プラネット・ラプソディ

(ぷらねっと・らぷそでぃ)
初演日:2003/2 作者:川村武郎

 プラネット・ラプソディ

          作 川村武郎



 〈登場人物〉

    ヤマダ  
    イシタ
    マスター 
    オキヌ
    ユウコ  
    サヤカ  
    ジョージ 
    メアリー 

    出入星管理局員
    黒子





        暗闇の中に、三人の男の後ろ姿がぼんやりと浮かび上がる。
        男たちは、銃を持っている様子。

男1  我々は、出入星管理局だ!
男2  今、ミロを飲んでいた者は、全員こっちへ並べ!
男3  早くしろ!
男1  壁に手をついて、さっさと並ぶんだ!
男2  お前と、お前もだ。無駄な抵抗をするとためにならんぞ。
男3  しゃべるな! 黙って我々の指示に従うんだ。
男1  よーし。それでは、この中で、移星人登録証を持っている者は提示せよ。
男2  確認するから、はっきりと見せろ。
男3  よーし。席へ戻れ。
男1  忘れた? どこに? いい加減な言い訳をするんじゃないぞ。‥‥話は後で聞いてやる。とにかくここに残ってろ。
男2  ない? 不法移星人だな。ここに残れ。
男3  お前もか? よーし、残れ。
男1  帰ってよし。
男2  これは期限切れだな。‥‥残れ。
男3  帰ってよし。
男1  こら、何をする! 抵抗するな!

        銃声!
        静寂。

男2  ‥‥心配するな。足を撃っただけだ。‥‥お前たちも、馬鹿なことを考えると、痛い目にあうだけだからな。
男3  よーし、それでは、ここに残った者は、全員、出入星管理法違反の疑いで取り調べる。順番に並んで、店の前のトラックに乗れ。
男1  おい、誰か、こいつに肩を貸してやれ。‥‥手間ばかりかける野郎だ。
男2  邪魔したな。‥‥それでは、皆さん、どうぞ、ごゆっくり。

        男たちは、靴の音を響かせて去って行く。

        暗転。

        トラックが走り出す音。

        中島みゆき「地上の星」。
        ステージ中央の男にライト。

男  プロジェクト・エーックス!(エーックス・エーックス・エーックス‥‥一人エコー)

男  西暦2103年。
   地球の人口は既に100億を超えていた。
   食料や資源の不足が深刻な問題になっていた。
   その対策として、先進各国は、地球外惑星への移民を本格的に開始した。
   それと同時に、地球への資源の調達も行なった。
   いわば、宇宙規模での植民政策である。
   だが、地球人にも誤算があった。
   数多くの異星人たちが、半ば難民として地球に定住してしまったのだ。
   一番数の多かったのは金星人だった。
   金星人は貧しかった。
   見知らぬ土地で、暮らしを立ててゆくには、懸命に働くしかなかった。
   金星人は、職種を問わず、がむしゃらに働いた。
   だが、そのことが、地球人たちとの間に摩擦を生むこととなった。
   金星人は思った。
   一生懸命働くことがどうして悪いのか?
   だが、彼等と地球人の間にできた溝は、思いもかけぬ深さになりはじめていた。

