AMMP[aemp]

(アンプ)
初演日:2006/10 作者:大沢 ギンペイ
AMMP [amp]
              作 大沢ギンペイ



登場人物
織原真奈美
ヒカワ タクミ
土井浩介
フジサワ
ミツイ
天野
ムツミ


 舞台中央には机が一つ。周りには、タクミ他、計3体のアンドロイドが登場。
 アンドロイド達は一通り表情豊かだが、人間に比べて動きの『ブレ』が少ない。

1.

ヒカワ  よぉ! 久しぶり! フジサワとミツイじゃないか!

 フジサワ・ミツイ、上手く反応しない。

ヒカワ  ほら、高二の時同じクラスだったヒカワだよ! 覚えてる?

 フジサワとミツイは数秒間動きを止めた後、同時に動き始める。

ミツイ  おお! 久しぶり! 何年ぶりだったっけ? ええと、高校卒業から全然会ってなかったから……、五年か。
フジサワ ヒカワ君も老けたね〜。
ヒカワ  おまえも老いたね〜。
フジサワ ひどっ!
ヒカワ  しかしお前ら、なんでこんなとこで一緒だったの? もしかしてまだ……
ミツイ  そう、つきあってるの。あの頃から。
ヒカワ  うわぁ、長いなぁ。お前らの仲。……高校か、懐かしいな。覚えてる? サトセンが教室入ってきて、ボール踏んづけて転んだとき。

 ヒカワ以外の二人は、数秒間動きを止め、また同時に動き始める。

フジサワ 覚えてる覚えてる! 佐藤センセ、教壇に思い切り顔ぶつけて、鼻血出してなかったっけ?
ミツイ  野球のボールだったよな。ヒカワのボールが、机から転がったんだ。
ヒカワ  いいや。違う。転がったのはテニスボールだし、ぶつかったのは黒板だよ。先生の顔型が残っちゃったじゃないか。

 二人は、再度動きを止める。その間にヒカワが位置を変え、ミツイ達の背後にまわる。

ミツイ  そ……(ヒカワに向き直って)そうだったそうだった。あの人汗かきだったからな。汗のあとがべっとり。
ヒカワ  そうそう。夏なんて毎年、あの人の汗で溺れる奴がいるくらい。

 2人、動きを止める。

フジサワ それでさぁ、ヒカワ君は今、どこに勤めてるの? 大学、どこだったんだっけ?
ヒカワ  陵江大出て、メーカー勤め。四菱でさ。エンジニアって奴だよ。
フジサワ 格好い〜! 四菱かぁ……。でもあそこ、最近不祥事続きだよね。大丈夫?
ヒカワ  大丈夫だよ。経営者変わって、結構元気になったんだよ? ウチ。
ミツイ  まぁ、復活したなら、四菱でのつとめはおいしいな。
ヒカワ  (急にキョトンとして)なに言ってるんだ? 俺の勤め先はユキミズ不動産だぞ?

 2人、動かなくなる。今度はしばらく待っても動かない。
 ヒカワの顔から、友達づきあいの笑みが消える。

ヒカワ  今回のテストはこんな物でいいでしょう。もう無理な様です。終了します。ゲートを開放して下さい。

 ミツイ、フジサワは静止して待機。
 ヒカワの問に返事はない。

ヒカワ  時間がまだ残っているんですか?
土井(声)あと少し。もうちょっと待ってくれ。
ヒカワ  安全装置もいいですけど、最初に入力した時間、絶対にゲートが開かないっていうのは、少し不便すぎませんか?
土井(声)仕方ないだろう。暴走でもされたら困る。
ヒカワ  そうそう暴走なんて起きるものでもないでしょう。
土井(声)まぁそう言わないで、安全第一に協力してくれよ。お、あと少し。5、4、3、2、1、ゼロ。

2.

 織原、土井、現れる。
 ミツイ、フジサワ、ハケる。

土井   お疲れさま。なかなか進歩してるみたいだったな。
ヒカワ  はい。記憶の構成が、随分早くなりました。今回はかなり限られた設定しか入力していませんでしたから、あの反応は有望ですよ。
織原   問題にしてた件について、一応あなたの意見も聞かせてもらえる?
ヒカワ  はい。記憶構築のスピードも精度も、相当上がりました。でもまだ、矛盾した情報と『冗談』への対応は難しいようですね。「汗で溺れる奴がいた」なんて冗談を言っても理解できなかったようですし。
土井   でも、お前はもう少し、冗談自体勉強した方がいいんじゃないか? あれは、ちょっと……。
ヒカワ  そういうことは製作者に言って下さい。
土井   こいつはもう少し、冗談の勉強をした方がいいと思います。
織原   私!?
土井   他に誰がいるんです?

