詐欺師入門
   探偵事務所。後ろは窓。
   中央に大きなデスクがある。
   男が一人座っている。
   男は坂本という名だ。電話をしている。

坂本 はい。……はい。申し訳ありません。少し手違いがございまして。はい。
   少年、入ってくる。

少年 あの。
坂本 はい!それはよくわかっております。ですから今度の件につきましては……。
少年 あの。
坂本 はい、はい!ありがとうございます。はい、失礼します。
   坂本、電話を切る。

少年 あの。
坂本 うわあ!
少年 ……どうしたんですか?
坂本 な、何だね、君は。いつからそこにいた!?
少年 1時間くらい前から。
坂本 1時間……。
   間。

坂本 嘘だろ。
少年 はい。
坂本 何の用だい?あ、依頼ですか。
少年 違います。
坂本 だろうね。
少年 ぼく、あなたの弟子になりたくて来たんです。
   間。

坂本 ……嘘だろ。
少年 嘘じゃありませんよ!ぼくが嘘をつくような人間に見えますか。
坂本 いや……
少年 ぼく、本当にあなたに憧れてるんです!この辺じゃ有名じゃないですか。詐欺師坂本五郎。
坂本 待て待て待て!
少年 ……何ですか?
坂本 ゆ、有名なのか。
少年 嘘です。
坂本 …………。
少年 近所じゃただの探偵所所長です。でもぼく知ってるんです。坂本さんが立派な詐欺師だってことを。
坂本 …………。
少年 坂本さんの被害に会った人たちに聞きましたよー。もう皆さん、見事に騙されてるんですよね。感動しました。……どうしたんです?坂本さん。
坂本 いや、ちょっと頭の整理を……。
少年 あ、大丈夫ですよ。警察に言ったりしませんから。自分の師匠を売るわけにいけませんからね。
坂本 誰が師匠だ!
少年 認めてくれないなら警察行っちゃいます。
坂本 …………。
少年 お願いします!ぼく、真剣なんです。本気なんです。
坂本 本気と言われてもね。ここは探偵所だから。こどもを雇うわけにはいかないし……。
少年 雇って欲しいんじゃないですよ。弟子入りに来たんです。
坂本 その弟子入りってのは何なんだ。
少年 坂本さんの、詐欺の技術を教えて欲しいんです。で、ゆくゆくはぼくも立派な詐欺師になりたいと思います。
坂本 駄目だ。
少年 駄目です。
坂本 は?
少年 断っちゃ駄目です。警察行きますよ。
坂本 ……ここは探偵事務所だ。君、いくつだ?
少年 16です。
坂本 学校は?
少年 やめました。
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