幻想氷炎伝
【 一 】

 日本の中世を元にした舞台。
 初夏。

 明け方に近い夜の森。
 中央には大きな石碑がある。
 霧が出て、草木が風に揺られる音と虫の鳴き音が聞こえる。
 やがて草を分ける足音がする。
 正吾郎が燈を持ってやって来る。

正吾郎「嗚呼、何も変わってない」

 正吾郎、石碑の前に立ち、おじぎをする。
 石碑の脇に燈を置く。

正吾郎「雪姫様、ご無沙汰しております。長らく来れなくてすみません。
私の努力も虚しく、民俗学会ではやはり、迷信や逸話の類となってしまいました。
いえ、諦めた訳ではございません。この命尽きるまで、私は説い続けます。
…ですが、実際、証拠を提示出来ない事が一番悔しい。私の記憶こそが真実なのに。
けれど世間というものは、それを受け入れるのに物証を求める。私の発言など、誰も信じてくれぬ。
しかし、嘆いているばかりではないのです。最近異国から、科学というものを教えて頂きました。
なんとも、様々な実験で理(ことわり)を解き、不可思議現象を論理で納得させられる。この国には無かった学問です。
今はまだ浸透してませんが、科学の力は必ず、人々を虜にするでしょう。
いずれは科学の研究をし、雪姫様達を実証させてみせますよ。貴方達がこの世に生きたのは、本当の事なのですから。
追究して虚偽になるはずがない。私が…私が必ず…」

 突然、木々のざわめきが大きくなる。
 鈴の音。
 石碑の後ろに十一人が間を空けて並んでおり、一人ずつ一瞬ごとに浮かび上がるようにライトを照らす。

正吾郎「では、皆さんを幻想大和へご案内致します」



【 二 】

 夜の街中。
 人目を避けるように、沙夏と薬実が裏路地を走る。
 薬実は何かを包んだ風呂敷を持っている。
 表の通りへ沙夏が先行し、人がいないのを確認してから薬実に合図を送る。

薬実「へっへっ、ここまで来たらこっちのもんだ」

沙夏「ああ。さっさと首を旦那に渡しちまおうぜ。今夜は良い酒が呑めるぞ」

薬実「応」

 正吾郎が走ってやって来て薬実とぶつかる。

正吾郎「うわあ、びっくりした」

薬実「びっくりしたのはこっちだ。そこを退け」

正吾郎「丁度良かった。す、少しでいいから匿ってくれ。追われているんだ」

薬実「はあ?ちょ、離せよ」

正吾郎「お願いだ。この場凌ぎでいいから」

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