補陀落渡海記
補陀落渡海記(ふだらくといかいき)


井上靖の短編作品『補陀落渡海記』のパロディ。
中央で座禅を組んでいる伊達。金森は下手前に立っている。


明転。

伊達「太宰治・・・」
金森「はい。彼は、『義理』という作品の中で、武家の義理というものの美しさと哀れさを書いています。
   勝太郎は式部の義理のために命を投げ、丹後は式部親子の義理に心を動かし出家する・・・。あぁ、
   義理とはなんと美しく、哀しく、重たいものだろう」
伊達「義理というものの哀しさ、か・・・」
金森「はい。考え直していただけましたか?」
伊達「・・・。いや、やっぱり本命がいい!」
金森「だめですか?」
伊達「だって、義理ってなんか、義務っぽくていやなんじゃもーん」
金森「なんですかそれ。やはり、本命よりも義理ですよ!」
伊達「ふん!本命を貰えたからそんなことが言えるんじゃ!」
金森「(かっこつけて)そんなことないですよ」
伊達「あ!今かっこつけた!」
金森「つけてないですよ!」
伊達「つけたじゃん!」
金森「つけてません」
伊達「つけた!」
金森「つけてねえよ」
伊達「こらこらこら!なにさらっとため口きいてるのよ」
金森「その歳でもらえるだけありがたいと思いなさいよ」
伊達「はい。・・・ん?」
金森「大体、住職がそんなことで自殺するとか言うから!」
伊達「待て待て待て!私は自殺するわけじゃないんじゃよ、何回言わせるんじゃ」
金森「自殺みたいなもんでしょう!船に閉じこもって南へ漂流しようだなんて」
伊達「だ〜か〜ら〜。私は生まれ変わるために行くの」
金森「けっ。本当に生まれ変われると思ってるんですか?」
伊達「ああ。信じる者は、救われるんじゃよ」
金森「信じる者ねえ・・・。大体、住職は生まれ変わって何やりたいんですか?」
伊達「ん?それ聞いちゃう?まずはなあ・・・ご馳走食べまくる!」
金森「へ?」
伊達「朝には美しい小鳥のさえずりで目覚め、手作りの味噌汁をすする」
金森「住職がそんなこと考えてちゃまずいでしょう」
伊達「だから、生まれ変わるの!グラタン、ハンバーグ、コロッケ、カレー、カレ
   ー、カレー、団子!」
金森「団子!?」
伊達「ああ。一度食べてみたかったんじゃ〜」
金森「ていうか、全体的にスケールが小さくありませんか?」
伊達「これ!私たちは多くの動植物の命を頂いているのだぞ?質素倹約、命に感謝
   することが大切なんじゃ!」
金森「それはそれで矛盾してませんか?」
伊達「なにい!?」
金森「精進料理しか食べたことないから、ご馳走ってのが思い浮かばなかっただけ
   なんじゃないですか?」
伊達「はい、そうです」
金森「まったく・・・。で、他に何かしたいこととかあるんですか?」
伊達「そうじゃな。動物と自由にお話しできるようになりたいのお」
金森「おお!それはいいですね、犬とか猿とか!」
伊達「そうそう!一緒に冒険してみたりして」
金森「あー、でもそうすると、朝の美しい小鳥のさえずりは聞こえなくなりますね」

雄たけびのような表情の伊達。
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