無差別
短編不条理劇集 その4
『無差別』

舞台にはベンチが一つ。
ベンチの下に、四角い箱が置いてある。
男が登場。ベンチに座る。
ポケットから煙草を取り出し、吸い始める。
そこへ、反対方向から女1が登場。
男、煙草を消す。

女1 待った?
男 いや、今来たところ。
女1 みんなに怪しまれないように抜け出すのが大変で。
男 みんなにばれたらまためんどくさいからな。
女1 (前方を見て)でも、綺麗ね。
男 だろ?このベンチが、一番夜景が綺麗に見える場所なんだ。
女1 いつも陽子と来てたんでしょ。
男 そんなことないさ。
女1 別にいいの。私は、徹先輩といられればどこだって幸せ。
男 俺も、芽生と一緒だと幸せだよ。
女1 じゃあ、早くはっきりさせてよ、陽子とのこと。
男 分かってるよ。今度あいつと会ったとき、ちゃんと話するから。
女1 そうしたら、私達正式なカップル?
男 そうなるね。
女1 嬉しい!そうすればサークルでも大っぴらに出来るね。あ、でも、陽子に悪いか。
男 でも、いずれ分かっちゃうだろ、そういうこと。
女1 そっか。でも、陽子、居づらくならない?
男 でも、うちよくあるじゃん、そういうの。
女1 そうね。でも、徹先輩はダメだよ。ずっと私のこと好きじゃなきゃ。
男 当たり前だよ。俺には、もうお前しかいない。
女1 運命の赤い糸かな。
男 そうだよ、きっと。
女1 二人で毎年お祝いしようね。今日が付き合った記念日ってことで。
男 ああ。そうしよう。芽生、愛してるよ。
女1 私も。

二人、寄り添い、見つめ合う。
そして、熱いキスを交わす、まさにその瞬間、女2が血相を変えて登場。

女2 何やってんの、こんな所で!
男・女1 陽子!
男 いや、これは違うんだよ。
女2 何が?
男 いや、それは…
女1 もうこの際だからはっきり言ってやってよ。
女2 どうして二人がここにいるのよ?
男 いや、それはその、ほら、ここ夜景が綺麗じゃん。だから、樫野にも見せてやろうかなって…
女1 徹先輩!話違うじゃないですか!
男 (女2に)ごめん、俺が悪かった!
女2 はあ?
男 いや、お前との思い出の場所だろ、ここ。そんな神聖な場所で、こんなことをするなんて、俺が間違ってたよ。
女1 どういうこと?
男 正直言うとな、ここは、俺が陽子に、初めて思いを打ち明けられた場所なんだよ。
女1 何でそんな所に呼び出すのよ。
男 さっき「別にいい」って言ったじゃん。
女2 よくないわよ。
男 だから、夜景が綺麗だから…
女1 そういう問題じゃないでしょ。何で元カノとの思い出の場所で待ち合わせしたりするのよ。
女2 元カノ?
男 (女2)陽子、俺、そんな軽い男じゃないんだ。それは信じて欲しい。お前を愛していた。それは本当だ。いや、もしかしたら今でも…
女1 ちょっと、じゃあさっきのは何なの?私に言ったことは嘘?
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