 織原、ヒカワ、勢い良く土井を指さす。

土井   ひ、人のせいにするな馬鹿っ!
織原   で?
ヒカワ  矛盾した情報への対応もまだまだです。私の職場に関して矛盾する情報を入れたら、フリーズしてしまいましたから。
織原   そうね。アンドロイドに肉親の代わりをさせるのも、楽じゃないわ。
土井   あ〜。明日からは、またキーボードを叩きまくって、プログラムを組む生活か。
織原   一週間後には中間報告のデータをあげなきゃならないしね。
ヒカワ  でも、確実に前進していますよ。今日くらいはゆっくり休まれても。
土井   そうさせてもらいたいね。織原さん、このあとどうですか? 一杯。
織原   ご一緒します。あ、タクミ。
ヒカワ  はい?
織原   あなたも一緒に。
ヒカワ  よろしいんですか?
土井   ……まぁ、今日くらいはいいだろう。
ヒカワ  でも、備品の持ち出し規定が……。
織原   大丈夫。ちゃんと申請しておくから。
ヒカワ  そうですか?
織原   それにほら、明日はキミ、三歳の誕生日でしょ。
ヒカワ  ……覚えていて下さったんですか。
織原   自慢の息子の誕生日を忘れる訳にもいかないじゃない。
ヒカワ  ありがとうございます。
土井   じゃあ、行きますか。
織原   道一本入ったところに、いい感じのお店見つけたんだ。居酒屋なんだけど。あそこポン酒が旨いんだ。
土井   織原さんは日本酒飲むと凄いからなぁ。
織原   行かない?
土井   いえいえ。ご一緒させていただきます。

 土井は退場。
ヒカワ、織原は、所定の位置へ移動。

3.

 舞台中央に織原、少し外れたところに、タクミがいる。

織原   土井君、カメラ回ってる?
土井(声)回ってます。

 織原、軽く咳払い。

織原   家電開発部ソフトウェア第三課、織原真奈美です。作業の進捗状況を説明したいと思います。我々が製作しているのは、オートマチック・メモリーメイキングプログラム、略してエーエムエムピー、『AMMP(アンプ)』です。人工知能用の、記憶増幅プログラムですね。
土井(声)用途に関する説明をお願いします。
織原   アンドロイドを人間に近づけるソフトウェア開発としては、これまで、疑似感情プログラムの製作が主となってきました。周囲の状況に対して何を感じ、何を思い、どう行動するか。そして、そのプログラムは、かなり完成されたものになってきています。タクミ。
ヒカワ  はい。

 ヒカワ、織原のいる舞台中央へ。

織原   彼は、我々の作った最新の疑似感情プログラムを載せています。動きも、完全とは言えませんが人間に近く、スムーズです。
ヒカワ  ミヤタ式14型プロトタイプ、ヒカワタクミです。こちらで研究の補助を担当しています。万一アンドロイドが暴走した時のため、実験用アンドロイドの相手は、人間の研究者ではなく、全て私が行なっています。
織原   アンドロイドがここまで人間に近づいた、次のステップとして、記憶を増幅するAMMPがあるわけです。AMMPの用法は……タクミ、よろしく。
ヒカワ  外部から得た情報を元に、記憶を増幅して、補完します。これによって、アンドロイドが特定の人物となりかわることが可能です。用途としては、家族が事故等で喪われた場合の、替わりとしてのアンドロイドを想定しています。
織原   ここで彼に、AMMPを使用したアンドロイドの動きを実演してもらいます。想定は、交通事故で死亡した兄もしくは姉の替わりに、アンドロイドを購入した家庭です。

 織原とヒカワ、アイコンタクト。織原が中央から離れる。

土井(声)はい、オッケー。

 場の空気が緩む。

織原   どう? うまく撮れた?
土井(声)なかなかいい感じですよ。次はタクミのシーンですね。
織原   うん。タクミ、行ける?
ヒカワ  私は、いつでも。
織原   じゃあ、私は出るね。

