地球は青かった

-行き着いてみたい場所がある。-

(ちきゅうはあおかった)
初演日:2007/7 作者:松本隆志(:Aqua mode planning:)

      ■回想■-研究室-
      エマージェンシー。警報が鳴り、赤く明点が続いている。
      机のモニターを覗いているミノワ。
  
      イイダが駆け込んでくる。

イイダ  早くしろ!
ミノワ  …。
イイダ  何やってんだ!
ミノワ  先に…。
イイダ  あぁ?
ミノワ  先に行ってくれ。
イイダ  いい加減にしろ。
ミノワ  構わないで先に行けよ!
イイダ  またやり直せばいいだろ!
ミノワ  簡単に言うな!
イイダ  だったら残すか? 
ミノワ  …。
イイダ  消すしかないだろ。見付かったらどう使われるか分かったもんじゃない。
ミノワ  分かってる。
イイダ  だったら早くしろ。
ミノワ  くそ。オレはこんな事の為に…。
イイダ  残したって何にもならない。
ミノワ  アイツと約束したじゃないか!
イイダ  いつかまたチャンスはある! まずは生きる事が優先だろ。もう行くぞ。命
     あっての物種だ。
ミノワ  …。
イイダ  ミノワ!
ミノワ  分かった。

      ミノワがキーボードを打つ。
      溶暗していく中、警報が大きくなっていく。

■■■

      薄暗い空間。

ミツハシ 空は青い。空が青いのは太陽光が大気中の空気分子とレイリー拡散するから
     だ。レイリー拡散。光の波長よりも小さい粒子が広がる事によって起きる現
     象。波長の短い光は大気中の水蒸気や塵などにぶつかって広がっていく。
ミノワ  この星の大気はいくつかの層に分かれている。
イイダ  対流圏・成層圏・中間圏・熱圏。
アラタ  成層圏と中間圏を合わせて中層大気とも呼ぶ。
ミツハシ 熱圏の更に上部に外気圏をおく場合もある。
ミノワ・イイダ それらの総称が大気圏。更にその外側が大気圏外。
ミツハシ・アラタ この星では地表より百㎞〜数百㎞の上空にある領域を指す。
全員   大気が希薄である為に空気抵抗がほとんどなく、人工衛星が周回する高度と
     して選択される。

      呪文の様に、あえて聞き取り難い口調で。

全員   1903年、コンスタンチン・エドゥアルドヴィッチ・ツィオルコフスキー
     が液体燃料ロケットの設計図を発表。1926年3月16日、ロバート・ハ
     ッチンス・ゴダードが液体燃料ロケットを打ち上げ。1942年10月3日
     、ヴェルナー・フォン・ブラウンがペーネミュンデでV2ロケットを打ち上
     げ。1957年10月4日、人工衛星スプートニク一号を打ち上げ。196
     1年4月12日、ユーリー・ガガーリンがボストーク一号で地球を一周。1
     965年3月18日、アレクセイ・レオノフがボスホート二号で宇宙を遊泳
     。1969年7月20日、ニール・アームストロングがアポロ十一号で月面
     に到達。そして…。

      明るく雰囲気を変えて。

ミツハシ 唐突ですが、本題に入ります。第三次世界大戦が起きてしまいました。核兵
     器によって巻き上げられた灰や煙などの微粒子によって大気が濁り、太陽光
     が遮られて植物は育たずそれを食べる動物も生きづらくなった。慢性的に低
     気圧が発生しているので、天候は常時崩れた状態にあります。今、この国の
     空は青くありません。

      オープニングアクト。
      ダンスなど。

■■■

      -地下室-
      ミツハシ、入場。しばらく周囲を窺う。
      
      イイダ、入場。

イイダ  何やってんだ?
ミツハシ いや、地下道がこんな場所に繋がってるなんて。
イイダ  逆だな。この施設から地下道に繋がってる。いざという時の逃げ道だ。
ミツハシ 施設? 何の?
イイダ  後で説明してやるよ。今はちょっと待ってろ。水があるか見てくる。
ミツハシ 水があるのか?
イイダ  多分な。
ミツハシ どれくらい?
イイダ  場合によっては浴びるほど。
ミツハシ それは有り難い。なんでこんなトコ知ってるんだ?
イイダ  だから、後で説明してやるって。質問攻めされたら見に行けないだろうが。
ミツハシ ああ、すまん。
イイダ  荷物、見といてくれ。
ミツハシ ああ。

      イイダが出て行く。

ミツハシ ここ、何なんだ?
 
