いつかカブに乗って

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初演日:2014/3 作者:志野英乃
いつかカブに乗って


                    作・志野 英乃


  避難所となっている中学校、2階の教室。
  津波警報が解除になっても、2人の少年がまだ残っていた……。
  学校で唯一行方不明になっている少女は
  なぜ避難した後に津波の方へと向かったのか……。
  カブに乗ってたどる、魂のオフロード……。


   CAST
    敦史 あつし
    俊祐 しゅんすけ
    佳乃 かの


   暗闇の中、動画が流れる。

佳乃 バレンタインのお返し?
   あ、そっか。もうホワイトデー近いもんね。
   って、毎年、敦ちゃんと俊ちゃんのお返し、センスなさ過ぎ。
   だって、去年は?
   ほら、おもちの入った飴だったでしょ。
   おもちの入った飴って、レア過ぎるでしょ。
   その前は、空に上げる凧。
   女子、凧上げないでしょ、フツー。
   あたしが毎年ちゃんと手作りチョコあげてんだからさ。
   え?小4の時の?
   クロ?
   あー、クロは良かったよ。
   うん。
   クロは、最高のプレゼントだったよ。

   動画、消える。

   午前1時30分頃。

   2階の教室。

   薄暗闇の中、小さな音量でラジオが流れている。

   昨夜午後11時32分頃、宮城県沖を震源とする強い地震がありました。
   震源は宮城県沖40キロの海底、震源の深さは約40キロ。
   地震の規模をあらわすマグニチュードは7.4と推定されます。
   この地震による津波警報は先程解除されました。
   この地震による津波の心配はありません。
   各地の震度は次の通りです。
   震度6強、栗原市。仙台市宮城野区。
   震度6弱、涌谷町。登米市。美里町。大崎市。名取市。岩沼市。
   蔵王町。川崎町。仙台市青葉区、仙台市若林区……。

敦史の声 ……おい、遅いんだって、俊。
俊祐の声 ……敦史、待てよ。明かりが先に行くなよ。

   敦史、ランタンと寝袋2つを持ってやって来る。

敦史 全く……。

   俊祐、コーヒーを入れた水筒を持ってやって来る。

俊祐 危ねえ危ねえ。暗くて転びそうだっただろ。
敦史 お前、階段でつっかかってただろ?
俊祐 危うく水筒からコーヒーがこぼれそうだったよ。
敦史 お。じゃ、飲むか、コーヒー、この辺で。
俊祐 おう。
敦史 あ。
俊祐 何だよ?
敦史 ラジオあんじゃん。しかも、鳴りっぱなしで。
俊祐 え?何でまた?
敦史 さっき、ここにいた人で誰か忘れてったのかな。
俊祐 ま、そんなとこか。
敦史 よし。

   敦史、紙コップを3つ並べて、水筒からコーヒーを注ぐ。

敦史 これが俊。(俊祐に紙コップを渡す)
俊祐 サンクス。
敦史 で、これが俺の。(自分の前に置く)
俊祐 ……。
敦史 で。(3つ目の紙コップを2人の間に置く)
俊祐 ……。

   敦史、俊祐、コーヒーを飲む。

敦史 おお、この味だ。
俊祐 そうだ、コーヒーつったら、これだな。
敦史 うん。
俊祐 ……しかし、こんな夜中に、しかも学校で、コーヒー飲むとは思わなかったな。
敦史 おまけに、停電の中。
俊祐 ああ。
敦史 あ、うちの人に、今日、学校に泊まるって言った?
俊祐 さっき、言った。あ、でも、避難所の方だと思ってるよ。まさか、教室だとは思
   ってないよ。
敦史 だろうな。
俊祐 ま、どっちにしても俺の部屋、浸水して使えないから、ちょうどいいよ。
敦史 みんな2階にいんのか?
俊祐 うん。夜なんか5人でね、雑魚寝。親父のいびきがうるさいんだ。
敦史 ふーん。
俊祐 あー、でも、教室って寝ていいのか?
敦史 ま、昼間結構働いてるからさ、なしくずしに許してもらったっていうか、あの狭
   いスペースにいると姉貴とケンカになったりするからな。
俊祐 ケンカか。
敦史 ああ。ま、校長室や保健室で寝てる人もいるからね。
俊祐 そっか。
敦史 寝袋2つ用意しといたから。眠くなったら。
俊祐 うん。

   敦史、立って窓の方へ。

敦史 咲くのかな?
俊祐 え?
敦史 一度海水に浸かったからよ。
俊祐 ……。
敦史 ……。
俊祐 ……桜か。
敦史 ……。
俊祐 もうそんな季節か……。
敦史 もうそんな季節だよ……。

   俊祐も立って窓の方へ。

   敦史、俊祐、コーヒーを飲みながら、しばらく外を見ているが。

俊祐 ……しかし、いつまでたっても、行方不明って……。
敦史 ……。

   敦史、飲み終わって紙コップをつぶして、バスケのフリースローみたいにゴミ箱
   に投げる。

俊祐 ……死体になってたら海の底かな?
敦史 ……死体って言うなよ。
俊祐 ……。

   遠くで救急車のサイレンの音。

敦史 ……。
俊祐 ……。

   敦史、俊祐、戻ってきて座る。

   救急車のサイレンの音、遠ざかる。

俊祐 ……何か映画館みたいじゃね。
敦史 え?
俊祐 この暗い中、いる感じ。
敦史 ……。

   俊祐、飲み終わって紙コップを置く。

敦史 そういえば、1回だけ3人で映画見に行ったな。
俊祐 ああ。わざわざ仙台まで行ってな。
敦史 ……。
俊祐 ポップコーン、両側から2人で手伸ばして食ったらさ、映画に集中できないじゃ
   ない、ってキレてたな。
敦史 お前がまた、佳乃のひざの上にポップコーン、ボロボロ落としたりするからだろ。
俊祐 ははは。そうだった、そうだった。
敦史 ……。
俊祐 ……何か懐かしいな。
敦史 ……。
俊祐 ……何かすげえ昔のことみたいに思えるよ。
敦史 ……。

   敦史、ラジオのスイッチをひねる。
   災害のニュースから、民謡に変わる。

俊祐 お。
敦史 ……。
俊祐 久し振りに民謡聴いた。
敦史 ……。
俊祐 新相馬節か。
敦史 ……。

   民謡を聴く2人。

俊祐 何か呑気でいいな。
敦史 ああ。
俊祐 佳乃、たまに口ずさんでたな。
敦史 ……。
俊祐 ナンダコラヨト、ハ、チョーイチョイ、とか。
敦史 ……。

   遠くで犬の鳴き声。

敦史 あ。
俊祐 え?
敦史 いや。
俊祐 何だよ?
敦史 クロのわけねえよな、って思ってさ。
俊祐 え?
敦史 ほら、さっきの犬の鳴き声。
俊祐 ああ。
敦史 ……。

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