激闘!ムッツリースーケベーVSグレートマユタス
明転すると、半裸の男が一人。
奇声を発しながら、激しくダンスを踊っている。
と、突然踊りをやめ、何か反省するかのように体の動きを確認し……。
また再び激しいダンスに戻る。それがしばらく繰り返される。
その場に、一人の女性が現れる。
女性、半裸の男にびっくりし、遠巻きに恐る恐る彼を観察する。
男、気づかずに奇声を発しながらダンスを続ける。
だが、女性が近づいたとき、男、女性の存在に気づく。
男、びっくりしてダンスの奇声がそのまま驚きの声に変わる。
女「何してるの……」
男「いや、これは」
女「こんなところで何してるの、って聞いてるの」
男「これは……その、ウォーミングアップです」
女「ウォーミングアップ?」
男「はい、今回の試合には、どうしても勝ちたいんです」
女「本当に?」
男「え?」
女「真剣に男バトルに勝ちたい人が、本番前にそんな激しいウォーミングアップができるとは思えないんだけど」
男「師匠……」
女「私が止めるのが後一分遅ければ、あなたは試合中に倒れていた。真剣にやっているといえば聞こえはいいのでしょうけど、あなたの行為は『男バトル』をバカにしてる」
男「俺が……男バトルを……バカにしてる」
女「……焦る気持ちはわかる。でも、もう決勝戦まであと少し。あなたがなすべきことはすべて終わったの。あとはバトルの中で、あなたが自分の持つ男っぷりを審査員に見せつけるだけ。男バトルはつまるところそういう競技なのよ」
男「すいません師匠……俺、焦ってました。なにせ決勝戦の相手はあのグレート・マユタス……」
女「試合中に突然、顔面が変化し、顔だけで男っぷりを見せつける男バトルの怪物」
男「俺の尊敬するミスタームスコボールも、マユタスに再起不能にさせられました。恥ずかしい話、今の俺はマユタスへの復讐心と恐怖にとらわれている……」
女「復讐心も恐怖も、決して恥ずべきことではない。そんな感情を、自らの男っぷりで支配する手段も、あなたは体得できているはずよ」
男「復讐心と恐怖を、男っぷりでコントロールする……」
会場中に「オ〜トコ、オトコ、オ〜トコ♪(ロート製薬ジングルの節で)」と鳴り響く。
女「時間ね。いくよ」
男「オッス!」
逆光の中、男と女、消えていく。
暗転。
ナレーション「男バトル! それは、男同士が自らの男っぷりを競い合う熱きパフォーマンスバトル! このあまりにも男くさい競技は、2044年オリンピックで導入予定だとかそうでもないとか!」
アナ「HFMプレゼンツ、北茨城グランド男バトルチャンピオンシップ、決勝戦。これより、選手の入場です」
明転するとアナが一人。
アナ「赤コーナー、グレート・マユタス!」
不吉な音楽とともに、グレート・マユタス入場。
平凡な雰囲気の男である。
客席に対して愛想よくふるまっている。
アナ「青コーナー、ザ・ムッツリースーケベー!」
さわやかな音楽とともに、男入場。
客席に大仰なパフォーマンス(作注:マユタスはこの時に、こっそりペンか何かで眉毛を足します。男のパフォーマンスに客の注意を向けると効果的になると思われます)
後ろから女。セコンドを務めるようだ。
アナ「時間は1分1ラウンドの25ラウンド制、審査員によるポイント判定……(などと試合ルールの説明が続く)」
女「体調は万全なようね。輝いてるわ、ムッツリースーケベー」
男「あのときの約束は守ってもらいますよ」
女「約束?」
男「優勝したら、リングネームを変えさせてもらいます」
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