      ミツハシ、見回す。
      
      アラタ、紙飛行機を手に入場。
      お互いの視界に入らず、しばらく存在に気付かない。

アラタ  …!

      やがてアラタが先に気付く。
      見回したり周囲を触れるミツハシの動きを真似する。
      飽きて紙飛行機をミツハシの近くに飛ばす。
      飛行機に気付いて拾おうとするミツハシ。
  
ミツハシ …?
アラタ  何してんの?
ミツハシ !!!
アラタ  おぉー、びっくりしたー! びっくりされた事にびっくりしたー! どうや
     って入ったの? 入り口の鍵は博士にしか開けられないんだよ? ねぇ、何
     してんの?

      ミツハシ、警戒する。

ミツハシ …。
アラタ  何してんのってば。
ミツハシ …。
アラタ  あ、もしかして喋れない人? ごめん。気付かなかった。オレはね、ロケッ
     ト飛ばしごっこしてんの。
     
      アラタ、ミツハシに駆け寄る。

アラタ  これ! これが、ロケットね! ホントはこの形は飛行機って名前なんだっ
     て。博士が教えてくれたんだ。博士もホントはミノワって名前。でもオレは
     博士って呼んでる。で、オレはアラタって名前。君は? 君はなんて名前?
ミツハシ …。
アラタ  やっぱ喋れないのか。ごめん。
ミツハシ …ここは他にも人がいるのか?
アラタ  なんだ、喋れるじゃん。よかった。
ミツハシ 質問に答えろ。
アラタ  なんだっけ?
ミツハシ 他にも人がいるのか?。
アラタ  うん、博士がいる。あとはいない。君は何しに来たの? 
ミツハシ …。
アラタ  ねぇ、何しに来たのってば。
ミツハシ 少し休ませてもらうだけだ。
アラタ  何歳?
ミツハシ …あぁ?
アラタ  空って見た事ある?
ミツハシ 空は誰だって見るだろ?
アラタ  違うよ。青い空は見た事ある?
ミツハシ 昔な…。
アラタ  ホント? すげー! 
どんな? どんな感じ?

      アラタのテンションが上がっていく。
      ミツハシは付いていけずむしろ落ち着く。 

ミツハシ どんな感じって言われてもな。
     …なんでここにいるんだ?
アラタ  オレが?
ミツハシ そうだ。
アラタ  ロケット! 
ミツハシ ロケット?
アラタ  博士とロケットを飛ばすんだ! だから、その準備をしてる。
ミツハシ 何の為に?
アラタ  地球を見たい。
ミツハシ …?
アラタ  地球ってさ、青く見えるんだって。青だよ? 綺麗じゃん。だから、自分が
     ロケットに乗って宇宙まで飛んで見てくる。
ミツハシ …本気か? 
アラタ  あ! ヤバイ! これ、秘密だった。

      アラタ、そわそわし始める。

ミツハシ …何が?
アラタ  秘密にして! 
ミツハシ 何を?
アラタ  今オレが言った事! 
ミツハシ 自分で勝手に言ったんだろ。
アラタ  博士と二人の秘密なんだ! 秘密にしてってば!

      アラタ、ミツハシを追い掛け回す。

ミツハシ なんだよ、追い掛けるなよ!
アラタ  お願いだから! 博士には言わないで!