 織原、ハケる。

土井(声)回していいか?
ヒカワ  どうぞ。
土井(声)よし、回すぞ。2,1,キュー!
ヒカワ  これからお見せするのは、両者とも、ミヤタ式12型のアンドロイドです。片方は男性型で、通常の疑似感情プログラムのみ使用しています。もう片方は女性型で、疑似感情プログラムに加えて、AMMPを作動させています。前提として与えている情報は、一般常識に加えて「車に轢かれて亡くなった、私の兄、もしくは姉の代わりである」という設定だけです。

 ミツイ、現れる。

ヒカワ  兄さん。おかえり。
ミツイ  よぉ、タクミ。
ヒカワ  仕事の方はどう?
ミツイ  仕事、って?
ヒカワ  昔から、ホテルで働いてるじゃないか。
ミツイ  ……すまん、分からない。
ヒカワ  え、もしかして、僕たちのこととか、みんなのことも忘れちゃってる?
ミツイ  ……

 ヒカワ、正面に手を挙げる。
 その合図によって土井による操作が行われ、ミツイ、機能停止。

ヒカワ  AMMPを積んでいない状態で話しかけると、こうなります。彼が可哀想なので、早めに話を切り上げました。知識のないアンドロイドに知識がある前提で話すと、ああなるわけですね。全く会話が成立しません。次は、AMMPを積んでいるアンドロイドがどのように動作するか、見ていただきたいと思います。

 ミツイが去っていき、舞台上にフジサワが現れる。

4.

ヒカワ  姉さん、お帰り。
フジサワ ただいま。お母さんは?
ヒカワ  台所だよ。どう、仕事の調子は。
フジサワ えぇと……
ヒカワ  ホテルの接客、大変だって言ってたじゃないか。

 フジサワ、ここでしばらく動きを止める。AMMPで記憶を生成するタイムラグ。

フジサワ そうだね。中には変わったお客さんなんかもいるから。今日来たちっちゃい会社の社長さんなんて、蕎麦殻の枕じゃないと眠れないって言うんだよ?
ヒカワ  そりゃ大変だな。で、どうしたの?
フジサワ ホテルって、ちゃんとそういうのも準備されてるんだね。私びっくりしたよ。
ヒカワ  うわぁ、だめだこの従業員。あ、そうだ。明日から彼氏の橋本さんと旅行だったよね?

 フジサワ、ストップ。
 同じく、記憶生成の時間。

フジサワ 橋本さんね。うん、休みがとれたって。
ヒカワ  そうか、休み作れたんだ。橋本さん、自営業だったよね。

 フジサワ、ストップ。

フジサワ そう、臨時休業。ラーメン屋さんだって、お客が離れちゃうから好き勝手には休めないからね。
ヒカワ  橋本さんち、酒屋さんだろ。

 フジサワ、ストップ。

フジサワ ああ、そうだった。ごめんごめん。コンビニに押されて、結構大変みたい。
ヒカワ  アルコール販売か、橋本さんとこは、コンビニにしないの?
フジサワ しないつもりなんじゃないの。コンビニにしちゃったら、あんまりお酒入れられなくなるし。
ヒカワ  家族だけじゃ店番も出来ないしね。
フジサワ 上手くやったら、コンビニの方が儲かるんだけどね。

 ヒカワ、舞台正面に手を挙げる。
 少しして、フジサワは裏からの操作でスイッチを切られ、完全に機能停止。

ヒカワ  AMMPを使用すると、このように、断片的な情報を元に自分の記憶を捏造して、なんとかこちらに話を合わせようとします。そして、新しい情報が入る度に、捏造した情報は修正されていきます。

 ヒカワ、パソコンにケーブルをつなぐ。
 パソコンでの操作に呼応して、フジサワが去る。

土井(声)オッケー。一旦切ろう。

 織原が入ってくる。

織原   台詞、長いね。難しくない?
ヒカワ  アンドロイドですから。全く問題ありませんよ。織原先生こそ、大丈夫ですか?
織原   私はちょっと、危ない。あ、でももう良いよ、土井君。
土井(声)はいよ。……どうぞ。

