我が懐に桜来て散る
筑田周一作
「わが懐にさくら来て散る」
配役
山川登美子
与謝野鉄幹(寛)
与謝野晶子
カラス
増田雅子
おさき
山川貞蔵
山川駐七郎
日本女子大学学長
暴漢1
暴漢2
○一場 明治三十七年五月、渋谷村・新詩社(与謝野宅)客間(午後)
表戸を開ける音。
カラスの声 「ごめん。新詩社とはこちらかな?与謝野鉄幹殿のお住まいはこちらだろうか。」
おさきの声 「はーい。」
カラス(30)が部屋に入ってくる。全身黒い服を着ている。部屋を見回す。後ろから家政婦のおさき(17)が声をかける。
おさき 「ここでお待ちください。」
カラス 「突然申し訳ない。鉄幹殿はお仕事中だったか。」
おさき 「ただいま、およびして参ります。…お名前を…。」
カラス 「カラス。そう言ってもらえばわかる。」
おさき 「(頭の先からつま先まで見て)…確かに。少々お待ちください。」
カラス、座る。おさきが部屋を出る。鉄幹(30)が現れる。
鉄幹 「カラス!…お前なのか?」
カラス 「虎の鉄幹!」
鉄幹 「(苦笑いして)よせ。いつ以来だ。」
カラス 「大陸で別れてからだ、もう7年か。」
鉄幹 「…変わっていないな。」
カラス 「お前の噂は、向こうでも聞こえてきたぞ。今や明星派の領袖だとな。」
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