穴!!

(あな)
初演日:2007/2 作者:渡邊 農夫也
『 穴!! 』

登場人物
・寿命三日の男
・王様
・指名手配犯


 回想1・王様。

大臣1   王様〜!王様〜!

 王様を呼ぶ声が近付いてくる。
 明かりが変わると、大臣1が現れる。

大臣1   王様!王様、捜しましたぞ。
王様    なんだ、騒々しいなあ。
大臣1   なんだではありません!本日の予定をお忘れですか?
王様    予定は未定。
大臣1   今日は!各国の王が我が国に集まり、昼食会を行う大切な一日ではありませんか。もう皆様集まられております。
      すぐに顔をお出しください。
王様    ……
大臣1   なんですかその目は。さあ早く!
王様    やだ。
大臣1   は!?
王様    そんなガミガミ怒って、余は気を悪くしたぞ。散歩でもしてこよ。
大臣1   お待ちください!
王様    うるさいな。もっと小さな声で話せ。
大臣1   先代の王が亡くなられて、そのご子息であらされるあなたが即位し、初めて周辺各国の王が一同に会する、極めて
      大事な会なのですよ。
王様    今聞いたって。子供じゃないんだから一回聞けばわかる。
大臣1   なら早く。
王様    やだって言ったろ。お前が参加すればいいじゃん。
大臣1   できる訳ないでしょう!
王様    じゃあ中止。めんどくさい。
大臣1   王様!
大臣2   王様〜!

 大臣2走りこんでくる。

王様    なんだ今度は。
大臣2   王様。謁見の依頼が山ほど届いております。
王様    謁見?そっちの方が楽しそうだな。
大臣1   王様!
王様    可愛い女の子はいたか?
大臣2   はい。
王様    ホントか!
大臣2   しかし皆、請求書を手にしております。一つ一つがかなりの額です。王様、また町へ遊びに行かれましたな?
王様    忘れてた。払っといて。
大臣2   どこからそんなお金が出るとお思いですか!ただでさえ今、我が国は国債を発行し、あまつさえ他国から融資を
      受けている状態だというのに。
王様    借金してんの?やめときな、ろくなことないよ。
大臣2   ならば一刻も早く、雇用を増やし、失業率を下げ、経済を活性化させてください。
王様    無理だよ。
大臣2   無理無理って、あなたはいつもそうやって逃げてばかりで。
大臣1   待ってくれ、そのことは置いといてくれないか。
大臣2   いえ、この際だからはっきり言わせてもらいます。
大臣1   違うんだ、王様には今来てもらわないといけないところがあってだな。
大臣2   それはこちらもです。謁見の依頼者が、王様に顔を出させろと騒いでおります。このままでは悪い噂が広まり、
      暴動のきっかけにもなりかねません。
大臣1   こっちなんてもっと大事だ。今まで築いてきた外交関係が、全て白紙になるかもしれないんだぞ。
大臣2   外交よりもまずは内政でしょう。クーデターなんて起こされたら元も子もありません。
王様    じゃあ両方ナシ。
二人    王様!!
大臣1   ……王様、前王が亡くなられて、まもなく一年が経ちます。なのに一向に仕事はしない、国のことを考えていた
      だけない、威厳もない。亡き王が悲しんでおられますぞ。
王様    父上の話はするなと言ったろう。
大臣1   いいえ、何度でも言わせてもらいます。父上様は立派な方でございました。今この国があるのは、あの方のお陰
      と言っても過言ではない。あなたはその息子なのです。突然の即位だったとはいえ、やればできるはずです。
王様    てことはなんだ、今はできてないってのか?
大臣1   そこまではっきりとは……
王様    はっきりってことはなんだ?
大臣2   できていないです。
王様    はっきり言った!お前らはいちいちうるさいのだ。これでも父上に対してだって負けていないと自負しておる。
大臣2   どのあたりがですか?
王様    ぜーんーぶ!
大臣2   王様、少しは言葉をお慎みください。
王様    文句があるならもう来なくてもいいんだぞ?
大臣1   またそういうことを仰る。
王様    余をバカにするような奴は、クビにするしかあるまい。
大臣1   何人解雇にすれば気が済むのですか!
王様    お前らが悪いんだろ!
大臣1   有能な家臣はもう残っていないのですよ!
王様    有能だったのかそれでも!!
大臣1・2 …………
大臣2   王様の気持ちはよく分かりました。今までお世話になりました。

