報赦能 『惨業鬼』
ver.1.0
報赦能 『惨業鬼』ver1.0   作:白神貴士

語り

旅人壱
旅人弐
旅人参




去る昔、陸奥国に業の深き鬼在り。これを「業鬼」と呼ぶ。
大熊に六鬼、楢葉に四鬼ありて民に怖れられ、正に追放されんとしたとき、
正力大師なる旅の僧、役人と共にこれらを岩屋に封じ、留め置けば出湯こんこんと湧きて民を喜

ばせ、
二度と恐ろしきこと起こらずと口を揃えて言う。民に小判を撒き岩屋番を申し付ける…

ある時、地、大いに震え、また潮湧きあがりて業鬼の岩屋を呑み込み
大熊に住まう内の四鬼、傷を負い身が爆ぜる程の高熱を発して倒れ、
恐ろしき目に見えぬ怨霊となりて世に迷い出たるという…
中でも最も恐ろしき煙となりて立ち昇り岩屋を瓦礫の惨状に変えた業鬼を
世の人「惨業鬼」と名付け懼るるなり。

 鬼が浜辺をあてどなくとぼとぼと歩く。


「封じられし岩屋が潰れ、風の吹くまま、吹かれるままに、あちらこちらとさ迷う毎日…
 先祖代々子孫悠久…かのような自由など天地がひくり返っても無いと聞かされて育ちしが…
 さては天地のひくり返りしか? おや、誰ぞ来たような…」

 杖をつき白い衣装に白い覆面をした三人の旅人が通りかかる。
 (彼らには鬼の姿は見えていない)

旅人壱
「やれやれ、ようようとここまで逃げ延びた…
 この辺りならば恐ろしき惨業鬼の瘴気も届くまい。
 先ずはゆるりとくつろごう…」
旅人弐
「はいはい、先ずはゆるりと腰下ろし、命の水の一口も」
旅人参
「仲良う分けて呑みましょう」

 鬼、三人に背を向け離れようとするが、ゆっくりとしか進めない。
 旅人たち、瓢箪の水を交互に飲むが、参が胸を押さえて苦しむ。

旅人壱
「どうした?しっかりせよ…」
旅人参
「胸が…胸が苦しゅうてならぬ…おう、苦しや…」
旅人弐
「兄様、しっかり…」

 鬼、思わず振り返り、倒れ掛かる参を支えようとするが
 指が触れた途端に参は崩れ落ちて事切れる。

旅人壱
「息子よ…」
旅人弐
「兄様…」
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