いろのないえほん

()
初演日:2007/6 作者:イチカワケイタ
    いろのないえほん
 

キャスト

 男 主にナレーター
 女 主に主役登場人物
 


   オープニング

  男、女、共に子供。

 男、座って本を読んでいる。
 女、登場。寄ってくる。
 
女 「何読んでるの?」
男 「うん。絵本!」
女 「見せて!」
男 「いやだい」
女 「どうしてよ」
男 「だって僕のだもん」
女 「ケチ」
男 「ふん」
女 「ばーか」
男 「アーホ」
女 「生きるゴミ」
男 「……マヌケ」
女 「喋る核廃棄物」
男 「……オタンコナス」
女 「将来のニート確率九十パーセント」
男 「……お前の母ちゃんでべそ」
女 「お前の母ちゃん、昔、沢田賢二追っかけて、転んで、全治二ヶ月」
男 「……泣くぞ」
女 「見せてくれないとやめないぞ」
男 「……」
女 「お前の父ちゃん、昔、浅草の団子屋でバイトしてた女の子を」
男 「見せる! ていうか見ろ! 穴が開くまで見ろ!」
女 「ありがとー」

 女、男から本を受け取る。パラパラと見る。

女 「あれ?」
男 「何?」
女 「この本、変だよ」
男 「そうなんだよ」
女 「白黒だよ」
男 「そうなんだよ」
女 「何で?」
男 「わかんない。色を塗り忘れたのかな」
女 「なわけないじゃん。ちょっと考えればわかるじゃん」
男 「……うん」
女 「……(小声)低脳」
男 「ん?」
女 「全部白黒だよ。……桃太郎も、赤ずきんも、シンデレラも、人魚姫も……全部、白黒だよ」
男 「だよね。どうしてなんだろう」
女 「わかんないよね」
男 「うーん、読んでみればわかるかな」
女 「そうかなあ」

 暗転。


  『桃太郎』


 男、本を持って立っている。

男 「むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでおりました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこ」

 女、しゃがんで体を丸めて登場。ゆっくり真ん中へ。

男 「どんぶらこ、どんぶらこ」

 女、疲れて休む。

男 「どんぶらこ、どんぶらこ、(速く)どんぶらこどんぶらこどんぶらこどんぶらこ」

 女、必死に進む。

男 「昨日は雨が降っていたので、今日の川はとても流れが急でした。どんぶらこどんぶらこ」

 女、必死に進む。

男 「(女、言うとおりに動く)桃は時折くるくる回ったり、川の流れに逆らって上っていったり、沈んだり、浮かび上がったり、岩にぶつかってちょっとジャンプしたり……おばあさんはその桃を受け止めました」

 女、桃からおばあさんに。

女 「おお、なんと大きい桃じゃ。持って帰っておじいさんと一緒に貪り食おう」
男 「おばあさんは桃を持って帰り、おじいさんに見せました。おじいさんはたいそう驚きましたが、すぐに包丁を持ってきました。食う気まんまんでした」

 女、おばあさんからおじいさんに。桃を切る。

男 「ゴリゴリ……ペキッ、ずちゅっ、ずぶぶぶっぶしゅっ」
女 「へへへ、ぐへへへっ」
男 「(ホラーっぽく)アーーーー……桃は無残にも真っ二つ。溢れた果汁はまるで血と涙のよう。でも、おいしそうでした」
女 「おや?」
男 「おじいさんは気付きました。桃の中に、何かが埋まっています」
女 「何だいこりゃ……うわぁ、赤ん坊じゃ」
男 「おじいさんは、その桃の中の赤ん坊を抱きかかえました。ほぎゃあ、ほぎゃあとかわいらしく泣いていました。ちょっとだけ、額に傷がついていました。うん、ちょっとだけ。一生消えないくらいの」
女 「これはかわいらしい男の子じゃ。名前をつけてやらねばのう」
男 「その時、おじいさんの脳内はめまぐるしく回転しました。まず思いついたのは太郎。しかし、いくらなんでも平凡すぎやしないだろうか。桃から生まれたという類稀なるこの子の特徴を、無視していることにならないだろうか。でも、桃が付く名前で男の子って難しい。女の子だったら『桃子』とか、そのまま『もも』とか選び放題なのに。まあ、その二個くらいしか思いつかないけど。……いったいどうすればいいのだ。私のセンスが試されている。四十年以上連れ添った妻の前で、私の感性が今試されている! どうすればいいのだでも何かもう考えるのが億劫になりました」
女 「桃太郎じゃ」
男 「その後、桃から生まれた桃太郎はすくすくと育ちました」

