雨音の世界
1
明転
女、板付き
SE 土砂降りの雨。以降、常に雨の音
女 昔から傘が大嫌いだった。強い風で飛ばされそうな傘を必死に守っていると、何故だか傘以外のものが飛ばされそうな気がしてしまう。それは私の弱い心かも知れないし、僅かながらに築き上げた世界かも知れない。いずれにせよ、何かが奪われる感覚が恐かった。例え凍てつくような春時雨が降ろうが、貫くほどの篠突く雨が降ろうが、私が傘を差す事なんて滅多にない。顔にかかる雨を拭い、乱れた髪を整える。ズブ濡れで可哀想? 勝手に勘違いしとけばいいじゃない。私はそれでも前へ進む。あなた達の想像を遥かに超えるような未来に行こうと、決意しようとしている。だって、私は――、
暗転
2
明転
中央にはテーブル。男、本を読んでいる
女、下手から登場
男 君は?
女 あ、今日からここで勉強することになった――
男 あぁ、話には聞いてたよ。よろしく
女 ……え?
男 これから、よろしく
女 あ、……うん。よろしく
男 この部屋の説明とかは聞いてる?
女 ……あまり
男 君は、ここがなんて呼ばれてるか知ってる?
女 『すみっこ』。だよね? 二階のすみっこにある部屋だから『すみっこ』
男 そう。じゃあ、ここがどんなとこか知ってるか?
女 中学校の中に併設されている部屋で、学校に通えない生徒達が集まって自主的に授業をする場所
男 他には?
女 クラスに復帰する為の下準備、心の安定、コミュニケーション能力の向上を目的とする特別支援学級
男 それだけ知ってれば充分だ。要するに、そんな部屋だよ。此処は
女 先生も、生徒も、此処にあまり近寄りたくないみたいなんだけど
男 『すみっこ』の生徒は学校不適合者って思われてるからね
女 先生でもそんなこと思うの?
男 学校側もあまり問題を起こしたくないんだよ
女 私達が学校の害だと思われてるってこと?
男 そうは思ってないかもしれないけど、良く思われてないことは確かだよ
女 害とか良く思ってないとか、それはこっちの台詞よ。……ねぇ
男 なに?
女 『すみっこ』の生徒って私達だけなの?
男 ほんとは君と僕も含めて全員で5人いるんだけどね、ここは登校するのも自由だから
女 仲良くやっていけるかなぁ?
男 無理だと思うよ。ほとんど来ないし、たまに来てもゲームをしてるか寝てるかだし
女 ふーん。まぁ、でもいいや。人と関わるの苦手だし
男 ……ごめん
女 あぁ、そういう意味じゃないの。クラスメイトが。って意味で
男 そっか。じゃあ、改めてよろしく(女に手を差し出す)
女 よろしく(握手する)
暗転
3
明転
女・男、テーブルを挟んで下手に女。上手に男が座っている
女 私はね、学校に行けなくなったんじゃないの。行かなくなっただけ
男 どうして?
女 だって、授業内容が将来に役立つなんて到底思えないし、クラスメイトは精神年齢の低いガキばかりだし。それに……
男 それに?
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