        暗転。







        バー「ヴィーナス」。
        雑然とした店内。
        全員が入口の方を見ている。
        マスターが雑巾で血のりを拭いている。

オキヌ    もー! なんなんだよー! あのインポ野郎たちはよー!
あたいらがいってぇ何やったっていうのんだよー!
ユウコ    ‥‥イナバさん、大丈夫かな?
サヤカ    血がずいぶん出てましたよね。
ユウコ    一人じゃ歩けなかったみたいだし。
オキヌ    ちくしょー! もう一ぺん来やがったら、キンタマ踏んづけて、塩漬けにしてやるー!
ユウコ    ‥‥ちゃんと病院に連れて行くのかな?
サヤカ    さあ?
ユウコ   さあって、それじゃ、死んじゃうかもしれないじゃん!
出血なんとかでさ。
サヤカ    出血多量?
ユウコ   そう、それそれ。
サヤカ    そうですね。
ユウコ    そうですねって‥‥。
オキヌ    卑怯じゃねぇかよ! 丸腰の人間にピストル突きつけてよー。キンタマついてんなら、堂々と勝負しやがれってんだ。あの、とうへんぼくのくそったれが!
マスター   ‥‥オキヌ  ちゃん。まあ、そう興奮しない。
オキヌ    オキヌじゃねぇ! キャサリンだよ! キャサリン! マスター、何度言ったらわかるの?
マスター   おっと、ごめん。オキヌちゃん。
オキヌ    もう! キャサリン!
ヤマダ    ‥‥奴ら、とうとう実弾を使いやがったな。‥‥これで、いよいよだな。
ユウコ    (ヤマダに)あんた、どう思う? イナバさん、病院に連れて行くかな?
ヤマダ    それはあてにならないな。
ユウコ    だって、死んじゃうかもしんないんだよ。
ヤマダ    死んだら、その時ってことさ。
ユウコ    そんなのひどいじゃん!
ヤマダ    奴らにとって、俺たちはその程度のものってことさ。
サヤカ    そんなの、人殺しじゃないですか!
ヤマダ    ああ‥‥俺たちがたとえば人間だったらな。
ユウコ    それじゃ、あたいたちがまるで人間じゃないみたいじゃん!
ヤマダ    ‥‥少なくとも、奴らにとってはな。
オキヌ    ♪闇にかーくれて生きる。
早く人間になりたーい。
‥‥って、あたいらを妖怪人間みたいに言わないでよ!
ヤマダ    妖怪人間か‥‥。まあ、当たらずと言えども遠からずってとこだな。
オキヌ    何すまして気取ってんだよ! あんた、そういうところが気に入らねぇんだよ。
サヤカ    ヤマダさん、ちょっと言葉が過ぎると思います。イナバさんが目の前で撃たれたんですよ。評論家みたいに言わないで下さい。
ヤマダ    評論家ねぇ‥‥俺はただ、事実を事実として言ってるだけだぜ。
サヤカ    たとえ、そうだとしても‥‥。
オキヌ    もー! 頭に来た! だいたい、おしゃべりな男なんかにろくな奴はいねぇんだよ。こうなったら、力で勝負だ。一人前のキンタマついてんなら、かかって来い!
ヤマダ    あいにく俺は、女とはケンカをしない主義でね。
オキヌ    うるせぇ! そっちが来ねぇんなら、こっちから行くぜ!

                オキヌ、ヤマダに飛びかかる。
                ヤマダ、オキヌの手首をつかんで簡単にねじ伏せてしまう。

オキヌ    ちくしょー! 殺すなら殺せー! 殺せー!
マスター   おいおい、店の中でケンカはしないでくれよ。金星人同士、仲良くしようよ。な、ヤマダ君も、オキヌちゃんも。
オキヌ    (断末魔のような声で)キャサリンだって‥‥。
ユウコ    キャッシー、大丈夫? ‥‥(ヤマダに)あんた、ひどいじゃないの!
ヤマダ    成り行きだよ、成り行き。あんたも見てただろう?
サヤカ    それにしても大人気ないと思いますよ。‥‥大丈夫ですか、オキヌさん。
オキヌ    ‥‥だから、キャサリンだってば!
ヤマダ    フー、みんな俺が悪者か‥‥。男はつらいねぇ。
オキヌ    ‥‥マスター、バーボンもう一杯ちょうだい。
マスター   オキヌ‥‥キャサリン、ちょっと飲み過ぎだよ。
ユウコ    そうだよ、キャッシー、今日はちょっと飲み過ぎだよ。お冷やにしといたら?
オキヌ    やだ! バーボン! あんなことされて、飲まずにいられっかい!
ユウコ    あんなことって?
オキヌ    インポ野郎のことに決まってんじゃん!
ユウコ    それって、(ヤマダの方を見て)あいつのこと?
オキヌ    バーカ、そいつはインキン野郎だよ! あたいが言ってんのは、さっき、ピストルぶっぱなしたインポ野郎のことだよ!
ヤマダ    インポとインキンねぇ‥‥。ま、おほめにあずかり、光栄です。‥‥ってとこかね。
オキヌ    ねぇ、マスター 、バーボン、バーボン!
ユウコ    しょうがないなあ。(マスター に)水割りで薄ぅくね。
マスター   ラジャー。

