木のある宿屋

(きのあるやどや)
初演日:2009/3 作者:鴨鹿
            木のある宿屋

        キャスト
    若者
    主人
    少女
    木霊


        -幕-
    冬の季節-東京よりもはるか北の地-昔話に出てくるような民宿
    舞台には木を置く台があり、その上に木霊がいる
    舞台中央に主人がいる


主人   山の奥の更に奥、そこに一軒の宿屋がありました。宿屋には主人が一人、そして木が一本。昔はもう少しにぎやかだったんですがね。あれからもう何年も経ちました。それにしても・・・いやあ、今日も寒いですね。でも、こんな日はきっと客がやってくるんですよ。なぜかって?そりゃ寒いからですよ。


    若者がやってくる気配


主人   ほら、耳をすませてください、足音が聞こえてきませんか?この宿屋に来る客はいつも独りなんです。


    戸が叩かれる音


主人   やってきましたよ。


    もう一度、戸を叩く音がする


主人   はいはい、ちょっと待ってくださいね。


    主人、玄関に行こうとするが途中で部屋に入りラジオ体操の曲をかけて、去る
    ラジオ体操の曲に気づき目を覚ます木霊、
    木霊はラジオ体操を始める
    主人が若者を連れてやってくる


主人   こちらにどうぞ。置いてあるものは自由に使って構いません。

若者   ・・・ラジオ体操ですか。

主人   ええ、ほらよく言うじゃないですか。植物に音楽を聞かせるのは良いことだってねえ。

若者   ああ、まあ、そう言いますけど、

主人   どうされました?

若者   いや、普通はクラシックとかですよね。

主人   音楽なら何でも同じですよ。

若者   そうですか?


    主人、ラジオ体操の曲を止める


木霊

主人   今日から泊まるお客さんだ、ヨロシクな。

若者   ・・・なんて種類の木ですか?

主人   ただの観葉植物ですよ、種類なんてどうでもいいじゃないですか。それともなんですか?植物の種類が分からないと死んじゃいますか?

若者   そんなことないです。

主人   よかったな〜、プライバシーが守られたぞ。

若者   プライバシーって。

主人   見て下さい、嬉しそうですよ。

木霊

若者   そうですか?

主人   おや、分かりませんか。

若者   都会育ちなモノで。

主人   な〜、元気だよな〜。

若者   声をかけるのもいいんでしたっけ。

主人   そうらしいですね。あなたも話しかけてみてはどうですか。

若者   僕は遠慮しておきます。

主人   そうですか。でも、気が向いたら話しかけてやってください。気が向いたらでいいので。

若者   気が向けばですが、

主人   木だけにね。

若者   はぁ。

主人   いやね、気が向いたらの『気』と、『木』。この木ね。それをかけただけです。洒落ですよ洒落。

若者   あっ、ああ。あっ、すみません。

主人   いえいえ、私が悪いんですよ、分かりにくい洒落なんかするから悪いんです。もうこの歳になって、洒落一つ上手くいかないなんて、ダメなんですよ私、もういなくなればいいんですよ。洒落を言ってもウケない人なんて存在しちゃいけないんですよ。

若者   そんなことないです、面白かったです。ハハハ、気が向いたらねー木だけにねー、ハハハ。

主人   そうかい?そりゃ、よかったわ。じゃ、昼飯出来ましたら持って来るので、後は御自由に。

若者   はい。

主人   では、私はこれで。


    主人、部屋を出る
    木を見る若者


若者   ・・・こんにちは。

木霊

若者   何日かだけど、よろしくね。

木霊

主人   よろしくお願いします。


    主人が見ていた


若者   いたんですか。

主人   ええ、いましたよ。いちゃいましたよ。そして話しかけちゃいましたね。

若者   それは・・・あなたが勧めたから、

主人   その通りですとも。その通りなのですが・・・

若者   なんですか?

主人   本当にやる人は初めて見ました。キャッ。

若者   ・・・そうですか。

主人   さあ、これからも思う存分話しかけてやってください。

若者   いえ、もうしません。

主人   またまた、また話しかけるに決まっているでしょう。

若者   しません。

木霊

主人   でも、話す相手がいないのは淋しいですよ。

若者   木に向かって話すのも十分淋しいですよ。それに、話し相手はいるじゃないですか。

主人   いやいや、私がいるのは食事の時間だけですよ。

若者   はいっ?

