あらすじ
16歳、冬。私は家から逃げ出した。両親と初めての大喧嘩の末だった。
きっかけは何だったのか。振り返っても、
涙と一緒に言葉も溢れてしまった事ぐらいしか覚えていない。
とにかく私は制服姿のまま何故か教科書が詰まったカバンだけ持って飛び出し。そして、
「帰る場所がないのなら、私の部屋に来る?」
途方に暮れ、大泣きしながら教会に迷い込んだ私に手を伸ばしてくれたのは、同じ制服を着た女の子。
喋ったことはない。多分向こうは私の存在も知らない。
私も向こうが少し有名な上級生ということしか知らない。
けれど、どうしようもない私はその人の手を取った。手を取ってしまった。
伊藤冬子。彼女の手に、掬われてしまったのだった。
登場人物
臼井詩音(うすいしおん):高校一年生。後輩。帰宅部。
伊藤冬子(いとうとうこ):高校三年生。先輩。文芸部。
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