オリンピック選手の筋トレ
『オリンピック選手の筋トレ』(一人芝居)

■スポーツ選手のトレーニング。
■腕立てをしている。かなり素早く。しかし、丁寧に。本格的に。
「・・・、83、84、85、86、87、88、89、90」
「ラスト10回!」
「91、92、93、94、95、96、97、98、99、200打倒シロチェンコ!」
「はー、はー、ぜはー」
「コーチ、次は何ですか?」
「え? いや、休んでなんかいられませんよ。次やりましょう」
「休んでたら、シロチェンコの奴には勝てません。休んだ分だけ、奴に置いてかれる気がするんです」
「焦ってません。焦ってるんじゃないんです・・・」
「それにコーチのトレーニング・メニューは完璧だから。上半身の次はBODYと下半身ですよね。スピード、スロー、スピード、スローの交互だから、次はスロー・メニューでしょ。今の俺にはスロー・メニューは休みみたいなもんですよ」
「はい。20回と50回を、4セットですね」
■スロー・スクワットを始める。
「1〜、2〜、3〜、4〜、オリンピックの舞台で、シロチェンコの奴に。また負けるなんて、絶対に許せない。4年前の北京の、雪辱を果たします。8〜。9〜」
「この4年間、毎日、奴を倒すことを目標に。ずっとトレーニングしてきたんです、血反吐を吐くような。トレーニングを受けてきたんです、コーチ、あなたからね、13〜、14〜」
「もうオリンピックは来月です、そう、あと3週間で開幕。俺は楽しみなんです、『ホワイトベアー』シロチェンコの奴に、俺の4年間の特訓の成果をぶつけるのが、ね。徹底した食事管理と科学的な筋力アップ・トレーニングによる、肉体改造! 毎日のドリルによる基礎スキルのアップ! 技の幅を広げて新たな武器も手に入れました〜20! キープ! 1、2、3、4、5、6、7、8、9、打倒シロチェンコ!」
「はー、はー、ぷはー」
■やや休憩。次への構え。
「はー、はー」
「はい、50回」
■腹筋を始める。素早く、左右に捻りを入れて本格的に。
「・・・、10、・・・」
■コーチ以外にもう一人、アシスタントコーチが慌ててやってきた。
■二人のひそひそ話を気にしながら。
「・・・21、22、・・・30」
■二人の会話が終わり、コーチが戻ってくる。
「何かあったんすか?」
「え!!? シロチェンコが怪我!? アキレス腱断裂って・・・マジすか!?・・・ホワイトベアーの牙が折れた・・・」
「・・・。そりゃそうでしょうけど、オリンピックどころか、シロチェンコ、年齢から言って、引退じゃないですか? そんな・・・」
「シロチェンコの奴。この4年間、どんなトレーニングをしてたんでしょうかね。俺が強くなったように、きっと奴もさらに強くなってたはず。でも、それでも、俺が勝つ。オリンピックの舞台で、4年前とは反対の結果を! オリンピックの舞台で、もう一度シロチェンコと戦って、打ち破るのが俺の夢だったんだ!」
「なんて、言うと思いましたか?」
■再び腹筋を再開。ハイペースに。
「31、32、・・・40・・・50! 打倒シロチェンコ!」
「あ、つい癖で。・・・まいったな、フィニッシュ変えないと」
「え? 休みませんって。無理してませんって。まだ1セット目ですよ。あと3セット」
■スロー・スクワットを始める。
「1〜、2〜、3〜・・・」
「コーチ。トレーニングはハードですが、コーチに一番鍛えてもらったのは、フィジカルよりもメンタルです。戦いに勝つ、勝者のメンタリティー。・・・勝てばいいんですよ。勝てればいいんですよ、何だって。金メダルさえ手に入れれば。シロチェンコがいなくなれば、俺が金メダルを手にする可能性がグッと高くなる。そうでしょ?・・・オリンピックの決勝でライバルと4年越しの対決。激闘の末に勝利!なんて、そんな漫画みたいな話は浦沢直樹の『YA・WA・RA!』だけで十分です」
「それに、世界には、シロチェンコだけじゃない。手強い奴らが五万といるんだ」
「北京大会で銅メダルだったフランスのボーボワ。4位の、トルコの・・・若手の・・・」
「ベネズエラのヴァスケスや、アフリカ勢も脅威です。ムトンボ。ボル。アジアでは韓国のパク・何とか。中国のワン・ジジ。トルコの、4位の・・・」
「シロチェンコを失ってもウクライナ勢は強い。国を挙げて強化策をとってますからね。きっと、フェセンコが出てきますよ」
「それでも、勝つのは俺です」
「それに、誰が敵かは問題じゃない。いや、それは確かに言いすぎですけど、シロチェンコは強敵でしたけど、・・・もう過去の人間です。他にも、トルコの・・・4位の・・・」
「いや、言いたい事は、最も大事な問題は、いつだって自分との戦いだってことです。自分を鍛えて、前へ進むこと。BESTを尽くすこと。言葉で言うほど簡単じゃないって、俺自身がよく分かってますよ、20!」
「キープ!1、2、3、4、5、6、7、8、9、打倒トルコ人!」
「あ、何だかトルコ人全員を敵に回しそうな言い方しちゃいましたね」
「まぁ、いいか。敵は、デカい程、燃えますからね!」
「とにかく、オリンピックはもう来月なんです。誰が相手だろうと、自分のBESTを尽くすのみです。
世界『知恵の輪』オリンピックで、金メダルを! 俺の流星のような指技で、必ず『知恵の輪』の世界チャンピオンになってみせます。」
「そのために、黙々と特訓を続けるだけです」
■腹筋を始める。2セット目。
「1、2、3、4、5〜」
■暗転。
「うあ!!痛っ!・・・っ!  足攣った、足攣った」

おわり。




作:岡野陽平(四次元STAGE)


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