                バーボンができあがる。
                それをユウコがオキヌのところに持って行く。

ユウコ    はい、バーボン。ゆっくり飲まなきゃだめだよ。
オキヌ    はい、はーい。

                オキヌ、バーボンを一気に飲み干す。

ユウコ    あ、あ‥‥。
オキヌ    フー、ごちそうさま。
ユウコ    あーあ。
オキヌ    オイチカッタ。
ユウコ    もう、どうなっても知らないよ。

ヤマダ    ところでマスター。
マスター  ん?
ヤマダ    さっきので何回目だ? 今月に入って。
マスター  三回目‥‥かな。
ヤマダ    ふだんは何回くらいなんだ?
マスター  そうだなあ‥‥きちんと数えてるわけじゃないけど、少なくて月二回、多くて四回かな。
ヤマダ    去年と比べてどう?
マスター  そりゃ、増えてるね、確実に。
ヤマダ    やっぱりそうか‥‥。
マスター  何が、そうなんだい?
ヤマダ    去年の選挙。あれからだよ。
マスター  ああ‥‥そうかもな。
サヤカ    あの、選挙が何か関係あるんですか?
ヤマダ    ああ。去年の選挙で、大日本地球党が三十五議席取って、大騒ぎになっただろう?
サヤカ    ああ、そうでしたね。
ヤマダ    あれから移星人への取り締まりが厳しくなったんだ。
サヤカ    ああ‥‥。
オキヌ    するってぇーと何かい? その大日本なんとかてのが、インポ野郎なのかい?
ヤマダ    大日本地球党。
オキヌ    だから、そいつらがさっきのインポ野郎なのかって聞いてんだよ!
ヤマダ    いや、そうじゃないね。
オキヌ    じゃあ、なんなのさ!
ヤマダ    事は、そう単純じゃない。
オキヌ    何もったいつけてんだよ! あたいが馬鹿だと思って馬鹿にしてんだろ!
ユウコ    やめなよ、キャッシー。だから飲み過ぎだって言ったじゃん。
オキヌ    大丈夫、酔っぱらってなんかいませんよー。このインキン野郎が、さっさと言わねぇからだよー。
ユウコ    あんたも、あたいたちに分かるように話をしてよね。
ヤマダ    ‥‥しょうがないな。できるだけ単純に説明してやるから、よーく聞くんだぞ。
ユウコ    うん。
オキヌ    ああ。
ヤマダ    まず、初めに確認しとくが、そもそも大日本地球党ってのは知ってるか?
ユウコ    知らなーい。
オキヌ    わかんないから聞いてんじゃん
ヤマダ    お前ら、新聞とかは読まないのか?
オキヌ    読むわけないじゃん。あんなうざったいの。
ユウコ    漢字が難しいもん。
ヤマダ    テレビでもニュースはやってるだろう?
ユウコ    ドラマは見るけど、ニュースはねぇ‥‥。
オキヌ    時代劇はよく見るよ。オヤジが好きだからさぁ。
ヤマダ    フー。こりゃ、話が長くなりそうだ。‥‥(サヤカに)あんたは知ってるんだろう?
サヤカ    はあ、まあ、一応。
ヤマダ    それじゃ、よく聞けよ。大日本地球党っていうのは、超国家主義、スーパーナショナリズムの政党なんだ。
オキヌ    なんだよ、それ。わけわかんないぞ。
ユウコ    そーだ。そーだ。
ヤマダ    うるさい。黙って聞け。‥‥超国家主義ってのはな、簡単に言うとだな、「日本を日本人に取り戻せ。地球を地球人に取り戻せ。」って主張をしているんだ。
オキヌ    バッカじゃないの? 取り戻すも何も、日本は日本人のものだし、地球は地球人のものじゃん。
ユウコ    そーだ。そーだ。
ヤマダ    フン‥‥果たしてそうかな? ‥‥(サヤカに)あんた、どう思う?
サヤカ    それは、移星人問題についての話ですか?
ヤマダ    その通り。ご名答。
オキヌ    なんだよ! 二人で勝手にわかんなよ!
ユウコ    そーだ。そーだ。
ヤマダ    つまりだな、今の日本は日本人だけのものじゃないし、今の地球は地球人だけのものでもないってことだ。
オキヌ    それじゃ、誰のものなのさ。
ユウコ    そーだ。そーだ。
ヤマダ    それじゃ聞くが、お前らは何者だ?
オキヌ    キャサリン!
ユウコ   ユウコ  !
ヤマダ    ‥‥。話にならんな。‥‥質問を変える。お前らは何人だ?
オキヌ・ユウコ    金星人!
ヤマダ    そうだ。そして、ここはどこだ?
オキヌ・ユウコ    バー「ヴィーナス」!
ヤマダ    ‥‥‥。(頭を抱える)

