焼肉天使(小説Ver)
【焼肉天使(小説Ver)】

僕♂
天使♀
店員A(不問)
店長(不問)←男性推奨

…………

僕N   僕が焼肉天使を最初に見たのは、去年の冬の入りであった。
    僕はその頃、今の店で働き始めて3ヶ月目を迎えようとしていた。
    正直そんなに給料が良いわけでもないこの仕事は、
    余り物の賄いによってどうにかもっているようなもので、それ以外は特に取り柄もないものであった。

    強いて言うならば、僕の上司――といっても、店舗の長ではあるが、そこまで威厳もないのである――の出す命令が少々独特なものだという点と、
    店舗名が「焼肉魔王」という、これまた店長の性格を反映したような看板を堂々と掲げている、という点が、
    おそらく「変わっている」と言われる所以であろう。

    だから、僕は余計に目を奪われてしまったのだ。
    会社帰りの中年男性で溢れ返る店内で、ぽつんと座っている白い容姿に。


天使   「……あの」

僕    「はっ、はい!」

天使   「ご注文、よろしいでしょうか」

僕    「はい、喜んで!」

天使   「ええと、それじゃあ……」


僕N   僕は、上司の命令で注文を取りに行った。彼女はやはりこういう店は不慣れなのか、少し要領に欠けるところがあるようだ。


天使   「『ハツ』で」

僕    「お客様、こちら心臓のほうになりますが、よろしかったでしょうか」

天使   「構いません。今日はハツでお願いします」

僕    「畏まりました!それでは暫くお待ち下さいませ」


僕N   僕が彼女と交わした会話は、それが最初で、今の所最後だ。

僕N   だが、彼女が他の従業員と話しているところは、何回か見ている。

天使   「今日は皮を」

天使   「今日は小袋とタンでお願いします」

天使   「今日は、レバーだと思います」

天使   「そうですねえ、ギアラでお願いします」


僕N   僕の記憶にある彼女の声は、これで全部だ。

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