 再びカメラが回り始める。
 織原、舞台中央へ。

織原   いかがだったでしょうか。私たちはAMMPによって、思い通りの記憶を、アンドロイドに植え付けることが出来るようになるのです。最初は今見ていただいたように、ちぐはぐなやりとりになりますが、何日、何ヶ月と過ごしていくうちに、割り当てられた人間として自然になっていきます。大切な人を亡くしたとき、人は誰しも、もう一度あの人に会いたい、時間を共にしたいと思うものでしょう。AMMPによって私たちは、失われた大切な人に、再会できるのです。
土井(声)オッケー! そこまで。

 土井、現れる。

土井   はい、二人とも、お疲れさまでした。
ヒカワ  お疲れさまでした。
織原   お疲れさま。
土井   しかし織原さん、大丈夫なんですか? あんな大見栄きって。
織原   大丈夫。大丈夫。
土井   でも、いつも言ってるじゃないですか。自分の研究は半分道楽だから、これが製品として売れるとは限らないって。ただでさえ、AMMPは疑似感情プログラムより数段割高になりそうなんですよ?
織原   あと一歩、あと一歩なんだから。ここまで来て完成させられないなんて、馬鹿みたいじゃない。
土井   でも……
織原   はい、上に提出するデータは、これで完成。飲みに行きましょう。
土井   あ、僕も行きます。
ヒカワ  あの……
織原   何?
ヒカワ  今日もあのお店に飲みに行かれるんですか?
織原   そうね。行こうと思うけど。
ヒカワ  私も行って構いませんか。
織原   え? 別にいいけど、でもあなたの外出は書類申請が面倒だなぁ。
ヒカワ  準備しておきました。あとはサインだけ頂ければ。

 ヒカワ、机から書類を出す。
 織原、書類に目を通す。サインしながら

織原   必要事項の欠落は、無し、か。準備が良いね。いいよ。一緒においで。
土井   でもおまえ、居酒屋に行くの、本当に楽しいのか? おにぎりと日本酒ぐらいしか口に入れられないのに。
ヒカワ  炭水化物以外を体に入れるのは、動作不良の元ですからね。でも、楽しいですよ。それに、多くの人を見ることは、疑似感情プログラムの進歩にも有用だと思っています。
土井   研究熱心だねぇ。
ヒカワ  そういう風に作られていますので。
織原   じゃあ、行こうか。パソコン電源落とした? セキュリティかけた?
土井   (きょろきょろとあたりを見回しながら)だい、じょうぶ……、です。
織原   じゃ、行こうか。

 三人、ハケる。

5.

 居酒屋。ムツミ、天野が登場。客席で話し込む。

ムツミ  それで結局、菊池さんは帰れたの? 昨日。
天野   いや、帰れなくてホテルから出社だって。
ムツミ  うわぁ、悲惨。着替えとか無かったんでしょ。それにネクタイ……。
天野   うん、巻いてたね。
ムツミ  頭にね。
天野   頭だったね。
ムツミ  ホテルまで巻きっぱなしかな。
天野   多分……。
ムツミ  お酒って怖いね……。そろそろお客さん来るかな?
天野   うん。早いお客さんは、もう来るね。
ムツミ  下ごしらえは済んでるよね?
天野   誰に物を言ってるの。
ムツミ  失礼しました。今日はいつも通りでいい?
天野   うん。予約のお客さんはいない。今日刺身は、ヒラメと鯛のいいのが入ってるから。
ムツミ  は〜い。
天野   それじゃあ、居酒屋アマノ、今日も開店! よろしくお願いします。
ムツミ  お願いします。

 織原、土井、ヒカワ、入ってくる。

織原   こんばんは。
天野   いらっしゃいませ。
ムツミ  いらっしゃいませ〜。こちらにどうぞ。

 天野、ハケる。三人、着席。

ムツミ  まず飲物からお聞きします。
土井   ビールを瓶で一本、と、日本酒冷やで二合。お猪口は……
織原   二つ!
土井   一つ。

 土井と織原、しばしにらみ合い。

土井   一つで。
ムツミ  じゃあ、一つで。ビール一本と日本酒冷やで二合。おつまみはどうしますか。
土井   そうだな。肉豆腐二つと、刺身の盛り合わせ……今日は何が美味しい?
ムツミ  ヒラメと鯛の、良いのが入ったらしいんですよ。
土井   そう、それじゃそれを一人前ずつ、と……何がいいですか?
織原   ご飯一杯。あと……なんだっけ、この前美味しかった奴。

 織原、土井にメニューを示す。土井、まずい、という表情。


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