冬のキリギリスたちへ(30分Ver)

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初演日:2010/9 作者:ことばたらず
『冬のキリギリスたちへ』
 (30分バージョン )  

登場人物

 桐谷幸介(きりや こうすけ)ホスト
 有村佐和子(ありむら さわこ)OL
 油ノ木満(ゆのき みつる)保父
 桑原光利(くわばら みつとし)会社員
 蒲田信夫(かまた のぶお)ニート
 蝶野つみき(ちょうの つみき)アイドル
 蛍原 愛(ほとはら あい)死神


     明かりが点くと、そこは夜行バスの中。
     舞台構造は上手に3席。通路を挟んで下手に3席。
     下手の窓際の席に座っている蝶野つみき、帽子を深く被り窓の外を見つめている。
     下手の通路側の席に座っているスーツ姿の桑原光利、うとうとと眠っている。
     つみきをチラチラと見ている蒲田信夫、下手の真ん中に座っている。
     上手の通路側の席の油ノ木満、上手の真ん中の席に座っている有村佐和子の肩に頭を預け眠っている。
     ホスト風な桐谷幸介、上手の窓際の席に座り携帯電話で話している。


桐谷 (携帯で)もしもし、今、夜行バスの中でさ、明後日なら店にいるから。うん。
    あ、そうだ、今度ドンペリ抜いてよドンぺリ。
佐和子 あの、静かにしてもらえません? 
桐谷 (無視して)ナンバー1になったあかつきにはたっぷり礼はするからさぁ。
佐和子(強引に携帯を奪い切る)
桐谷  なにすんだよ!
佐和子 静かにしろっていってるのよ! 他にお客さんがいるのよ!
桑原  キミ、静かにしてくれないか?
佐和子 私は注意しただけです!
桑原  その声がキンキンキンキン頭に響くんだよ。

     つみき、窓を開ける。

桑原  おい、排気ガスが入るだろ。
つみき 好きなのトンネル。
桑原  どうしてもこうも自己中が多いんだっ。

     間

つみき 光った。
蒲田  え?
つみき ほら、トンネルの出口付近。
蒲田  雷?
つみき 違うんじゃない?

     SE 爆発音。車がスリップする音。
     叫ぶ乗客。
     暗転
     SE トンネルが崩れる音
     静寂。
     暗闇の中、台詞が聞こえる。

桐谷  いてて、くそ、どうなってんだよ……。
桑原  おい、誰か明かり!
蒲田  それなら携帯を。

     全員、携帯を出して開ける。
     光が6つ。

桐谷  運転手! 何があった!
佐和子 なんだこれ。ベトベトしてる。
蒲田  う、うわっ!
桐谷  どうした!?
蒲田  だ、誰かいます!
桐谷  なんだと!?
    
     全員で人の気配がある方向に携帯を照らす。
     SE パチンという指を鳴らす音。
     半明転
     学生服(なんでもOK)を着た蛍原愛が立っている。
     愛の横にはホワイトボード。
     ホワイトボードには6人の写真が張られている。

つみき あなたは?
愛   初めましてキリギリスのみなさん。私は死神の蛍原と申します。
   
     静寂。
     お互いをみる6人。
     やがて大爆笑。

佐和子 ねぇ聞いた? 死神だって? デスノートじゃあるまいし。
油ノ木 さ、佐和ちゃん、どうしたのそれ? ケガしたの?
佐和子 え?(手が血だらけ)痛くないけど…。
つみき なんだか嫌な感じがする。
愛   ではもう少し明るくしてみましょう。

     SE 指を鳴らす音。
     慌てて、舞台の中央に集まる6人。

桐谷  な、なんだ! どうなってんだよ?
蒲田  バスの前方がぺ、ペシャンコだ……。
桑原  お、おい、あそこを見ろ!
桐谷  え?
桑原  あれ、血じゃないのか?
桐谷  だ、誰のだよ?
桑原  そ、そりゃ、バスの前方が潰れてるんだから……。
佐和子 (手を見つめて)ひっ! 
油ノ木 (ハンカチを出し)さ、佐和ちゃん!
つみき 光ったの。トンネルの出口付近でパァって。
桐谷  ど、どういうことだよ! お、おい、説明しやがれ!
愛   ではそろそろよろしいでしょうか?(歩きながら)あなた方が乗った夜行バスがトンネルに入った午前1時14分、
    石油を積んだトラックがトンネルの出口付近で事故に遭い爆発。その衝撃でトンネルが崩壊。あなた方以外の乗客、
    及び、走っていた車の乗客は、瓦礫の下敷きになり死亡。ちなみに死者は35名。
佐和子 え?
桐谷  適当なこと言ってんじゃねーよ!
愛   さて、この状況が本当に適当なことでしょうか?
つみき さっきの光、爆発だったんだ。
蒲田  じゃあ、僕達、助かったんですか?
愛   ええ、一時的には。
油ノ木 一時的?
愛   そうです。30分後の午前1時44分には、第二の爆発で全員瓦礫の下敷きに。
    本来ならばこの地区はクソまじめな田丸さんの担当でしてね。今日は非番だったので私が変わりに。
    いやぁ、あなた方は運がいい。
蒲田  運がいい? ど、どういうことですか?
愛   私は上司に内緒でゲームをするのが好きなんですよ。
つみき ゲーム?
愛   はい。(紙を出して)ここに各自一枚ずつ、合計6枚の投票用紙があります。30分後に、投票していただくのですが、
    そのときに開票して一番多くの票を集めた人間一人だけが私の好意により、生き残れるというゲーム。
    名づけて「アリとキリギリスゲーム」。
蒲田  アリとキリギリス……。
愛   ほら、童話であるじゃないですか「アリとキリギリス」ってやつ。アリは食料を蓄えて、キリギリスは歌ってばかり。
    冬になってキリギリスはアリに命乞いをする。その様が似てるところから……。
佐和子 い、いかげんにしてよ…。私達、春に結婚するの…そのためにお金もためたし、辛いことも二人で乗り越えてきた。
    こ、こんなところで死ぬわけには行かないのよ!
愛   あ、うまいじゃないですか。そうそう、そんな感じで他の人にアピールしてください。自分の名前を書いてもらえるように。
佐和子 そ、そんなつもり…。
愛   何か質問は?
蒲田  え、えっと、あの…自分の名前を書くことは?
愛   できません。もちろん、他人の紙に名前を書くこともです。
つみき 票数が同じだったら?
愛   (ニコッと笑い)全員死にますね。
佐和子 そ、そんな!
愛   それでは、また何かあったら呼んでください。すぐに姿を現しますので。
    頑張ってください温かいアリさんの家に入れるのは一匹だけですよ。きまぐれなキリギリスさんたち…。

