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窓ガラスの花

窓ガラスの花

登場人物

翼
女
美幸
良子
金トト
大造
刑事
大家
ライダー
A
B
C

翼　　　　私は、二ノ宮金次郎ではありません。遠くで、窓硝子の割れる音がしません
　　　　　でしたか。ほんのかすかです。ほんのかすかに、音が。あれは僕を呼ぶ声です。
　　　　　誰かが僕を呼んでいるのです。ガラスいりませんか。旭印の窓硝子ですよ。安
　　　　　くて丈夫。ちっとやそっとたたいても、たたいたら，壊れちゃうけど大丈夫だ
　　　　　よ。破れたガラスじゃ、冬は越せませんよ。お安くしときます。旭印の窓硝子。

女　　　　硝子屋さん。　　　　　　　　　

翼　　　　はい。

女　　　　すきま風の入らない窓硝子ありませんか。心さびしい夜に、ガタガタ鳴らない
　　　　　窓硝子おくれでないか。

翼　　　　ありますよ。すきま風なんて、よせつけない、一枚硝子が。

女　　　　一枚硝子は高いから、寄木細工の硝子下さい。

翼　　　　木工細工じゃないんですから、硝子は一枚の方が安いんです。一枚硝子は大量
　　　　　生産出来ますからね。旭硝子は板硝子の王様ですよ。

女　　　　大量生産の硝子では、心がこもっていない様な気がするけど、それでもかまわ
　　　　　ないから、硝子ください。

翼　　　　毎度あり。どこです。どこへ入れて、さしあげましょうか。

女　　　　私の心に。私の心に入れてください。

翼　　　　奥さん、無理を言っちゃ困ります。心に硝子ははまりませんよ。ワクがないん
　　　　　ですから。

女　　　　無理に押し込んだら、どう。つばかなんか塗ったくって。

翼　　　　つば塗ったくって、どこへつっこむんです。

女　　　　心よ。心。下世話なマイハート。

翼　　　　僕があつかっているのは、窓用硝子だけです。心用はないんです。、聞こえま
　　　　　せんでしたか。また、遠くで、窓硝子の壊れる音が。

女　　　　いいえ、全然。

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