補陀落追想
【場所は日本の地方都市。道端で女性が一人、懊悩に身を捩っている】



来訪客「(溜め息) どうしよう~どこに置いて来ちゃったんだっけ……どうしてこういう時って前後の記憶が曖昧になっちゃうのかなあ……はあ~……」



その近くを通りかかった男性、見知らぬ人間が派手に独り言を呟いてるのを見とがめて、思わず足を止める】



店長「あのう……。」

来訪客「ううん……。」

店長「…・・・あのー?」

来訪客「(まだ一人でぶつくさぼやいている)」

店長「……あのっ!」

来訪客「は、はいっ?な、何かご用ですか?」

店長「はい、先程から道端でうんうんうなっているのが見えたから、何かあったのかな、と。どうかしましたか?」

来訪客「(知らない土地で不測の事態が起きたので不安で半泣き)は、はい~実はその、この辺で落し物をしちゃって……いえ実はこの辺かどうかもアヤフヤなんですけど……」

店長「ははあ、そんなに大切なものでしたか。」

来訪客「はい。無くしちゃったら自分の中であまりに情けないというか、申し訳ないというか……。」

店長「分かりました。よかったら、私も一緒に探しますよ。」

来訪客「ありがとうございます。でも、いいんですか?ご用事とか……。」

店長「大丈夫ですよ。それで、何を落としたんですか?」

来訪客「えーとですね、なんというかこう、緑っぽい色のスベスベしてツルツルした布でくるんであって。中身はお洋服だったんですけど……。」

店長「緑っぽい色の布……布……袱紗(ふくさ)の事ですか?」

来訪客「あー!はい、そうです。多分!それです!」

店長「多分って……んん?(はっと思い出す)ああ~、それってあなたのだったんですか!」

来訪客「ふぇっ?知ってるんですか?」

店長「ええ、(ちょっと言いにくそうに)仰っていたような品物がさっき駅のホームに落ちていたので、駅前の交番に届けておきました。すぐ分かると思いますよ。」

来訪客「よ、よかったぁ~本当にありがとうございました。」

店長「いえ、見つかってよかったですね。まあ普通はそんな簡単に落っことしたりはしないはと思いますけど……ね。駅の改札出て一分足らずとか……。」

来訪客「うう……以後気をつけますぅ。いつもはここまでひどくは無いつもりなんですけど……。」

店長「ふふっ、そうですね。慣れてない土地に急に来て緊張すると、ポカしちゃいますよね。」

来訪客「そ、そうですよねっ。……って、私が他所から来たってやっぱり分かっちゃいましたか?」

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