二人で居た、という事
二人で居た、という事


一幸と次郎は兄弟。コネを使い、二人は父親の会社に入社した。だが、10年後、父親が病死してしまう。舞台は、その父親の葬式の終わった後の話である。


父親の葬式が終わり、くつろぐ二人。中央には、香典と芳名帳が。

次郎 なぁ。
一幸 ん?
次郎 葬式もおわっちまったなぁ。
一幸 そうだなぁ。あわただしかったけどなぁ。
次郎 会社の人も、いっぱい来てたしなぁ。親父、愛されてたんだなぁ。
一幸 そりゃそうだろ。一応、会社の社長なんだから。
次郎 社長だもんなぁ…でもさぁ。社長だなんて言われても、なんかそんな風に思えねぇんだよな。だってさぁ。うちの親父だぜ? うちでは親父なのに、会社に行ったら社長なんだぜ? なんだかおかしくってさぁ。
一幸 そうかもしれないけどさ。でも、親父が社長だったから、俺らだって会社に就職できたんじゃねぇか。…まぁ、平社員だけどさ。
次郎 でも、会社で会っても親父って言っちゃいそうだもん。その度に、「会社では社長と呼べ」って注意されるけどさ。
一幸 親父だって、それなりに見栄とかあったんだろ。

次郎 兄貴さぁ、
一幸 なんだよ。
次郎 女できた?
一幸 お前、こんな時になに聞いてんだよ。
次郎 いやさ、結局、親父に孫の顔見せてやれなかったじゃん。俺も兄貴もさ。実家に彼女連れてった事なかったし。
一幸 そういやそうだったな。…いや、いや、いないよ?
次郎 あれ、兄貴、彼女いないの?もてそうなのになぁ。
一幸 いや、全然だよ。・・・お前はどうなんだよ。
次郎 実は、俺もいないんだよなぁ。
一幸 お前もいないのか。
次郎 でもなぁ…好きな人はいるんだよ。
一幸 え、お前、好きな人いるの?
次郎 そりゃいるよー!
一幸 なんだよ、俺、そんな話聞いたことねぇぞ!?
次郎 だってしてねーもん!
一幸 おいおいおいおい、水くせぇなぁ! 兄貴にも聞かせろよ! なになに、俺の知ってる人!?
次郎 んー…知ってる人!
一幸 え!え!え!俺の知ってる人なの!? なんだよ!誰だよ!
次郎 教えてほしい!?教えてほしい!?
一幸 教えてほしい…けど、まだ言うな! 当てるから!
次郎 はい! はい! 誰でしょう!? 5! 4! 3!…
一幸 ちょ、待て待て待て! 待って! 待って!
次郎 待たないよ! 俺、待たないかんね!

 ふたり、じゃれあう。しばらくして、後ろを向く

一幸 あ、おふくろ…うん。うん、ごめん。うん、こういう…日だもんな。うん。悪い。うん。親父もまだいるしな。うん。ごめん。

ふたり、元の位置に戻る

一幸 …で、誰なの?
次郎 あ、うん。兄貴の知ってる…ってのは、さっき話したっけ。えっと、会社の人なんだけど…
一幸 え、うちの会社の人なの?
次郎 そう。それで、兄貴も何度も話したりしたことある人。
一幸 えぇ…? 誰だ…? 誰なんだよ。
次郎 …実はな。俺、さゆりちゃんの事が好きなんだよ。
一幸 えっ…さゆりちゃん!? さゆりちゃんって、親父の秘書やってる、さゆりちゃん?
次郎 そう。俺らもさ、さゆりちゃんとは遊びに行ったりしてんじゃん。さゆりちゃんって、いい子じゃん? 俺も、いっぱい話聞いてもらったし。もう、一緒にいても、ドキドキして仕方ないんだよ。
一幸 …あぁ、うん、そうだよな。
次郎 でもさ、俺には告白する勇気が無いんだよ。見分不相応っていうかさ。社長秘書と平社員だぜ?
一幸 (必死になって)なんだよ、別に社長秘書と平社員が付き合ったっていいじゃねぇかよ!?
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