      白衣を着たミノワが入ってくる。

ミツハシ だから誰だよ、博士って。
アラタ  あぁ、しまったー! 博士がここにいるのも秘密だったー!
ミツハシ 知らねーよ、自分でボロを出しやがって。
アラタ  博士にバレたら…(ミノワに気付く)。あぁ! バレたー!

      ミツハシ、警戒する。

ミツハシ …。
ミノワ  別に武器とかは持ってない。

      ミノワ、両手の平を見せる。

アラタ  博士ー。ごめんなさい。秘密言っちゃった。
ミノワ  アラタ、約束は?
アラタ  守るもの。
ミノワ  だろ?
アラタ  ごめんなさい。
ミツハシ あんた達はここで何をしてるんだ?
アラタ  だから、ロケットを飛ばす準備だってば!
ミツハシ お前はちょっと黙ってろ。
アラタ  なんだよー。

      アラタ、不貞腐れる。

ミノワ  君も、科学者かその近辺の人間じゃないのか?
ミツハシ オレは違う。…なんでそう思った?
ミノワ  ここに来たから。
ミツハシ 何なんだ、ここは?
ミノワ  知らずに来たのか?
ミツハシ 休みたくて立ち寄っただけだ。
ミノワ  他にもいるな?
ミツハシ …。

      イイダが入ってくる。

イイダ  黙ったら肯定と一緒じゃねーか。水、あったぞ。
ミノワ  やっぱりお前の連れか。
イイダ  水、もらっていいよな。
ミツハシ 知り合いか?
イイダ  まぁな。
ミツハシ 言ってくれよ。
イイダ  知り合いだ。
ミツハシ 今言うなよ。
アラタ  もう黙ってなくていい?
ミツハシ なんだ? オレが黙れって言ったから黙ってたのか?
アラタ  うん。
ミツハシ いや、別にもういい。

      ミツハシ、少し呆れる。

アラタ  オレはアラタ。
イイダ  お前…。
アラタ  何々―?

      アラタ、興味が出てイイダに近付く。

イイダ  ぶさいくな顔だな。
アラタ  失礼だなー。

      アラタ、イイダから離れる。

ミノワ  ここに留まるのか。
イイダ  お、勘がいいな。
アラタ  じゃあさじゃあさ、空の話が聞きたい!
イイダ  空がどうしたって?
ミツハシ 青かった頃の話だってよ。
イイダ  見た事ないのか。
アラタ  ないよー。
イイダ  そうか。昔は空に色んな化け物が浮かんでてなぁ。
アラタ  えぇー、嘘だー?
イイダ  嘘だ。
ミツハシ 潔いな。
アラタ  あ、君の名前は?
ミツハシ …。
イイダ  こいつらには名乗っても大丈夫だ。
ミツハシ ミツハシ。
アラタ  じゃあ、ミッチーって呼ぶね。
ミツハシ なんだ、それ。
イイダ  いいじゃねーか。ミッチー。
ミツハシ バカにしてるだろ。
イイダ  いやぁ、別にー?
アラタ  で、とっつぁん。
イイダ  おい。名前を知らずしてあだ名を決めるな。
アラタ  似合ってるよー。
ミノワ  アラタ、奥の部屋に通して。
アラタ  了解。
イイダ  先に行ってろ。
ミツハシ ああ。
アラタ  行こう、ミッチー。
ミツハシ ミッチーって呼ぶなよ。
アラタ  えー、じゃあ何ならいいの?
ミツハシ 名前、教えただろ。
イイダ  オレのはもっといいの考えとけ。
アラタ  えー。

      アラタが先導してミツハシと奥の部屋へ。
      2人が行ったのを見て、イイダが話し出す。

イイダ  随分と久し振りだな。
ミノワ  あぁ。
イイダ  また会うとは思わなかったが。
ミノワ  こっちもだ。これまで何処にいた?
イイダ  んー、ちょっとばかり遠くに。お前こそ、何やってんだ?
ミノワ  別に。
イイダ  そんな格好で「別に」はないだろ。

