君の名は・・海より深き・・
「君の名は・・海より深き・・」  作 結城翼
        
★登場人物

今城千尋・・・
今城千晶・・・
鎌田惣一郎・・
山崎静佳・・・
八千代・・・・
山城信子・・・
沖田慎一・・・




Ⅰプロローグ

        昭和43年10月21日。のテロップ。
        ヘリコプターの音。アジ演説。騒然とした雰囲気。日大闘争や東大闘争などの学園闘争。
        あるいは当時の機動隊と学生の市街戦、街頭闘争のシーンの実況映像。実況映像。
        クロスして、「戦争は知らない」
        大きくなる。
        溶明。
        音楽静かになっていく。
        結婚式の控え室。父の遺影が置かれている。
        千尋がウェディングドレスで座っている。
        あわただしく駆け込んでくる信子。

信子 :ああ、いたいた、よかった。ねえ、あなた、持ってるわよね。
千尋 :え?
信子 :指輪よ、指輪!交換するやつ。
千尋 :ええ、用意してますけど。
信子 :ああ、よかった。いやね、こちらで用意してなきゃいけないんだけど、主任に確認してくれって言われてさ。うるさいんだわ、あの禿頭。
千尋 :母がどうしてもっていうから。
信子 :そうなのよね。お父様の形見のっていうからさ、いやね、なんだか感動しちゃってさあ、あたし。いいよね、お父さんがこれだけはって渡してくれたんだって。親子二代だよねえ。うーん。いいなあ。
千尋 :あの。
信子 :なんだかさあ、人ごとって思えなくって。あたしもさあ、ちょっとまちがったらさあ、あやうくうまれなかったとこよね。いやね、満州なのよね、あたしんちは。やばかったのよね、戦局。ガダルカナル落ちちゃった後でしょ。戦地へ赴くまえに思いを遂げる一夜のちぎり?それなのよねー。もう、大変だったんだって。でもさあ、お父さんたち何思ってたかなあ。これが今生の別れっていうのかなあ、なんせ、どうなんのかわからなかったものね。もえあがるよねー。愛した人と再び会えるかどうか分からない。もしかしたら、これでおしまい?がんばったんだろうなあ。
千尋 :あのう。
信子 :あはは、ごめん。変なこと言って。
千尋 :いいえ。
信子 :でも、いいよね。
千尋 :え?何がです。
信子 :愛の結晶が、今ね。・・お父さん本望だろうね。
千尋 :・・。
信子 :いいなあ。あたしなんか、こんなとこ勤めてるけど、さっぱりだもんね。ねえねえ、彼、どう。
千尋 :え、どうといわれても。
信子 :いやあ、なんかね、あなたのこと他人と思えないのよね。そうかあ。ウェディングドレスと事務服。なんか差がついちゃうなあ。
千尋 :いい人いないんですか。
信子 :全然。さっぱりなのよ、世界狭いのよね、こんなとこ。毎日、指加えて見送ってるだけ。そっかあ。・・いいよね。
千尋 :指輪が何か。
信子 :そうそう。ごめんねくだらないこと言って。指輪あればいいのよ。確認してくれって言われただけだから。
千尋 :今、いるんですか。
信子 :ううん、挙式の時。・・・ねえ、いい。
千尋 :何です。
信子 :ちょっと見せてくれない。あ、だめならいいのよ。失礼なことだってことわかってるから。
千尋 :別にいいですよ。そこの箱に。
信子 :あ、これ。かまわない?
千尋 :いいですよ。
信子 :そう。・・ごめんね。ちょっと。

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