楽しい合コン
 居酒屋に男が四人、桟敷席の長テーブルに座っている。
 四人は二人ずつで左右に分かれ、向かい合っている状態。
 片側の二人は先輩と後輩の関係である。
 後輩の方はノートを片手に持っていて、なんだか嬉しそう。
 先輩の方は、むっつりと眉をひそめてじっと座っている。
 もう片方の二人は、まったく関係がないもの同士である。
 一人はTシャツGパンの、筋肉質な男(以下、筋肉)。やはり何やら嬉しそうにしている。
 もう一人は、薄汚い作業服を着た髭面の男(以下、路上)。身じろぎ一つしない。
 四人はしばらく無言で互いを見つめ合っている。無言の状態が続く。
 後輩もしばらく嬉しそうに互いの出方を観察しているが、やがて口を開く。

後輩「いやーみんな、今日はわざわざ足を運んでくれて……」
先輩「おい」
後輩「はい?」
先輩「ちょっと待て」
後輩「もう、何すか先輩〜」
先輩「まずは説明しろ」
後輩「せつめい?」
先輩「この状況を、正しく説明しろ」
後輩「もう、先輩、メール送ったっしょ? ちゃんと読んでくださいよ〜」
先輩「読んだ。ちゃんと読んだ」
後輩「だから、そこに書いてあった通りですよ。ミーちゃんもメグやんも行けなくなったんですってば」
先輩「ああそこはちゃんと読んだ。そしてお前はそのあとこう続けたはずだ。『すぐにでも別の子を探します』ってな」
後輩「(全員に)今日は日ごろのうっぷんを忘れて、ジャンジャンやっちゃって……」
先輩「待て! 勝手に始めるな!」
後輩「もう、何すか先輩〜」
先輩「『別の子』はどこだ」
後輩「え〜?」
先輩「お前が探していたという『別の子』はどこにいる。そして、目の前にいるこの人たちは、いったいなんだ」
筋肉「私の名前は山田モリオ、趣味はウェイトリフティング……」
先輩「あっ、すいません、とりあえずこいつ(後輩)と話しさせてください」
後輩「ちゃんと探したじゃないスか」
先輩「お前、この状況で何をするつもりだ」
後輩「もう先輩! ボケないでくださいよ〜。合コンに決まってん……」
先輩「やるか!」
後輩「え〜? 先輩、俺の初合コン付き合ってくれるって……」
先輩「付き合わない! あのなオイ、確かに付き合ってやるとは言った。集めてくる女の子だって、ブスでもバカでも、ちゃんと最後まで付き合ってやるつもりだった。それが女の子ならな」
後輩「俺、今日をずっと楽しみにしてたんですよ」
先輩「俺もだよ。こんな状況だとわかるまではな」
後輩「お願いですから、ここにいてくださいよ。男の数が足りなくなるじゃないですか」
先輩「足りてるよ! むしろ多すぎる……」

 言い争いの間に店員が来ている。

筋肉「生三つとスポーツドリンク」
先輩「おい、勝手に頼むな」
筋肉「何だ、飲むんだろう? 僕はスポドリだけどね!」
先輩「……もう、しょうがねえなあ。じゃあまあどうせ暇だし、四人で飲みますか。(向かいの二人に)あなたたちも、わざわざ来てくれてごめんなさいね。こいつ(後輩)とどういう関係なの」
筋肉「駅前でお願いされたんだ。女の子が足りないんで来てくださいって」
先輩「ああやっぱガチで他人なんだ。来るあんたもあんただけどね」
筋肉「言ってる意味の半分もわからなかったけど、困っている人は助ける主義なんだ」
先輩「そっちの人も?」

 路上、しばらくうつむいているが、周囲の空気で気づいて顔を上げる。
 三人に見つめられて、明らかにうろたえる。
 路上、「自分?」と言いたげに自分を指さす。

先輩「そう、あなた。こいつに頼まれてきたの?」
路上「……寝てるところ、起こされて……腹いっぱい食いたくないかって……」
先輩「寝てるところって……駅で」
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