霖雨の門
羅生門異聞
「霖雨の門・・羅生門異聞」
            芥川龍之介 原作
            結城 翼  作

★登場人物
男・・・・・・・・
女・・・・・・・・

   





#1プロローグ 

        昔、一つの時代がゆっくりと崩壊していったある頃。
        霖雨がすすり泣くように降っている晩秋の都。
        荒れ果てたそのはずれに、うっそりと立つ大きな門があった。
        羅生門と呼ばれるその門は、黄昏どきともなると、もはや誰も通るものはなく、あたりにはやせさらばえた野犬が食い散らした        行き倒れの死体が幾つか恨めしげに横たわっているという。
        緞帳が上がる。

男  :恐れながらだんな様、私ではございません。決して、決して私ではございません。何を仰せられます。私めが不正を働いたなどと、それ    はあまりな言いがかりというもの。ひっ

        と、たたかれでもしたように悲鳴を上げる。

男  :お願いでございます。今一度、今一度お調べ下されませ。お家のものを一物たりとも私ものにした覚えはございません。これは、誰か    の仕業でございます。今一度、今一度、お慈悲を持ちまして、お調べ下さい。わたくし、ここを追い出されば、どこへ行くこともかないま    せぬ。このままでは、首くくるしかございません。・・はっ?

        衝撃を受けた様子。
        小さい間。頭が聞いたことを拒否している様子。

男  :なんと・・・いま、なんと。

        驚きと絶望。

男  :首をくくれと。どこなと、いって、首をくくれと。ここにいることはかなわぬと。・・だんな様。・・だんな様。あまりでございます。    だんな様!もし、だんなさまーっ!

        と、おいかけようとして、後ろにもんどり打って倒れる。
        蹴倒されたようだ。
        そのまましずかになる。
        いずこからか笛の音がもの悲しく聞こえてくる。
        やがて笛の音は一段高くなると唐突に消えた。
        情景が変わった。

男  :はーっくしょん。

        と、一声。寒かったようだ。    
        小さい間。
        悲痛な感じで。

男  :くいてえーっ・・。

        霖雨はいつやむともなく、しんねりと止めどもなく降り続いている。
        若い男がいた。男は門の下で所在なげに雨宿りをしている。
        あたりが雨に白くけぶる黄昏時、薄暗くなっていくなか、男はぼんやりとそれを聞いている。
        こうして、物語は始まる。
        雨がまたひとしきり降るようだ。
        笛の音が響く。
        ぎくっとした様子で耳そばだてる。
        どこやらで低く歌声がする。
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