THE ぬいぐるみ
『THE ぬいぐるみ』
作/スラッシャー松井

◆登場人物◆
野上アイ     ぬいぐるみ専門店“アリス”の若き店長。ぬいぐるみをこよなく愛する明るく元気な女の子。
野上タカシ    アイの兄貴。ミリタリーマニアで、エアガンとプラモデルをこよなく愛する。ぐーたらだが、アイのことを気遣う優しい兄。
上川シン     依頼を受けて盗みをこなす雇われ泥棒。腕が悪いせいで、仕事の依頼はさっぱり。短気で面倒くさがりな性格。
沖コウジロウ   シンの相棒。気弱でずる賢い性格の持ち主。いつもシンに付いている。トラの威を借る狐。
マダム・プリティ アイに負けず劣らずのぬいぐるみ愛好家。わがまま。自分の欲しいものは絶対に手に入れないと気が済まないヘビのようなヤツ。
藤咲ミユキ    何やら訳ありの逃亡少女。おてんばで自分の意見をハッキリ言う気の強い女性。
山崎カオル    ミユキを追う謎の黒服の男。穏便で紳士的な性格だがサングラスをかけると・・・。



 ◆プロローグ◆

   太陽がさんさんと輝く午後の昼下がり。昨日に降った雨がつくった水溜りは、晴れわたった青空を映し出している。
   昼食を済ませ、残りの昼休み時間を過ごす人や、天気がいいのでぶらっと散歩する者
   ショッピングを楽しむ人々などでメインストリートは賑わいを見せている。
   水溜りを元気よく飛び越えながらメインストリートを走る女の子の姿がある。
   ぬいぐるみ専門店“アリス”の店長、野上アイだ。小脇には薄茶色の紙袋を抱えている。買い物帰りのようだ。



 ◆第一幕◆

   息を切らしながらアイが帰って来る。元気よくガラス張りの扉を開けて中に入る。

アイ  「ただいまーーーーっと!(時計を見て)よしっ!新記録!!十分も縮めたわ。お兄ちゃんただいまー!」

   アイ、奥の部屋にいるはずの兄貴に向かって大声を出す。しかし返事は無い。

アイ  「あれ? ただいまー!」

   やはり返事は無い。

アイ  「あ〜もう! あのバカ兄貴、また鍵もかけずにどこかへ出かけたな。せっかくお兄ちゃんの好きなフランスパン買ってきたのに、これじゃおあずけね」

   アイ、紙袋を持って奥へ引っ込む。そして何やら古ぼけたぬいぐるみを持ってくる。ぬいぐるみをショーウィンドウのところに置く。

アイ  「(ぬいぐるみに)今日もよろしくね。アリス」

   アイ、ざっと店内を見回して。

アイ  「よし! それじゃあなたたちが少しでも綺麗に見えるように、お掃除をしますか」

   アイ、奥に引っ込む。雑巾とバケツ、はたきを持って来る。
   アイ、ショーウィンドウの掃除を始める。そこへ、よろめきながらアイの兄であるタカシが帰って来る。手には妙な箱を山ほど抱えている。

タカシ 「おっとっとと…」
アイ  「あ、お兄ちゃん! ちょっとどこに行ってたのよ!?」
タカシ 「お、その声はアイか。お帰り」
アイ  「お帰りじゃないわよ。鍵もかけずにどこほっつき歩いてたのか聞いてるの」
タカシ 「掘り出し物があったって連絡があってな。浅草の友達の家まで行って来た」
アイ  「あれほど出かけるときに鍵を掛け忘れないでって言ったでしょ!」
タカシ 「悪かったよ。それよりお前に見せたい物があるんだ。これがまた凄いんだよ」
アイ  「この前はそんなこと言って、戦車のプラモデルだったじゃない」
タカシ 「わかってないな〜。この前見せた戦車はな、砲塔駆動型、キャタピラ全駆動型の42年モデルの戦車で―――」
アイ  「はいはいわかりました。私は今掃除で忙しいの。私に用事があるんなら早くしてよね」
タカシ 「ふっふっふ〜ん。アイちゃ〜ん。いいのかな〜そんなこと言って〜」
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