      ミノワの白衣姿を指摘。

イイダ  あの小僧は? 
ミノワ  アラタだ。
イイダ  名前だけならオレの記憶にもあるが?
ミノワ  御名答。
イイダ  なんでここにいる?
ミノワ  色々あってな。
イイダ  ま、こんな御時世になっちまったんだ。助け合っていこうぜ。どうせお前は
     ここでずっとデータとにらめっこしてるんだろ?
ミノワ  …。

      ミノワ、反論しない。

イイダ  この辺に他の人間はいないのか?
ミノワ  近寄って来ないな。
イイダ  お前らがいるからか。
ミノワ  それもある。
イイダ  どういう場所なのか知ってか。
ミノワ  恐らく。
イイダ  あれからどれだけ過ぎた?
ミノワ  随分と。
イイダ  的確だな。ま、過ぎると早いもんだ。

■■■

      -研究室の奥の部屋-
      アラタに連れられて別の部屋に入るミツハシ。

アラタ  到着!ここは好きに使っていいよ。
ミツハシ 助かるよ。
アラタ  でも、この奥はダメ! 絶対ダメ!

      アラタ、引っ掛かりのある言い方。

ミツハシ なんで?
アラタ  秘密だからダメ!

      秘密を持つ事に自己満足している。

ミツハシ 待て。お前また自爆しそうだな。なんか面倒になりそうだから話題を反らす
     わ。

      アラタ、つまらなそう。

ミツハシ お前、なんでここにいるんだ?
アラタ  さっきからお前って言うなよ。ちゃんと名前があるんだから。
ミツハシ なんだっけ?
アラタ  アラタ!
ミツハシ じゃあ、なんでアラタはここにいるんだ?
アラタ  それはね、ミッチー…
ミツハシ 自分だって名前で呼ばねーじゃねーか。
アラタ  いいでしょー。で、オレがここにいる理由ね。ロケットで宇宙に行く!

      アラタ、自信満々。

ミツハシ …。
アラタ  驚かないの?
ミツハシ いや、さっき聞いたなと思って。
アラタ  ホントだ! オレさっきも言った!
ミツハシ お前ひょっとしてバカなのか?
アラタ  ちょっと!
ミツハシ 悪い。言い過ぎた。
アラタ  名前で呼んでよ!
ミツハシ そっちか!?
アラタ  なんだっけ?
ミツハシ ロケットの話じゃなかったか?
アラタ  そう! ロケットで宇宙に行く! で、地球を見る!
ミツハシ それさ、見てどうするの?
アラタ  見た後? うーん、どうもしない。
ミツハシ なんだそりゃ。
アラタ  だってオレは地球が青いのを見たいんだよ。見たらそれでいいの。
ミツハシ 確認したいだけか。そもそも今って青く見えるもんなのか? 確かここ15
     年くらい飛行機だって飛んでないだろ。
アラタ  そう。曇ってて危ないから。
ミツハシ とは聞くけどな。

      アラタ、自分の話したい流れになって来てテンションが上がる。

アラタ  なんで地球は青く見えると思う?
ミツハシ えー、海が多いから?
アラタ  じゃあじゃあ、なんで空は青かったと思う?
ミツハシ なんでだろうな。
アラタ  空は青い。空が青いのは太陽光が大気中の空気分子とレイリー拡散するから
     だ。レイリー拡散。光の波長よりも小さい粒子が広がる事によって起きる現
     象。波長の短い光は大気中の水蒸気や塵などにぶつかって広がっていく。…
     って博士が言ってた。
ミツハシ へー。難しくてよく分かんないな。
アラタ  ね。だから見たほうが早いじゃん。
ミツハシ そういう理屈か。
アラタ  そう。
ミツハシ でもロケットは無理なんじゃないか。
アラタ  無理じゃないよ! あとは飛ばすだけなんだから!
ミツハシ もうあるのか!?
アラタ  あーーー、また秘密を言っちゃった!
ミツハシ お前、口が軽過ぎるな。
アラタ  名前!
ミツハシ アラタは口が軽過ぎる。
アラタ  ホントだー。

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