GOOD LUCKと言わないで

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初演日:2004/9 作者:ことばたらず
『GOOD LUCKと言わないで』
                      
                                  
登場人物
 
 青空あおい 客室乗務員
 霞沢龍之介(かすみざわ りゅうのすけ)老け顔の小説家(20代)      
 桜庭 玲子(さくらば れいこ)テレビプロデューサー  
 田中 真吾 工場勤務    
 名越 翼 (なごし つばさ)大学生    
 土師器修哉(はじき しゅうや)カツゼツの悪いテロリスト     
 メイファ  中国人・田中の妻 


      JFA(ジャファ)207便機内。
      霞沢龍之介が席に座って原稿を書いている。
      青空あおいが乗客を席に誘導している。
      田中真吾とメイファが乗り込んでくる。

メイファ 早く、早く!
田中   そう、急ぐなって!
メイファ しんちゃんは、すぐに気が変わるんだから。
田中   たまには信用しろよ!
メイファ じゃあ、早く、席に着いてよ!
田中   わかってるよ!

      田中、席を前にして。

田中   メイファ……。
メイファ なによ?
田中   やっぱり船で行こう!                         
メイファ しんちゃん、おじょうのきわが悪いよ!
田中   それを言うなら「往生際」だよ! いいか、よく考えてくれ。
     飛行機は墜落したら生存率ゼロだ。その点、船ならまだ高い!
メイファ 何時間かかると思ってるのよ!
田中   時間よりも命が大事なんだよ!
メイファ 落ちるわけないじゃない!
田中   離してくれ、俺はまだ死にたくない!
あおい  あの、どうなさいました?
メイファ いえ、何でもないんです。
田中   なんでもあるよ! 自殺するようなもんだろ!
メイファ いいかげんにして!

      田中、ズルズルとメイファに席に連れて行かれる。
      桜庭玲子が携帯で話しながらやってくる。

玲子   いいかげんにして! あんたが北海道ならイメージにぴったりな場所がありますっていうから、
     少ない予算使って行かせてるのに、こっちはお堅い原作者をやっと説得させたのよ! あんたに私の苦労がわかる?
     えっ、どうなのよ、吉田!
あおい  あの、お客様。
玲子   ちょっと待って!(携帯を離して)何ですか?
あおい  携帯電話は機内の計器が狂う恐れがありますので……。
玲子   あっ、はいはい(携帯で)とにかく、私が行くまでにいくつか候補を探しておいてよね!
     もし、見つけられないときはわかってるわね、吉田!
あおい  あの、お客様……。
玲子   いい、絶対見つけるのよ!(携帯を切る)はい、はい、はい、はい、はい!

      玲子、席にドカッと座る。
      名越がカメラをあおいに向けている。

名越   はい、チーズ。やっぱり絵になるなぁ〜、あおいさんは。
あおい  あれ、名越さん。昨日、広島〜東京便に乗ったばかりじゃ?
名越   俺の唯一の楽しみは、こうやってあおいさんを撮ることです。例え火の中水の中、
     広島だろうが北海道だろうが関係ありません。
あおい  でも、この年末によく連続で取れましたね。
名越   ええ、空港でキャンセル待ちをしていたので。
あおい  キャンセル待ち?
名越   ええ。
あおい  もしかして……。
名越   もちろん、泊まりましたよ。あおいさんのためにね。ところで、
     今日は有名人の方は乗っていますか?
あおい  有名人?
名越   ええ、大学新聞の中に「有名人の素顔」っていうコーナーがあるんすよ。
     これが中々好評で。あっ、でも心配しないでください。「客室乗務員、
     青空あおい写真館」の方が断然、人気がありますんで。
あおい  はぁ……。
名越   あっ、そうだ、今日も通路際の席を確保してますんで、俺が「はいチーズ」と言ったら、
     笑顔でお願いします。では離陸前の一枚。はい、チーズ!
あおい  エヘ!
名越   ありがとうございます! あっ、この前、撮ったばかりの写真を今日、
     持ってってきたんですよ。あおいさんに見てほしくて。あっ、ちょっと、
     待ってくださいね。(かばんを探して)あれ、確かこのへんに、あれ、どこだ?
 
      名越、通路際の席にかばんの中を探しながらイソイソと座る。
      土師器修哉が辺りを見回しながら乗り込んでくる。

土師器  どこだ?
あおい  えっ?(土師器のカツゼツが悪いので分からないため)
土師器  トイレはどこだ?
あおい  あ、あの、もう1回お願いできますか?
土師器  ト・イ・レはどこだと言ったんだ!
あおい  あ、ああ「トイレ」ですか、それならこの奥になります。
土師器  そうか……。
あおい  あの、もうすぐ離陸いたしますので。
土師器  ああ、わかってる。
あおい  えっ?
土師器 「わかってる」と言ったんだ!
あおい  えっ、あ、失礼しました!

