あとの祭のまえ

(あとのまつりのまえ)
初演日:0/0 作者:松本隆志(:Aqua mode planning:)
   【目覚ましの音】
    男、目覚める。

男  寝坊だ! またやらかした。目覚ましを三つもかけてるのにどうして僕は起き
   られないんだ。三つじゃ足りないのか? 四つにすればいいのか? それでも
   起きられなかったらどうしよう。五つになって六つなって、いつか僕の周りは
   目覚ましだらけになってしまうのか。そんな状態になったら秒針の音がうるさ
   くて眠れなくなるじゃないか。と思ったけど秒針がなければ済む話か。よし、
   今度買う時計はデジタルのやつにしよう。寝坊の原因はなんだ? 深夜アニメ
   を見たからか? 正直そこまで面白かった訳じゃないんだ。でも見ちゃう。あ
   の時間帯にアニメを見るという行為そのものが好きなんだ。酒やタバコの背徳
   感に近いかもしれない。やった事ないから知らないけど。って、僕は何を落ち
   着いているんだ! 学校に行かなきゃ。

    男、動き出す。

男  朝ご飯を食べる時間はない! とにかく急いで着替えて家を出よう。行ってき
   ます! 重い! 起きたばかりで走ると体が重い! 気持ちの上では百メート
   ルを十秒で走りたいんだ。九秒は流石に無理だと思う。石田さんちの前を通り
   過ぎる。絶対に犬が吠える。黒くて大きいやつ。昔から飼われてるけど名前は
   知らない。聞いたかもしれないけど忘れた。工場の脇を抜けて国道に出る。後
   はひたすら真っ直ぐだ。左手に更地が見える。コンビニになるんじゃないかっ
   て噂だ。この町にはまだコンビニがない。出来たらここでジャンプを買おう。
   もしかしてちゃんと月曜日に買えるのか…!? この辺じゃ駅前の本屋だって
   火曜日発売だ。走る。走る。ひたすら走る。ミートセンターの川を越える。ミ
   ートセンターは豚肉を加工する工場で、絶えず豚の鳴き声が聞こえる。日によ
   っては吊るされた豚の姿が見えたりもする。電気ノコギリで真っ二つにされた
   やつだ。近くは酷い臭いがする。その工場からの汚水が流れる川があって、豚
   の血のせいで川の底は真っ赤か。近所の子供は呪いの川って呼んだりして、近
   付いた奴はばっちぃって言いながら結構みんな隠れてこの辺で遊ぶのが好きだ。
   学校まではあとちょっと。坂を上る。ここがいつもきついんだ。あぁ、乳酸が。
   乳酸が僕の体を支配する。信号が赤。はぁはぁ。絶対寿命が縮んでる。青!  
   NTTの社宅を過ぎる。ここには同級生がたくさん住んでいる。それの向かい
   にこばたけマンション。ここにもたくさん住んでいる。左に曲がる。もう少し!
   あと百メートルもかからずに校門! こっちは正門じゃないから先生はいない。
   このまま教室に滑り込む!

   【始業ベルの音】
    教室。先生。

先生 今日の欠席は…
男  はい! います! おはようございます!
先生 うん。おはよう。それじゃ、まず昨日の宿題を回収するぞ。
男  え? 宿題…?
先生 忘れたのか?
男  いや、その…。
先生 どうした?
男  先生。
先生 ん?
男  宿題って何ですか?
先生 何?
男  僕には覚えがありません。他のクラスで出したんじゃないですか。
先生 そうだったか?
男  先生、勘違いしてませんか?
先生 そうか。
男  そうですよ。
先生 そうか。
男  あは、あはははは。
先生 はははは。そんな訳ないだろ。廊下に立ってろ。
男  はい。

   【暗転】
      
   【目覚ましの音】
    男、目覚める。

男  寝坊だ。寝ながら学校に行った夢を見て、起きて自分がまだ家にいるのに気が
   付くと物凄い損をした気分になる。実際には何も損はしてないんだけど、気分
   の上での話。病は気から。人は気分で幸せにも不幸せにもなれるなぁ。なんで
   今更学校に行く夢を見たんだろう? あの頃だったら実家暮らしなんだから家
   族が出て来なきゃおかしいじゃないか。あと教室に生徒が一人だったな。おか
   しいだろ。って、オレは何を落ち着いているんだ! 会社に行かなきゃ。

    男、動き出す。

男  朝ご飯を食べる時間はない! とにかく急いで着替えて家を出よう。行ってき
   ます! 重い! 起きたばかりで走ると体が重い! 昔より重くなってる気が
   する! 運動不足だからなぁ。週末に寝て過ごすのは辞めよう。フィットネス
   クラブで汗を流すんだ。入会金は無料でもきっとその後が高くつくに違いない。
   あぁ、でも綺麗なお姉さんとの出会いとかもあったりするんじゃなかろうか。
   ないなー。そこであるくらいだったらオレにはもう彼女がいるはずだ。

    電車。たくさんの人。

男  乗ります! 乗りまーす! 

    ぎゅうぎゅう。

男  この時間帯は混むって分かってるんだからもうちょっとどうにかしてくれない
   だろうか。本数を増やすとか車両を増やすとか。車両を増やしたらホームに入
   り切らなくなっちゃうか。いや、ともかく。会社に着くまでに一日のやる気を
   ここで失っちゃう。他の人はどうかしらないけど、オレは今の時点でもう八割
   くらいは失っている。それさえなければもっと良い成績を残して評価されてる。
   はずだ。


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