一歩、二歩、ナンボ?
〜よろしゅう、おあがり〜
一歩、二歩、ナンボ?

作 げんだつば

■キャスト■

島津 一歩
遊亭 小升
満腹亭 大吉
初枝
松子
通行人の声

■第1場■
舞台明転するとそこは落語家小升の家。
 舞台下手から初枝が下手側を気にしながら入ってくる。

初枝 「お師匠様!お師匠様!」
 と、上手から小升が出てくる。
小升 「なんや、うるさいなあ。出るもんも出えへんなるがな。なんやねんな一体。」
初枝 「せやかてお師匠様・・」
小升 「初枝はん、いっつも言うてるやろ?師匠に「様」はいらへんねん。「師匠」でええねん。将軍に様つけて将軍様とはいわんやろ。」
初枝 「え?」
小升 「・・言うな。将軍様。お師匠様もありやなあ。うん。」
初枝 「お師匠様、そんなことより、またあの人きてはりますよ。」
小升 「チッ、またあいつかいな。ホンマしつこいやっちゃなあ。今日こそ言ってきかしたらな、ラチあかんわ。よっしゃ、初枝はん、あいつ「一歩」(いっぽ)言うたかいな、ここへ連れてきなはれ。」
初枝 「エエ!ええんですか?」
小升 「かまへんかまへん。今日はバシっと言うたるさかい。」
初枝 「わかりました。ほんならここへ通しまっせ。」
 と、初枝下手に去る。ややあって、初枝と一歩が入ってくる。
一歩 「やあやあ、えらい手間とらせてすんまへんなあ。ええ家や。さすが小升師匠のお家やなあ。つこてる木いがちゃうわなあ。エエ木や。家にあげてもろただけでエエ木になるわ。ホンマありがとさん。」
小升 「何調子のエエこと言うてんねん。ここは谷町「のばく」の長屋。そのど真ん中にあるっちゅう長屋や。そないなエエ普請な訳ないやろ。」
一歩 「あ!これは師匠、今日はほんにお日柄も良く・・」
小升 「何がお日柄も良くや。いつまでもペラペラ何喋ってけつかんねん。」
一歩 「すんまへんなあ。ワシ、親からも「お前は喋ってんと息もできへんのか!」言うてね、よう叱られてますねん。生まれながらのシャベリですよって、まあ、堪忍してくんなはれ。しゃべんの止めよう思たら、こう洗面器に水張って、顔でもつけんと・・」
小升 「判った判った。ちょっと静かにせんかい!」
一歩 「はい・・」と自分で自分の口を押さえる。
小升 「ええか、前にも言って聞かせたけど、もう一遍言うとくぞ。」
 一歩、口を手で押さえたまま激しく頷く。
小升 「ワシは弟子はとらん。絶対にとらんのじゃ。ワシの芸はワシが打ち立てたもんや。せやから誰にも真似なんかできんのじゃ。じゃによって、弟子はとらん。どこの誰がワシとこに頼み来ても、絶対に絶対に弟子は取らん。お釈迦様、キリスト様が頼みにきてもや。ええか。判ったか。」
 一歩、ガバっと土下座して
一歩 「師匠、そこをどないかしてでも、何とか弟子にしてください!頼んます!」
小升 「アカンもんはアカンのじゃ。」と、そっぽを向く。
一歩 「ワシ、もうこんなちっさい時から寄せ通いしてて、色んな人の落語聞いてきました。そん中で、師匠の話が一番好きなんです。惚れてまいましてん。ワシ、師匠のことを思たら、もう夜も寝られへん。」
小升 「(そっぽ向いたまま)・・・・」
一歩 「師匠のことを思たら、寝てても身もだえして身もだえしてクラクラしますねん。心臓もドッキン、ドッキンしてもうて・・もう、クーラクラのドッキドキですねん!」
小升 「ドアホ。人に聞かれたら誤解されるようなモノの言い方すんな。」
一歩 「お願いです!ワシを弟子に・・せ、せめて、師匠のお傍にいさせてください。たのんます!」
小升 「イヤじゃ。」
一歩 「傍におんのがアカンのやったら・・か、通いでもかましません。お願いします!」
 と一歩、土下座。
初枝 「お師匠様・・こんなに言い張るんやったら、ちょっと考えてあげても・・」
小升 「アカン。」
 この間、ずっと一歩は土下座したまま。
初枝 「お師匠様・・・・」
小升 「芸は自分で磨くもんや。弟子入りしたかて、それで身に付くもんやないんや。それに弟子にとるっちゅうことは・・・」
一歩 「グーーーーーーー」
 と一歩のイビキ。
小升 「?何やコイツ?寝てけつかんのか。」
 初枝、小升の側によって
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