     愛、去っていく。
     
桐谷  アリとキリギリスだと? なめやがって! 

     桐谷、壁を探ったりしている。

つみき 何してるの?
桐谷  決まってるだろ。ここから出るんだよ!
つみき 窓の外は瓦礫で埋め尽くされてる。どうあがいても出れないわ。
桐谷  そんなの、やってみなくちゃわかんねーだろ!
つみき 時間の無駄だと思うけど? まぁご自由に。

     間

佐和子 そ、そんな…将来のためにお金もためて、病気にならないように健康にも気をつけて。
    それが、こ、こんなことになるなんて…。
油ノ木 いいかい、佐和ちゃん。僕は必ず君を生き残らせてみせる。絶対にだ。
佐和子 油ノ木くん……。
油ノ木 僕が死んでも、佐和ちゃんは女だ。子どもを産める。僕は誰の子供だっていい。
佐和子 駄目よ、そんなの駄目! 私は油ノ木くんじゃないと駄目なの! 
桑原  順風満帆な人生! 有名私立大学に、推薦で入り、大企業に入社して、美人な妻、かわいい子供、
    それにもうすぐもう一人産まれる予定だったんだ! それなのに、こ、こんな残酷な運命ってあるか! 
桐谷  吠えてるだけなら誰でもできんだよ! ここから出たいなら出口を探せ!
つみき あなたはまず、この状況を理解して。
桐谷  はぁ? なにいってやがる!
蒲田  み、みなさん、落ち着いてください!
桑原  30分後に5人死ぬんだぞ! 落ち着けるわけがないだろ!
佐和子 私は油ノ木くんの名前を書く。
油ノ木 僕は佐和ちゃんの。
桑原  ちょっと待て! それはいくらなんでも不公平だろ!
佐和子 どうして?! 恋人なのよ? 自分の名前を書けないんだったら、お互いの名前を書くに決まってるじゃない!
桑原  これは選挙だぞ。誰にでも生き残るチャンスを与えるべきだ!
佐和子 実際の選挙だって知り合いが出馬してたら、票を入れるじゃない。
桑原  じゃあなんだ? 何もしないでお前たちは1票を獲得できるってことか?!
佐和子 そうよ、それの何が悪いの!
つみき (桐谷に)あなたの目は生きてる。それをもっと違う方向に向けて。
桐谷  なに分けわかんないこと言ってんだよ!
つみき 救世主…は言いすぎかな?
桐谷  は? 俺はただのホストだよ。救世主なんてのは、もっと生真面目な天才だろーが!
桑原  俺の名前を書けよ!
佐和子 誰が書くもんですか!
油ノ木 ち、近づかないでください!
桑原  俺の名前を書け、書いてくれ、お願いだ、書け、書けよ、書いてくれぇぇぇ!!
蒲田  (大声で)僕は自殺するつもりです!!

     静寂。

佐和子 自殺?
蒲田  はい。北海道で死ぬつもりでした。だから、僕の名前は書かないでください。
佐和子 あの…。
蒲田  ちなみに僕は蝶野さんに投票します。
桐谷  蝶野って誰だよ?
蒲田  (指を指す)
桐谷  あんた、蝶野って名前なんだ?
つみき ……。
油ノ木 あの、とりあえず自己紹介しませんか?
佐和子 そ、そうよね。名前が分からないと投票も出来ないし。
油ノ木 だ、誰からいきます?
つみき じゃ、私から。

     つみき、ホワイトボードの前に行き、自分の写真の下にマジックで名前を書く。

つみき 私の名前は蝶野つみき。職業は一応アイドルをしています。
油ノ木 え? 蝶野つみきって。あの天然系アイドルの?
佐和子 でも顔も話し方も……。
つみき 芸能界を生き残るにはキャラを作らないといけないの。化粧もバリバリにして。
油ノ木 なんだかしっくり来ないですね。 
つみき そう? じゃ、次、どうぞ。
蒲田  あ、はい…。

     蒲田、ホワイトボードに名前を書く。

蒲田  ぼ、僕の名前は蒲田信夫。ツッキーが好きな…。
桑原  オタクってわけか。
油ノ木 職業は?
蒲田  無職です……。
桑原  ニートってわけか。

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