黄昏に還る 完全バージョン
「黄昏に還る」
                         作 結城 翼
                        第12回高知県高等学校演劇祭高知追手前高等学校演劇部上演台本

★キャスト
マルコ・・・レプリカント。礼子の半分。
鬼堂礼子・・人間。レプリハンター。マルコの半分。
猫・・・・・レプリカント。臓器農場からの脱走者。
遺伝子管理局局長・・・・人間。人間の種の保存のためには何でもやるマキャベリスト。
同公安三課課長・・・レプリによるレプリ管理の責任者。カードの家を造る趣味。
夢紡ぎの婆(新城操)・・・公安三課潜入捜査官。
松桐桜刑事・・公安三課刑事。脳天気。
猪鹿牡丹刑事・・  〃
賭け屋・・・・・・・元臓器農場の創設に関与した医師。今はしがない賭け屋。
茶店の女・・・・・・その女。
酔いどれ天使・・・廃棄された研究所に住み着いている。元管理局長。
礼子の父・・・・第一次レプリ動乱で殺される。
礼子の母・・・・  〃
公安課員A
    B



☆プロローグ

        階段が辛うじて見分けられる広場がある。ゴミや廃棄物で荒廃しきっている。サーチライトが時折走って行く。
        全体にスモークが立っている。その中でレプリたちが奇妙なリズムで踊っている。
        救急車の音や非常サイレンが微かに聞こえる。爆発音が聞こえたり、人影が走り去ったりするがレプリたちは踊り続ける。
        サーチライトが一渡りまた照らしたと思うと、結構激しい爆発音と、軽やかな機銃音。
        逃げまどうレプリたち。やがて争乱が静まれば小高いところに、戦闘服らしい人影が一人じっとあたりを見ている。
        手前に、ぼんやりしたトップサス。その光の中にトランプ占いをしている後ろ向きのマルコ。

マルコ:たとえば闇の中に浮かぶ取り留めもない硝子玉。ゆっくりと現れては消え、消えては輝く。まるで僕の記憶のように寄せては返す波のなか、    遠く潮騒の中から呼びかける声がある。幾重にも重なった塔の中にひっそりと輝く窓がある。透明な硝子の窓の中では、くるくると回る日傘    に夏の日が輝いて、つややかな黒い髪と白いうなじがこぼれ僕は言葉を失ってしまう。日傘は吹き渡る風に揺れ、その人は僕を振り返る。声    かける暇もなく、強い力が僕をさらい情景は急速にセピア色にあせて僕の手の中で形を失う。僕は満たされぬままその人の顔を思い浮かべよ    うとするのだが、僕の努力をあざ笑うかのようにすべては深い、深い夜の闇の中にゆっくりと沈んでしまう。なすすべもなくたたずむ僕を、    いつかその人に会うのだという確信がゆったりと包む。僕はそうしてまた心地よいまどろみに身をゆだねるのだ。
        
        日傘の女がゆっくりと横切ってゆく。めまいのするような音とともに、夢は崩壊していく。
        局長がやってきた。

局長 :また、占ってるね。
マルコ:どこにいるかと思って。
局長 :そんなことで分かるのかな。
マルコ:ああ、僕の半分だもの。僕がこうする時、(カードを取る)こういう風に切る。多分、僕の半分もどこかできっとこう切っている。あっ、ハ    ートのQだ。ハートのQ。・・女王だよ。
局長 :ほう。
マルコ:僕たちは蜂と同じだね。さしずめ、こいつは女王蜂。

        カードをとばす。

局長 :(カードを拾って)なぜ?
マルコ:果てしなく卵を生み続ける女王蜂。僕たちは働き蜂かな。後から後から同じような僕が生まれる。だけど、僕はいつだって半分だ。誰かの遺    伝子から生まれた、誰かの半分。
局長 :レプリカントとはそうしたものだろ。人間とは違う。
マルコ:だから、繰り返し、夢を見る。
局長 :君は特別だ。
マルコ:そうだね。ふつうのレプリは夢を見ないもの。けど局長は見るんだよね。
局長 :ふつうの人間だからね。
マルコ:不公平だね。
局長 :マルコはどんな夢を見るんだ。
マルコ:僕の半分の夢。
局長 :いつもかい。
マルコ:そうだよ。自分が誰かわからないっていやじゃない?僕は会いたいんだ。僕の半分に。
局長 :君はその気持ちが強すぎる。私たちは心配しているんだよ。せっかく特別な力を持ちながらこのままだと君は壊れてしまう。
マルコ:だから、僕は封印したんじゃないか。
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