パン屋の憂鬱
『パン屋の憂鬱』
登場人物
音石(オトイシ・男・フリーター)
藤原(フジワラ・男・パン屋の店長)
天倉(アマクラ・女・専門大生)
舞台はとある小さなパン屋
そこにアルバイトとして勤める音石の姿がある
真剣な面持ちでパン生地を伸ばす音石
突然、乱暴にパン生地を調理台に叩きつけ始める
反響する音石の叫び声
店の奥から藤原がやって来る
藤原 音石君!
藤原、音石の暴走を止める
音石 俺は! 俺はー!
藤原 落ち着いて、音石君! パンは何も悪くない。食べ物を粗末にしちゃ駄目だ!
音石 俺は、何でこんなことしてるんスか!
藤原 落ち着いて!
やがて、音石の動きが静かになる
音石 ……。
藤原 またかい、音石君。
音石 すいません、藤原さん。
藤原 いや……うん。君にも、色々思うところがあるのはわかるよ。でもね、そろそろ
分別をつけなきゃ、ね?
音石 本当にすいません!(と、平謝り)
藤原 もういいから、顔上げて。
音石 俺……不安なんです。
藤原 うん。
音石 このままでいいのかって。最近、そればっかり考えるんです。
藤原 うん。
音石 わかりますか……。パン生地伸ばしてたら、こう……顔が浮かび上がってきてで
ね。
藤原 うん。
音石 その顔は、俺なんです。俺が、俺に語りかけてくるんですよ。「ヘイ、音石。て
めぇの生き方は、全然ロックじゃねぇな!」……俺は何も言い返せねぇ! 情け
ねぇ……。ハナクソ野郎ッスね、俺は!
藤原 (音石の肩に手をやり)疲れてるんだよ。
音石 そんなんじゃねぇんスよ! 俺は呆れてるんッス……てめぇ自身に。
藤原 ……音石君、今いくつだっけ。
音石 二十四です。
藤原 まだ若いんだから、そんなに焦らなくても大丈夫だよ。
音石 甘やかさないでください!
藤原 別にそんなつもりじゃ。
音石 感じるんです。俺は今、腐りかけてやがる。駄目なんだ、このままじゃ……。全
然、ロックじゃねぇ。
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