      土師器、トイレに向かう。

あおい  おかしいな〜。

      機長の機内アナウンスが入る。

機長   操縦席よりご搭乗のお客様にご案内いたします。当機はJFA207便、
     羽田発、東京〜新千歳空港行きでございます。到着時刻は午後8時を予定しております。
     なお、離着陸におきましては少々機内が揺れる恐れがございますので、シートベルトを
     着用してくださいますようお願いたします。では、狭い機内ではございますが、空の旅を
     ごゆっくりお楽しみくださいませ。

田中   なぁ、今さぁ。
メイファ え?
田中   離陸のとき、揺れるって言わなかった?
メイファ うん、言ったよ。

      田中、立つ。

田中   そんな乗り物、信じられるか!

      田中、逃げ出そうとするがメイファに止められる。

メイファ 揺れない乗り物なんてこの世にないよ!
田中   新幹線は全く揺れない!
メイファ 船なんか揺れまくりだよ!
田中   海には波があるんだ、それはしょうがない!
メイファ 都合がよろしいよ!
田中   離してくれ、メイファ!
メイファ しんちゃんには武士道がないの!
田中   武士道は関係ないだろ! 大体、新婚旅行なんて東京の周辺でパッパッとやったら
     いいんだよ!
メイファ そんなの意味ないよ! 遠い所でお互いの愛を確かめ合うからこそ、新婚旅行の意味が
     あるの!
田中   わかった、わかったよ、じゃあ、こうしよう! 北海道は止めて宇宙旅行だ。
メイファ 宇宙旅行?
田中   ああ、一人5000円ぽっきりで、遠くて素敵な宇宙の旅にレッツ・ゴーだ!
メイファ 一人5000円で? やけに安いね。
田中   どこも、デフレの波が押し寄せて、価格破壊なのさ。
メイファ 打ち上げはどこなの?
田中   え?
メイファ 打ち上げ!
田中   え、えっと……千葉かな?
メイファ 千葉?
田中   ウン、千葉県。
メイファ それって、ディズニーランドのことでしょ? 
田中   え?
メイファ 宇宙旅行って、スペース・マウテンのことでしょ?
田中   メイファ、今日もマスカラのノリがいいね。
メイファ 誤魔化さないで!
田中   ちなみにスペース・マウテンじゃなくて、スペース・マウンテンです!
メイファ どっちでもいいよ! 
田中   とにかく降りることに変わりはない!
メイフ  もう、ドア、閉まってるよ!
田中   え!
土師器  邪魔だ、どけ!

      土師器が席に座る。

田中   ……。
メイファ ……。
田中   今、なんて言ったんだ?
メイファ さぁ。
あおい  みなさま、ご注目お願い致します。

      霞沢以外はあおいを見つめる。
      霞沢、ノートにペンを走らせている。
      名越、カメラを構えている。

あおい  今から緊急事態が発生した場合の対処法をご説明いたします。
名越   待ってました!
あおい  では、酸素マスク着用時について申し上げます。高度が高いところからの急降下、
     もしくは乱気流に飲み込まれた場合、機内の気圧が急激に下がる場合がございます。
     そのようなときは、シートベルトをしっかり締め、座席の真上から自動的に落ちてくる
     酸素マスクを着用してください。
田中   メイファ。
メイファ なに?
田中   もう、降りられないよな? 
メイファ うん。
田中   じゃあ、しょうがない。
メイファ やっと、あきらめてくれたのね。
田中   ならば練習だ!
メイファ え?
田中   緊急事態に備えて練習しよう! 
メイファ どこに、本当にするバカがいるの!
田中   ここにいるだろ! 
メイファ 自信を持って言わないよ!
田中   とにかく、酸素マスクの代わりになるものをだせ!
メイファ い、いやよ! 
田中   いいから!
メイファ ちょ、ちょっと!

      田中、カバンから強引に水筒のフタを出す。

田中   これでいい、行くぞ! 1,2、スーハー、2,2、スーハー。3.4がなくて
     5にスーハー。さぁ、一緒に!
メイファ 嫌! しんちゃんは日本人のアジよ!
田中   それを言うなら、日本人の「恥」だろ。スーハー。
霞沢   実に面白い……。
名越   あおいさん、こっち向いて!

      あおい、忙しそうに仕事をしている。
      名越がカメラをあおいに向けている。

名越   いいっすよ! いいっす! もっとください!
玲子   ちょっと!
霞沢   おっと、こちらも面白そうだ。
玲子   あんたよ、あんた!
あおい  え? 私?
玲子   こっちは時間が惜しいの! 早くして! 
あおい  もう少しお待ちくださいませ。
名越   ちょっと、邪魔しないでくれませんか?
玲子   ここは、あんたの家じゃないの、公の場所なの。 それぐらい分かるでしょ?

      名越、カメラを玲子に向けてフラッシュをたきまくる。

玲子   ちょっ、ちょっと止めなさいよ。この、ストーカー野郎!
名越   違います、俺はあおいさんの専属カメラ小僧です。
玲子   どっちも一緒じゃない!
名越   全然、違いますね。
玲子   まったく!
あおい  では、まもなく離陸いたしますのでお手元のシートベルをしっかり締めて、
     もう、しばらくお待ちくださいませ。

      シートベルトを一斉に締める乗客たち。

メイファ もう、いいかげんにしてよ……。
田中   メイファ……。
メイファ 何よ?
田中   ついに飛ぶんだな……。
メイファ 飛行機なんだから飛ぶに決まってるでしょ!
田中   紙と鉛筆あるか?
メイファ え? 
田中   紙と鉛筆だ。
メイファ あるけど、どうするの?
田中   遺書を書く。
メイファ 遺書?
田中   安心しろ、お前の分も書くから。
メイファ それ、おかしいよ!
 