 女、おじいさんから桃太郎へ。

男 「その成長はとても早く、三年も経った頃には、立派な大人になっていました。しかし、急速な体の成長に心の成長が付いていかず、見た目は二十歳なのに反抗期真っ盛りでした」
女 「なあ、爺さん、金くれよ金。あ? 何だっていいじゃねえかよ。……お茶飲むんだよ。村一番の美人、お清ちゃんとこれからお茶飲みに行くんだよ。やっぱ男が金出さなきゃだめでしょ。……あんただって若い頃婆さんと飯食ったりするときに結構おごってたんだろ。そうだろうが。さっさと貸してくれよ」
男 「桃太郎はおじいさんからお金をぶん取りました」
女 「今日は……帰らないかもしれないから」
男 「桃太郎は上機嫌で、お清ちゃんと待ち合わせた茶屋にスキップしながら向かいました」
女 「……だーれだっ? あれ? 君はお清ちゃんのお友達のお松ちゃんじゃないか。いったいどうしたんだ。そんな、俺に訴えるような目をして。お清ちゃんが鬼ヶ島の鬼にさらわれたから、どうか助けに行ってくれ、ついでに普段この村のみんなを困らせている鬼を退治してきてくれみたいな顔をして。……図星かよ」
男 「こうして桃太郎は、鬼退治に出かける決心をしました。普段は反抗期でろくでなしの桃太郎でも、そうと決めたらやり通す男です。早速準備を始めました」
女 「おい、爺さん。物置に鎧兜あったろ。あれもってこい。婆さん。あんたは食料作ってくれ。長い旅になりそうだからよ。何? きびだんご? 今の流行はきなこもちだろ? そう。きびだんごとかいいから別に。色的にはおんなじようなもんだろ」
男 「おじいさんは鎧兜をきれいにし、おばあさんはきなこもちをたくさんこしらえました。桃太郎はその間、体力強化に励みました。まずは腹筋」

 女、戸惑う。

男 「腹筋」

 女、腹筋をする。

男 「次いで、腕立て伏せ」

 女、戸惑う。

男 「……腕立て伏せ」

 女、腕立て伏せをする。

男 「そして、ジャンピングスクワット」

 女、首を振る。
 男、睨む。
 女、ひるんで、やり始める。

男 「(女がしゃがんだところで)さあ、出発です。果たして桃太郎は、見事鬼を退治できるのでしょうか」

 女、歩き始める。

男 「桃太郎が歩いていると、一匹の犬が近付いてきました」

 女、犬を無視。寄って来る犬を足で追い払う。

女 「……何だよ。付いてくるなよ」
男 「(犬)わんわん、わぉん」
女 「付いてきちゃダメだったら」
男 「わぉーん、くうーん」
女 「うちでは飼えないんだよ。ママがペットはダメだって……」

 女、犬を突き飛ばす。

男 「きゃいんっ」
女 「それに、僕はこれから鬼退治に行かなきゃならないんだ。お前に構っているヒマはないんだよ」
男 「くうーん」
女 「……もう、そんな目で見るなよ。あっち行けよ! じゃあね!」

 女、退場。戻ってくる。犬を抱く。

女 「やっぱりダメだ。……そうだ。ペットじゃなくて、お供にすればいいんだ。そうすればママだってきっと許してくれるよ。な?」
男 「お腰につけたきびだんごをください」
女 「あはは、喋った」

 女、歩き出す。

男 「犬をお供にした桃太郎は、さらに歩いていきました。すると、猿が近付いてきました」
女 「おや、猿じゃないか。どうした」
男 「(猿)へへっ。お腰のもんを、ちょいっとばかしわけていただきてえんですがね」
女 「ああ、これか。では、これから鬼ヶ島へ鬼退治に付いてくるというのなら、あげようじゃないか」
男 「お、お、鬼ヶ島! あすこへ行こうっておっしゃるんですかい。そいつはやめといたほうがいい。あの島は、夢も希望もねえアスファルトジャングルだ。えーと……すいません、でまかせを言ってしまいました。行った事も聞いた事もありません。名前のニュアンスだけである事ない事を」
女 「だよねぇ。アスファルトジャングルではないよねえ」
男 「すいません。お供いたします。どこまでも付いていきましょう」
女 「よし。あ、犬」
男 「(犬)はい」
女 「犬猿の仲って言うけど、大丈夫?」
男 「大丈夫ですよ。全ての犬と猿が仲悪いってわけじゃありませんから。大阪にだって巨人ファンはいますから」
女 「ああ、うん」
男 「桃太郎はさらに歩いていきました。すると、皆さんの期待と予想を裏切らず、キジが近付いてきました」
女 「お、キジじゃないか。何で俺は見た事もないキジを見て、それだとわかるんだろう」
男 「(キジ)それを言っちゃあおしまいだぜ兄貴。きびだんごよこせぃ」
女 「強引に乗り切ったなぁ」
男 「だからそういうこと言うなってぃ」
女 「ならば、鬼ヶ島へ鬼退治に付いてこい。そうしたら一つやろう」
男 「お、鬼ヶ島! あそこへ行こうってのかぃ。やめとけ、やめとけぃ。あの島は、夢も希望もねぇアスファルトジャングルだぁ。だから……すいません」
女 「見た事も聞いた事もないのにある事ない事言っちゃったんだろ名前のニュアンスだけで」
男 「え?」
女 「もうそういうの一回あったから」
男 「(猿)そうだ。被ってんだよ」
女 「まったく」
男 「(犬)私だけやってないのが何か逆に恥ずかしいじゃないですか」
女 「そんなことない。そんなことないよ。……よし、行くぞてめえら!」

