プツリ
第6ボタン ドラマ×ダイニング ゲキウマvol.3+@
   リーディング公演企画「プツリ」作・ながみねひとみ
   
   基本的に男と女がストーリーテラーなので本を持ち芝居をする。
   
   ―オープニング―
   
■ある日のデート 女子編。

    ―M1―

女    たぶん、私は彼を許さない。今度こそ許さない。そうだ、許してはいけない!
こんな気持ちに毎回、毎回させられて、なんで平気な顔して駅前のカフェで、いかにも楽しそうに今週あったことのアレやコレやを話さなきゃいけな
いんだ。一時間くらい前は、まだ彼に会うのが嬉しかった。
だから、きょうは、ちょっと背伸びをした。普段履かないスカートなんて
履いて、メイクも眉毛を書くだけじゃなく、ファンデもぬって、
今、流行っているとかいう「シャーベット色」のシャドーいれて、
チークなんかもして!まつ毛もあげた!あ、あと!ボディ・ミスト!
香水よりケバくないうっすら香るやつもつけた!もう、完璧。
でも、彼が駅の改札口に現れたのは約束していた時間の30分後。「ごめん」も言わず「なんか今日違うね。」とも言わず…。
男    あー。お疲れー。いこっか。
女    「いこっか…。」なぜ、そこで「なんで遅刻したの?」と聞けないんだ…私。
…30分たってでも来てくれた安心感の方が勝ったから。情けない…。
これが、本当、毎度のように続いて2年。
昨日も夜遅くまで仕事をしていたということは知っている。そのわりには、ひげもそってきてるし、コンタクトもつけてきてるし、出かける格好をしてきてくれている。でも…それって出かける!って約束したんだから当たり前の範囲だと思う…。あー…えー…もとい!確かに、私も仕事帰りに会うときはパンツだったり、スニーカーだったり、髪の毛ボサボサで、すっぴんだったりと、そりゃぁ、まぁ!普通の女子にしてみたら、女子力が低かったかもしれないけど…。遅刻を毎回、繰り返すとかはない。彼はワックスで直した寝癖を指でつまみあげながら、わりと速足で歩いていく。

男    眠い…。
女    眠い人の歩く速さではないと思うのだが…彼はそのまま駅前のカフェに
    入りカウンターのメニュー表を眺め。
男    席とっといて。俺、持っていくから何飲む?
女    と、聞いてくれた…。お金も何も言わずに出してくれる。自分の分だけで
    なく、私の分の砂糖のスティックもスプーンも、ちゃんとカウンターから
    持って来てくれる。こういうところはいいんだけどなぁ…。でも、そう
    思ったのもつかの間。気持ちが落ち着くはずのお飲み物の代表
    「カフェ・オレ」を二口飲んでやっぱり許してはいけないと思った。
    彼は眠気覚ましのブラックコーヒーを飲みながらタバコをふかし、
    フロアーの奥に座っている女子大生がキャッキャしている声に耳を傾け
    ニヤニヤしている。私のことは眼中に入っていないのが、まるわかりだ。
男    「まだ、俺も女子大生とかいけちゃうかもしれない。」
女    とか思っている。絶対に思っている!ばっかじゃないの?いけるわけない
    じゃん?「はぁ?ダサーイ、キモーイ」とか言われて凹む!そして私に。
男    若い子はもう無理だな。
女    とか、報告してくるに違いない。どうしようもない!マジで、どうしよう
    もない!
男    何、どうしたの?
女    ほら、どうした私!いってやれ、この阿呆に一言、物申してやれ!
    心の中で自分に発破をかける。「なんで30分も遅れたの?」よし!
    よぉし!いってやった!
男    …何分前の話ししてんの?
女    は?
男    過ぎたことでしょ。
女    過ぎたこと?
男    眠みぃ〜…このあと、どうするの?映画いく?俺、寝ちゃいそうなんだけど。
女    遅刻以外は別に問題ないからいいんだろうか…。デートのたびに毎回、
    毎回「もしかしたら来てくれないかも?」なんて不安になってしまう
    気持ちを抱えてる2年てどうなんだろうか…?一緒に過ごした後、一人
    部屋に戻ったら「こんな彼氏でいいのか?」なんて考えてしまうんじゃ
    ないの?また「小さいことじゃん。気にしない。」と返ってくるのはわかって
    いるけど…。私、30分も一人ぼっちで待ってたんだけど。
男    30分くらい、そのへんで立ち読みすればつぶれるでしょ?
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