君、万雷浴びてとわにきらめく橄欖となれ
『君、万雷浴びてとわにきらめく橄欖となれ』


 暗い暗い闇の中、声だけが聞こえる。

女 「鐘を鳴らしてください! ……私はずっと待っています。その鐘が打ち鳴らされるのを。私のこの耳の奥の奥のほうで、ずっと心を揺さぶるように続いている震動は、いったい何を待ち望んでいるしるしですか? 教えてください。私はその鐘の、美しい音色がこの世界に響き渡るのを待っているんじゃないんですか? 教えてください!」

 パッと、その女性を照らす明かりがさす。その女は、乾いた傘を両手で抱えて居る。雨に怯えるように。

 残念ながら鐘は鳴らない。雨も降らない。しかし光はまた消えて、あたりを暗闇が覆う。

 ぺたぺたと、素足の足音が聞こえて、その足音の人がテーブルの上の明かりをつける。
 狭い部屋で、真ん中にテーブルが置いてある。そのテーブルには、電気スタンドと、不快なくらい電話であることを主張する黒い電話。
 テーブルの下には、男が寝転がっている。明かりをつけた女はテーブルの前の椅子に座って、じっと、電話を見つめる。
 そうしているうちに少し時間がたつ。

男 「電話。」
女 「え?」
男 「電話来ないの?」
女 「……なんで?」
男 「待ってるんでしょ。」
女 「別に……待ってない。」
男 「そう。」
女 「それじゃどうしてそこに座ってるんだって、聞かないの?」
男 「なんで?」
女 「別に……」

 男、テーブルの下で体を起こして

男 「あのさ。ちょっと、電話かけてみようよ。」
女 「いやよ!」

 女は突然興奮して、電話を抱えていう。

男 「……別に待ってないんでしょ?」
女 「待ってないけど」
男 「問題ないでしょ、それなら。」

 反論できないので、女は電話を放して元の姿勢に戻る。

男 「本当は待ってるんじゃないの?」
女 「どうして?」
男 「だって、かけたくないのはどうしてなの?」
女 「……いいじゃない、かけたくなくたって。」
男 「僕がとんでもなく電話をかけたかったらどうするの? 貸してくれないの?」
女 「どれくらい緊急に?」
男 「そうだな、あと5秒で地球に隕石が降ってくるのを予知したとき!」
女 「ダイヤルしているうちに5秒経つわ。」
男 「じゃあ、あと5秒で宇宙人が地球に攻めてくる。」
女 「ダイヤルしているうちに5秒経つわよ。」
男 「5秒後に宇宙人とつながって、攻めてこないかもしれない。」
女 「あなた、宇宙人の電話番号を知ってるの?」
男 「それも、予知する。」
女 「……どうかな。」
男 「貸してくれない?」
女 「あげない。」

 つまらない、といった顔をして男はまた寝転がる。

男 「その電話、鳴ったことあるの?」
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