芝居がピー音で台無しになった一つの例
-鬼ごっこ、人ごっこ。ver.‐
『芝居がピー音で台無しにななった一つの例』
監督の声「この物語は、鬼と人の物語である」
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女 「――あれ? 君、まだ人間(ニンゲン)を食べてなかったんだね」
昴 「帰れよ。もう用はないんだろ」
女 「あーあ、君、ほんとにいらない奴だね。もうすぐ死んじゃうんだね。つまらないね」
由 「なに? ――どういうこと?」
女 「お嬢さんは――知らなくて当たり前か。教えてないんだね。
彼は、昴はもうすぐ死ぬんだよ」
由 「なに、それ」
昴 「もういいだろ、帰れよ」
女 「というか、まだ生きてたの?って感じだけどね」
「こいつ、人を喰ってないだろ?臭いでわかる。こいつからは人間の血の臭いがしない。この犬と違ってね」
由 「だから、どういうことなの?昴が、死ぬ?」
昴 「ユキ、こいつの話を聞くな。頭がおかしくなる」
女 「こいつは鬼だ。鬼は人を食べるんだよ。それなのにこいつは、ずっと人間を食べてない。
私と一緒にいるときからずっと食べてないんだね。
人間の血肉を受け付けなくなって、もうずいぶん経つが……まだ治らないんだね」
昴 「うるさい」
由 「にんげんを、たべないと、しぬの?」
女 「そうだよ」
由 「どうして?」
女 「だってそうだろ? 肉食動物が植物だけを食べては生きられない。
それと同じさ。人間しか食えぬ者が人を喰わずして生きられる道理はない。
どこかで無理や歪みが生まれてくるのは当たり前。
彼はもう、とっくの昔に、狂っている」
由 「くるってる?」
女 「言ったろ? 人間を喰わなくなった鬼は、もはや鬼ではない。そんなモノは興味の対象外だよ。
もう一度言ってやる。君、もういらない」
響 「それは違うよ。俺はずっと、会ったときからずっと、」
昴 「やめろよ」
響 「ユキを食べたかったんだ」
女 「くくく……自我を失ってもまだ他人の言葉を紡ぐか。
おもしろい、聞かせてもらおうか。狂い鬼・昴の心情」
響 「今でも、食べたいんだ、ユキを。食べたくて、食べたくて、もうどうしようもないんだ」
昴 「やめてくれ」
響 「ユキのことばかり考えてる。ユキを食べることばかり考えてる」
昴 「もういいだろ」
響 「食べたいんだ、君を」
昴 「もう、楽になってもいいだろ?」
間。
昴 「がまんしてたんだ、ずっと。俺は出会った時からずっと、ユキのことを食べてしまいたかったんだ。今も!」
昴・響「その柔らかい肌に舌を這わせて、味を楽しみたい。君の体臭を味わいながら汗と唾液に濡れた
肌に牙を立てる。少し力を入れるだけで牙は君の中へと侵入していく。口いっぱいに血が溢れる。
鉄の臭いの中に、君独特の味を見つける。ごくり、ごくり、と少しずつ血を飲み干す。
ほんの少し、あとほんの少しだけ顎に力を入れれば君の柔らかな肉は裂け、骨は砕ける。
でもそんなもったいないことはしない。舌で、歯で、口で、鼻で、耳で、眼で、もっと、
もっと君を感じたい。君の生を感じたい。君の感触を、温もりを、匂いを、声を、色を、
もっと感じて、楽しみたい」
昴 「こんなに、こんなに人を、誰かを求めたことはない。
こんなに人間を食べたいと思ったことはない」
「食いたいんだ、ユキを。その白い脚も、細い腕も、綺麗な首も、小さな手も、腹も、
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