デュオ
デュオ


      恭子と君恵がギターを抱いて歌っている。

歌 「雲」

  小さな公園で流れる雲を見ながら
  あの人の口癖 思い出していた
  夕暮れの海辺で潮風に包まれてた
  嫌われたくなくて ただ気づいてほしい
  いつかきっと風のように
  不器用なギターにのせて愛の歌を届けたい

  にぎやかな町並み 一人で歩くたそがれ
  あの人の姿を探し続けてる
  言葉にできなくてうまく伝えられなくて
  ゆっくりと流れるあの雲になりたい
  いつかきっと勇気出して
  寂しげなあなたのものへ愛の歌を届けたい

  いつか夢がかなうときは
  誰よりも心をこめて 誰よりもあなたのもとへ
  不器用なギターにのせて愛の歌を届けたい

      歌が終わると、スピーカーから男の声が聞こえる。

男   ご苦労様でした。高校生らしく、さわやかな歌だと思いますね。来週
    の二次審査を楽しみにしたいと思います。ただ、まあこれは、よけい
    なお世話と思って聞いてくれていいんだが、この歌ではだめだろうね。
    なんというか、愛の歌というテーマのコンテストだから作ったんだろ
    うけど、君たち、愛というものを全然わからなくて歌っているような
    気がするね。せっかく自分たちの歌を作るんだから、自分たちでしか
    できないものを作らなければ、我々は評価できないからね。まあ、一
    週間あることだし、二人で考えてみるんだね。では、来週の日曜日、
    楽しみにしているよ。

      場面がそれから六日後、明日はいよいよ第二次オーディションと
      いう日の午後である。二人は恭子の部屋に集まり、明日に迫った
      オーディションを何とかしようと知恵を絞っている。

恭子  なんて言われたって、できないものはできないよね。
君恵  うーん、「君たちには愛がわかってない」なんて、よけいなお世話っ
    て感じ。
恭子  だいたいどうして、明日は本番って時になってこんな悩まなくちゃい
    けないのかな。
君恵  あんたがさぼってたからでしょ。
恭子  えー、私のせい?
君恵  だって、作詞担当、あんたじゃないよ。
恭子  だけど、今回は一緒にやろうねって二人で約束したじゃない。
君恵  だから、相談に乗ろうと思って考えてたわよ。だけど、全然お呼びが
    かからないでしょ。
恭子  お呼び?
君恵  前日になって、「明日の準備があるから私の家に集合ね!」って、すっ
    かり完成してて、ちょっと手直しするってかんじかと思ってたわよ。
恭子  あんたも、甘いわね。
君恵  甘いのはあんたでしょ。一週間なにやってたの?
恭子  海行って、夏期講習行って、花火やって、昼寝してた。
君恵  緊張感のかけらもない感じ。
恭子  だって、部屋の中でうんうんうなっていたって、絶対なんにもできな
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