                イシダが入ってくる。

イシダ    ここは、日本で、そして地球です。‥‥そうですよね。
マスター   ああ、いらっしゃい。
ヤマダ    聞いてたのか?
イシダ    ええ、大きな声だったから。‥‥あれ、イナバさんたちは、今日は来てないんですか?
ヤマダ    ♪異人さんに連れられて行っちゃた。
イシダ    え?
オキヌ    クソインポ野郎どもがさらって行きやがったんだよ!
イシダ    はぁ?
サヤカ    出入星管理局が取り締まりに来て、連行していったんです。その時、イナバさんは足を拳銃で撃たれて‥‥。
イシダ    ああ、そうだったんですか。それは大変でしたね。‥‥それでイナバさんは?
サヤカ    わかりません。
イシダ    そうですか‥‥。だんだん取り締まりが手荒になってきましたね。
サヤカ    そうですね。
マスター   イシダ君は、いつものやつでいいのかな?
イシダ    はい、お願いします。‥‥ところで何の話だったんですか?
ヤマダ    大日本地球党と移星人取り締まりの関係について。
イシダ    ああ。
オキヌ    ああって、あんた分かってんの?
イシダ    まあ、ひととおりの常識程度は。
オキヌ    常識程度って‥‥それじゃまるであたいらに常識がないみたいじゃん!
ヤマダ    その通りなんだから仕方がないぜ。
オキヌ    もー、頭に来る! このインキン野郎!
ヤマダ    ‥‥それじゃ、もう、この話はおしまいにするか。
ユウコ    えー、そんなのずるいよ。全然わかんないじゃん。話し始めたんなら、途中でやめんなよ。
ヤマダ    聞きたいのか?
ユウコ    うん。
ヤマダ    それじゃ、もうちょっとおとなしく聞くんだな。約束できるか?
ユウコ    ‥‥うん。
ヤマダ    (オキヌに)お前は?
オキヌ    ‥‥ああ、わかったから、とっとと話せよ。
ヤマダ    つまりだな、今、地球や日本には、俺たちのような宇宙人が数多く入り込んでいる。だから、その宇宙人を追い出して、地球や日本を取り戻せ、って言ってるのが、超国家主義、スーパーナショナリズムだ。
オキヌ    そんなの自分勝手じゃんかよ! あたいらはどうすんだよ!
ヤマダ    そんなことは、奴らには知ったことじゃない。奴らにとって俺たちは、敵なんだからな。
ユウコ    どうして、あたいたちが敵なのさ?
ヤマダ    俺たち金星人が、安い給料でまじめに働くからさ。
ユウコ    わけわかんないよ。どうして、それがいけないのさ。
ヤマダ    金星人が安く働けば、地球人の給料も下がる。同じ仕事をさせるのなら安上がりの金星人の方がいい。それで地球人は仕事がなくなる。仕事にあぶれた地球人は、誰を恨む?
ユウコ    うーん‥‥会社の社長!
ヤマダ    ところが、それが、俺たち金星人なんだな。
オキヌ    えー、全然わけわかんないじゃん! あたいら何もしてないじゃんか!
ユウコ    そーだ。そーだ。
ヤマダ    とにかく、それで金星人を邪魔者に思う地球人が増えてきた。その中の一番過激なのが、超国家主義、スーパーナショナリズムっていうわけだ。
オキヌ    するってーと、やっぱり、そいつらがインポ野郎なんじゃねぇか。
ヤマダ    だから、事はそう単純じゃないって言っただろう?
オキヌ    だったら、何なんだよ!
ユウコ    もったいぶんなよ!
サヤカ    ヤマダさん、私も、そこがよくわからないんですが‥‥大日本地球党が三十五議席取ったと言っても、国会の中では、まだ、少数野党なわけでしょう?
ヤマダ    ああ。
サヤカ    それなのに、どうして移星人の取り締まりが、急に厳しくなったんですか?
オキヌ    わかったー! あいつら、みんなグルなんだよ。政治家なんて、いろんなことを言ってるけど、みんな同じ穴のムジナなんだよ。

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