チャンとクリス
【チャンとクリス】


        某店内。
        センター上手よりには、テーブルと椅子二脚。
        明転すると、社員の木村と、ベテランウェイトレスの伊藤。
        木村、履歴書を見ている。
        
木村 「…本当に大丈夫なの?」
伊藤 「はい?」
木村 「だから、この二人」
伊藤 「たぶん…。店長の推薦ですので心配はないかと」
木村 「田中さんの? どういうこと?」
伊藤 「以前、お店で知り合ってどうのこうのと…」
木村 「お店? どこの?」
伊藤 「さあ…」
        
        下手から、ノート(ジャポニカ)を持ち、何やら話しながら入ってくる異国の研修生、チャンとクリス。
        
クリス「目、腫れてないか?」
チャン「少し腫れてる。男に殴られたのか?」
クリス「殴られてないよ。寝不足よ。テレビ観てた」
チャン「またMXテレビか?」
クリス「違う、千葉チャン」
チャン「やべ、チョー熱いじゃん」

        チャン、木村と伊藤がジッと見ているのに気付く。

チャン「やべ、もっと熱い視線発見。チョー見てる」
クリス「ホントだ」
チャン「クリスがもたもたしてるからだ」
クリス「チャンちゃんだってサイダー一気飲みしてゲップが止まらなかったじゃない」
チャン「サイダーじゃない! スプライト! 目やに付いてるぞ」
伊藤 「お二人さん、準備はいいかな?」
チャン「いいぞ」
クリス「待たせた」
伊藤 「じゃあ、今から研修を始めます。こちら、社員の木村さん」
チャン「あれ? (辺りを見渡し)いない」
伊藤 「あ、店長は今日、お子様が生まれるということで、病院に行ってます」
クリス「え? あの人、女だったのか?」
伊藤 「子供を生むのは店長の奥様よ」
クリス「なんだ、奥様の方か。ビックリした。(チャンに)ね」
チャン「そんなお前に私はビックリだ」
伊藤 「その代わりに、本社から木村さんが来てくださいました。で、私は伊藤と言います」
チャン「私はチャンです」
クリス「クリスです。二人合わせて、クリスチャンです…やばい、ウケない。昨夜、一生懸命考えたのに」
チャン「千葉チャン観ながらか?」
クリス「そん時はテレ東」
チャン「東京と千葉を行ったり来たりか。そういうのを京葉道路っていうんだ。…今の書いときな。笑うとこだから」
クリス「(木村たちを指し)笑ってないよ」
チャン「カッコして地域限定と書いときな」
クリス「(ノートに書きながら)ネタ、こっちのが良かったかな」

        チャン、ノートを覗き込み、笑う。

チャン「(笑いながら)ケイン・コスギは廊下走らないよ。真面目だもん。上履きの踵も踏まない」
木村 「(咳払い)始めていいかな?」
チャン「いいぞ」
クリス「レディゴー」
木村 「あなたたち二人は、まず、この店のホールを担当していただきます。ホールはいわば、お店の顔といってもいいくらい重要なお仕事です。お客様に対して心のこもったサービス、適切な応対、マナーなど、この店で働くにあたって大切なことを今日は研修していきます。よろしいですか?」
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