猫目党、翔ぶ!

猫目党、翔ぶ!(一幕三場)
                                作・瀧澤 豚琴


        およう(瓦版屋与助)

        お佳代(芸者みゆ吉)

        ワーニャ(ロシヤの娘)

        高田屋(上方娘お麻紀)

               猫目様(黒猫稲荷本尊)
               お 幸(皇女和宮)
               西郷吉之助(隆盛)
               勤皇の志士達



第一場


  幕が開くと、舞台ほぼ中央に色の剥げかけた赤い鳥居があり、その奥にこれも些か古びた稲荷が祠ってある。
  鳥居には『黒猫稲荷』と書かれているのがかろうじてわかる。月の明るい夜である。
  舞台下手には、橋が架かかり、それがそのまま下手袖へと続いている。
  上手よりに"およう"が、頭に手拭を乗せた、瓦版売りといういでたちで、鳥居の前を行ったり来たりしている。
  時折、稲荷に手を合わせては、ぶつぶつ言っている。
  そこへ、下手の橋の上に芸者姿の"おかよ"が、現れる。


お佳代  (橋の上より川を見つめながらため息をついている)・・・・ああ。・・・・・・いい月だねえ。・・・・

およう  (おかよに気づき様子を見ていたが)てやんでぇ、これから人が死のうかって時に、のこのこ出て来や
     がって、何がいい月だい、ちきしょう。

お佳代  ・・・・ああ、お月様が大川に浮かんでゆらゆらと・・・・ほれ、あんなにきれい。

およう  ちぇっ、冗談いっちゃいけねえや。その大川に、こちとらぁこれから飛び込もうってんじゃねえか。

お佳代  ・・・・ああ。

およう  ああじゃねえよ。早く行ってくんねえかな。いめいめしい。

お佳代  ああ、お月様があたしを呼んでいる。・・・・・そんなにせかさなくったって、今行くさね。・・・・・どうせ、
     この世では、添い遂げられなかったあたし達。・・・・だけど、お前さん、何だってあたしを置いて先に
     逝っちまったんだよう。・・・・そりゃあんまりにしどい仕打ちじゃないかよぅ。(大泣きする)

およう  なんだい、雲行きが怪しくなってきちまったね。

お佳代  (思い直したように、帯の間からひもを出し、自分の足をしばりながら)今、今行くからね。・・・・
     お前さん、あんた、若旦那、今行きますからね。待ってておくんなさいねぇ。(橋の上から飛び込も
     うとする。)

およう  (慌てて止めに行く)ちょ、ちょっと待ちねえ。

お佳代  (おように気づき)止めないで。

およう  ま、待ちねえな、姐さん。

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