      エンジン音が大きくなる。
      田中の目がうつろ。

田中   メイファ……。
メイファ なに?
田中   手を握ってもいいか?
メイファ え?
田中   いや、なんでもない……。
   
      田中の手が震えている。

メイファ しんちゃん……。

      メイファ、田中の手を握る。

田中   ……すまん。

      名越、カメラをあおいに向けている。

玲子   あんたねー! 離陸のときぐらい撮るの止めなさいよ!
名越   この瞬間が一番、あおいさんが素の表情を見せるんです。邪魔しないでくれませんか?
     はーい、あおいさん、こっち向いてくださーい!
玲子   こ、この、ませガキィ!
霞沢   彼、中々、面白いですね。
玲子   は?
霞沢   私(わたくし)と公がゴチャ混ぜになっている。
玲子   それがムカツクんじゃない!
霞沢   しかし、あなたも中々面白い。
玲子   私が?
霞沢   ええ、今日は大収穫です。
玲子   あのね〜、あなた20代でしょ。ボケるのにはちょっと、早いんじゃない?
霞沢   えっ、今、なんと?
玲子   だから〜、ボケるのには早いって言ったのよ!
霞沢   い、いや、その、もうちょっと前。
玲子   もうちょっと前?
霞沢   え、ええ。
玲子  「でしょ」?
霞沢   おしい!
玲子  「20代」?
霞沢   そ、そうです。あ、あの、私、20代に見えますか?
玲子   見えるから言ってんじゃない!
霞沢   そ、そうですか! はは、そうですか。

      霞沢、嬉しそうに玲子に名刺を渡す。

玲子   な、何よ。
霞沢   受け取ってください。
玲子   は??
霞沢   そうですか、20代に見えますか、そうですか……フフフフ。
玲子   ……。

      大きくなる離陸音。離陸するジャンボジェット。
      音が小さくなる。
     「ポン」という音ともにシートベルトサインが消える。
      土師器、無言でトイレに向かう。

あおい  お客様に申し上げます。ただいまシートベルトサインが消えましたが、天候の影響により、
     機内が揺れる場合がございますので、安全上シートベルトを着用することをお勧めします。
     なお、気圧の変化などで、耳が痛くなる場合に備えましてこちらで飴玉をご用意しております。
     今からお配りいたしますのでそのまま席でお待ちくださいませ。

      あおい、乗務員、客席に飴を配る。
      配り終わってあおい、去る。

田中   メイファ、俺たちは死んだのか?
メイファ 私、トイレに言ってくるね。
田中   外すんじゃない! シートベルトは命の綱だ!
メイファ 何、言ってるの! こんな安全な乗り物ほかにないよ! 時代削除もいいところよ!
田中   それを言うなら「時代錯誤」だ! 俺は絶対、外さないからな!
メイファ しんちゃんの根性なし!
田中   なんとでも言え!
メイファ 根性なし、根性なし、根性なし!
田中   誰が「何度でも言え」って言った!
メイファ 根性なし!

      メイファ、トイレに行く。

田中   はぁ。
霞沢   あのぅ。
田中   はぁ。
霞沢   あのぅ!
田中   はい?!
霞沢   どうして飛行機が苦手なんですか? 過去に嫌な思い出でも?
田中   え? あの?
霞沢   え、あ、すいません、つい癖で。
田中   癖?
霞沢   え、ええ、職業病ってやつです。
田中   職業病?
霞沢   ええ。
田中   人の弱みを知る職業なんかあるんですか?
霞沢   え? いや、あの……。
田中   誰でも嫌いなものってあるでしょう、その理由を知りたいなんて、あなた変わってますね。
霞沢   す、すいません、気を悪くさせてしまったようで……。
玲子   ちょっと。
霞沢   はい!
玲子   やっぱり、これ返す。

      玲子、名刺を霞沢に渡す。

霞沢   えっ?
玲子   だって、見ず知らずの相手に名刺をもらうなんて気持ち悪いじゃない。
霞沢   め、名刺ってそういうものじゃないんですか?
玲子   なに、言ってんのよ。名刺っていうのはある程度、相手の素性がわかっていて、
     はじめて渡すものなの。いわば、文字化してお互いの役職や、立場を確認するわけ。
霞沢   あ、あの、私のどこが……。
玲子   あんたね〜、そんなのもわからないの? 普通は名前の上に会社名とか役職を書くじゃない。
     あんたの場合、何も書いてないのよね。
霞沢   は、はぁ。
玲子   だから怪しいって言ってるのよ。
田中   どれどれ、見せてください。

      田中、霞沢の名刺を取る。


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