実録・ケイタイ前説
「実録・ケイタイ前説」 作:白井秋

登場人物
            A
            B

A    ねぇねぇ、ここでいいのかな?
B    いいんじゃない?102号室(会場名)ってあったし。
A    席、空いてる?
B    この辺でいいんじゃない?
A    あー、なんかこうゆうの久しぶり。
B    普段観ないもんね、こうゆうの。
A    映画もたまに、だしね。
B    私は、映画は結構観てるかな。
A    そう?誘ってよ。
B    あー先月落語も行ったよ。今度一緒に行く?
A    落語?渋いねー。落語はいいや。わかんないもん。
B    結構面白いよー。
A    ふーん。私この前、アレ観たよ。
B    アレ?
A    ほらアレ、映画の。
B    そのヒントでわかったら超能力者だわ。
A    ホラあのー、音楽のー…
B    ああ、アレ?、あの漫画の?
A    そうそうそうそう!
B    どうだった?
A    映画はさぁ、まあまあだったんだけどさ。
B    どしたの?
A    誰かのケイタイが鳴り出したのよ。
B    あー、鳴るね。
A    ねー、必ず一回は鳴るよねー。
B    うん、鳴るねー。
A    でさー、その人、「はい、もしもし」って。
B    出たの!?
A    うん、出た。
B    始まってたんでしょ?
A    そう。で、「今、映画観てるのー。」って。
B    信じらんない。若い子?
A    ううん、声は若いとは言えなかったなぁ。
B    今時いるんだね、そういう人。
A    もう、そこで私、イライラっとキタんだけど、なんとか我慢したワケよー。
B    へー、我慢できるようになったんだー。
A    大人でしょ?
B    どうだろ?
A    それがさ、クライマックスでもう一回鳴り出したし。
B    えー?その人、最初の時に電源切らなかったの?
A    切らなかったから鳴ったんだろうねー。しかもまた出たし。
B    うわ、どうしようもないね。
A    「こっち、もうすぐ終わるからー」だって。
B    アンタ、我慢できたの?
A    まさかー。
B    怒鳴った?
A    そんな、他の人の迷惑になるような事しませーん。
B    なにやったの?
A    フッ。呪いをかけてやった。
B    呪い…
A    あの人がケイタイをトイレに落としますようにって。
B    アンタねぇ…
A    ま、あの人が超スゴ腕の外科医でさ、緊急連絡が来るかもしれないってんならしょうがないけどさぁ、でも…

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