主人   ハイ。あとは、麓の村にココで取れた山菜を売りに行くので。

若者   村に行くんですか?

主人   あと、狐狩りもしますね。今日は、

若者   一人で?

主人   そうなりますね。

若者   僕を残して行くんですか?

主人   ハイ。

若者   いいんですか?

主人   ええ。

若者   こんな見ず知らずの人をですよ。

主人   Oh,Yes!

若者   盗むかもしれないですよ。

主人   盗むんですか?

若者   いや、盗まないですけど。

主人   じゃあ、バッチグーのオッケー牧場ですよ。

若者   そんな簡単に信じるんですか。

主人   信じるも何も、盗まれて困るものありませんし。

若者   いいんですか?

主人   男がうだうだ言ってんじゃねえ。シャキッとしろよシャキッと。

若者   はぁ。

主人   はい、シャキィ。

若者   シャキッ。


    若者、ちょっとシャキッとする
    木霊、シャキッとする


主人   というわけで、さようなり〜。

若者   はぁ。えっ、それ言うために来たんですか。

主人   That's right!醤油ネクスト揚げ玉。

若者   えっ?

主人   やっぱりそうですか、面白くないですか、頑張ったんですけどね、やっぱり私は洒落を言ってはいけない人間なんですね。そうですよ、私は洒落を言ってはいけないんですよ。もうこの世から洒落なんてなくなればいいのに。洒落の馬鹿野郎。

若者   いえっ、結構面白かったですよ。ハハハ。

主人   結構?

若者   ええ、わりかし。

主人   わりかし?

若者   いや、ちょっと。

主人   ちょっと?

若者   全く。

主人   全く。

若者   ・・・。

主人   さようなら。

若者   すみません。僕正直なんです。

主人   グハァ!


    主人倒れる


若者   大丈夫ですか!

主人   実は黙っていましたが、私洒落がすべると死んでしまうのです。

若者   面白かったです。大丈夫です。面白かったです。ハハハ、腹筋大爆笑。ハハハ。

主人   そうですか。そりゃよかった。ではまたあとで。


    主人が去ると、若者、深いため息を一つ
    若者、気分転換のため窓を開ける
    若者が木に何か話しかけようとする
    その時少女が窓から入ってくる


少女   あら、誰。お客?

若者   どちら様ですか。

少女   こんにちは、私近所に住んでるプリティーガールなの。よろしくね。

若者   よろしく。

少女   で、あなた誰。

若者   客です。

少女   つまらない答えね。これだから人間は、

若者   あっ、ごめん。

少女   じゃ、悪いけどどっか行ってもらえるかしら。

若者   なんで?

少女   「なんで?」あなた、本当にダメね。

若者   なにが、

少女   女の子が「どっか行って」って言ったらスッと消えるのが男でしょう。

若者   君さ、いきなり人の部屋に来て何言ってるの。

少女   人の部屋?いいえ、ここはあなたの部屋じゃないわよ。

若者   ここは、僕が泊まってる部屋なの。

少女   それは違うわ。ここは私たちの部屋よ。

若者   私たち?

少女   ええ、私たちの部屋。

若者   他にもだれか来るの?

少女   もう居るわ。

若者   えっ


    振り向くとそこには木霊しかいない
    だが、若者には見えない


若者   あんまり、大人をからかっちゃいけないよ。

少女   あなたまだ未成年でしょ。

若者   何で知ってるの。

少女   あら、正解しちゃった。

若者   あ〜、もう。帰ってくれないかな。

少女   いやよ。

若者   なんで?

少女   「なんで?」またそれ。

若者   それはこっちの台詞だよ。プリティーガールちゃん。

少女   あら、『ちゃん』付けしてくれるなんて中々面白いわね。

若者   どうも。

少女   じゃ、それに免じて少し教えてあげるわ。

若者   いいの?

少女   ええ。私はね、お話しをしに来たの。


    若者が自分を指す


少女   そんなわけないでしょ。馬鹿なの。

若者   馬鹿って、

少女   私は、その木とお話しするのよ。

若者   ・・・。

少女   どうかしたの?

若者   なんでもないよ。

少女   それが理由よ。わかったらさっさと出て行きなさい。

若者   別に僕がここにいても話せるでしょ。

少女   あなた私が話すとこ見たいの。このスケベ。

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