 女、手を振りかざし、回転。船上にたたずむ。

男 「海は思っていたより穏やかでした。大きな波もなく、変な生き物に襲われる事もなく、船は鬼ヶ島へとつきました」

 女、船から降りて歩き始める。

男 「鬼ヶ島は想像していた通りの野蛮で下品で殺伐とした島でした。いたるところに人間の骨やら肉片やらが飛び散っていたり食い散らかされていたり。まさしく鬼が住む、悪の巣窟と呼ぶにふさわしい場所であったならいいのに。みんなの士気も必然的に上がるというのに」
女 「何だこの島は。まるでリゾートかなんかじゃないか」
男 「(猿)あ、あっちにショッピングモールがありますぜ。あ、マクドナルドだ。ちょっと、マックチキン食ってきます」
女 「待て待て待て。鬼退治しに来てんだよ?」
男 「(犬)でも考えてみれば、きびだんご一つでそんな危険な事出来るかって感じですよ」
女 「いや、でも約束したじゃん」
男 「(キジ)そうでぃそうでぃ。割りに合わねぇっつんだぃ」
女 「第一、あれきびだんごじゃねえし」
男 「(犬)知ってますよ。きなこもちでしょう。動物の舌を甘く見ないで下さいよ。(猿)ていうか見た目が違うでしょうが。(キジ)話合わせてやってたのに、鈍いやつだぜぃ」
女 「お前ら食っちまうぞこらぁ! 特にキジ!」
男 「その時でした。(鬼)ぐははははははは」
女 「な、何だ?」
男 「お前が桃太郎か」
女 「鬼だな?」
男 「我輩を退治してくれようとか何とかぬかしておるようだが、よくもまあそんな犬コロとエテ公と食材で我輩に刃向かおうと思ったものだ。その無謀な勇気だけは褒めてやろう」
女 「何を言うか! 確かにそうかもしれないが、貴様を倒すために皆一念発起して立ち上がったのだ!」
男 「むはははは。果たしてそうかな?」
女 「何だと?」
男 「それはこれから戦ってみればわかることであろう」

 男、本を置き、女と対峙。

男 「かかってくるがいい!」
女 「犬、行けー!」

 女、犬として男に突進。

女 「わおーん」
男 「ほれ、骨だ」
女 「う」
男 「さらにはビーフジャーキーだぞぅ」
女 「うぅぅ」
男 「ほれっ!」

 男、投げる。

女 「わおーん」

 女、それを追いかけて、退場。

女 「(桃)くそっ。後で保健所に叩き込んでやる。猿、いけっ!」

 女、登場。猿として男に突進。

女 「うきーっ」
男 「ほーれ、バナナだ」
女 「う」
男 「しかも貴様が一番大好きなモンキーバナナだ」
女 「ううぅぅ」
男 「(素)あの、こんくらいのちっちゃいやつね。何か、皮が薄くて、妙に味が濃い感じで、おいしい、(鬼)ほれーいっ」

 男、投げる。

女 「うきーっ」

 女、追いかけて退場。

女 「(桃)くそっ。後でオスしかいないサル山に叩き込んでやる。キジ、行け!」

 女、登場。キジとして男に突進。
 男、女を殴る。

女 「え? え? 何で?」
男 「お前の好物がぱっと浮かんでこない」

面白いと思ったら、続きは全文ダウンロードで!
御利用機種 Windows Macintosh
E-mail
E-mail送付希望の方は、アドレス御記入ください。


ホーム