣を犬神と呼び、社を建てて、あがめ
ました。お供え物をしたり、祭りを開いたりして、獣の心を慰めました。獣は喜び、伏山の
人や獣を守るようになりました。獣は独りぼっちではなくなったのです。
それからまた、長い長い年月(としつき)が流れました。いつからか里の者達
は、犬神を畏れることも、崇めることも、次第に忘れていきました。なんと、犬神の森を切
り開いたのです。
犬神は大いに怒り、恐ろしい吹雪を呼びました。野山も里も雪で染め上げ、多
くの者が死にました。恐れおののいた里の者達は、どうすれば犬神の怒りが静まるかと、頭
を悩ませました。長い話し合いのすえ、誰かが呟きました。
犬神様に娘をひとり差し出そう。
娘が差し出され、その年の吹雪は止みました。しかしそれは悲しい慣わしの、
はじまりでした。そしてまた、長い長い年月(としつき)が流れました。
吹雪の音とともに幕が上がる。
風雪渦巻く空間。対峙する二人の男(エイジロウと犬神)。間に立つ女(ハツ
ナ)。何かを話しているが聞こえない。刀を抜き放つエイジロウ。ハツナを押しのける犬神
。互いに切り結ぶ。打ちかかるエイジロウ、防ぐ犬神。エイジロウの激しい斬撃に左腕を斬
られる犬神。止めとばかりに突きかかるエイジロウ、激しい雷鳴。雷鳴の後、二人の間に立
つハツナ。エイジロウの刀で刺されている。
ゆっくりと崩れ落ちる。雷鳴。絶叫するエイジロウと犬神。
暗転
第一場 大嶽神社 夕刻
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