 大臣2、去る。

大臣1   おい、待ってくれ!
王様    引き止めずともよい。城で働きたい者など山ほどおるのだ。これからは、余の方針に合う者を採用してくれ。
大臣1   ……
王様    さあ、散歩に出かけるぞ。準備をせい。
大臣1   ……
王様    あ、でもそうか、今町行くとやばいんだっけ。まいったなあ。
大臣1   王様……
王様    変装すればばれないかな。でもオーラがあるからばれるだろうなあ。そうだ、裏山でも行ってみようかな。
大臣1   ……裏山ですか?
王様    前から行きたいと思ってたんだ。決めた。裏山へ行って、大自然と触れ合ってくる。キャンプだ。一人キャンプ
      ファイヤー。
大臣1   一人で、行かれるのですか?
王様    ごたごた口を出されるとうるさいからな。
大臣1   一人でキャンプファイヤーは楽しくないと思いますが。
王様    いいの!楽しい楽しくないは余が決めることだ。ああ、もういい、行って来る。
大臣1   道具は?
王様    なんの道具だ?
大臣1   キャンプです。
王様    道具などいらん。
大臣1   いらないんですか?
王様    余にできないことなどないんだ。文句があるのか?
大臣1   ……いいえ。
王様    分かればいい。

 王様、行こうとする、が。 

大臣1   王様、最後に、この話をご存知でしょうか?城の北、裏山への道には、落とし穴が存在すると言われているんです。
王様    落とし穴?
大臣1   はい。昔、城の牢獄の警備は今よりも甘く、脱走する者がよく現れました。その者達が通るであろう、北の山から
      隣の国への道の各所に、落とし穴を掘ったという記録が残されています。
王様    バカじゃないの。落とし穴なんて落ちるわけないじゃん。
大臣1   ですが実際、昔は活用していたのですよ。
王様    で、それがなに?
大臣1   いえ、普通に道を歩く分には問題ありませんが、脇道や茂みに入った場合、万が一ということが有り得ますので。
王様    余を誰だと思ってる。
大臣1   王様です。
王様    落とし穴など怖いものか。
大臣1   でも決して脇道には入らないでください。
王様    脇道だって怖くない。
大臣1   茂みなど問題外です。
王様    茂みなど問題外だ。
大臣1   王様!
王様    それじゃあ行って来る!
大臣1   王様!

 暗転。

大臣1   さようなら。

 音楽。
 穴の中。
 とても深い。忘れ去られた落とし穴。
 光は上空から、あまり大きくない入口から降り注ぐ。
 中は案外広く、奥の方へ洞窟のように広がっている。
 明かりがつくと、そんな落とし穴に落ちた王様が、うつ伏せで倒れている。
 気を失っているのか、動く気配は全くない。
 そこへゆっくりと近付いてくる人影がある。
 寿命三日の男である。
 約一年前、ここへ落ちてから出ることができない、可愛そうな男。
 もちろん彼は脱走者ではなく付近の町人で、普段はこんなけもの道を通ることなどない。本当にたまたまだった。
 そして誰一人彼の存在に気付くことなく、今日この日の出来事を迎えた。
 彼はあまりの驚きと喜びに、なかなか声をかけることができない。

男     …あ…の……
王様    ……
男     あ、あの!……あなたも、ここへ落ちてきたんですか?……それとも、僕を捜しにきてくれたんですか?
      ……僕、ずっとここにいるんです。ずっと待ってたんです、助けを!あなたは?

 しかし王様は動かない。

男     あの、すいません?
王様    ……
男     ……気絶してる。
王様    してない。
男     してない!
二人    …………

 しかし王様は動かない。

男     あの…
王様    ……
男     僕を助けにきてくれたんですか?それともただ落ちてきただけなんですか?
王様    ……
男     気絶してないんだったら、どうして答えてくれないんですか!
王様    待ってるんだ!
男     待ってる?
王様    ……
男     何を?
王様    見れば分かるだろう!おそらく怪我をしているぞ。骨も折れてるかもしれない。重症だぞ。分かってるのか。
男     はい。
王様    はいって、分かってるんだったら、さっさと助けろ!医者を呼べ!病院へ搬送しろ!これは国家の一大事だ!
男     テンション高いですね。
王様    ああ!?

 王様、立ち上がる。

男     立った!
王様    ……ああ、そりゃ立つに決まっている。これしきの怪我くらい。余にできないことなどないのだから。
男     友達ですね。
王様    意味が分からない。
男     あの。
王様    なんなんだ、さっきから。
男     生きてますか?死んでますか?
王様    ああ?
男     生きてますか?死んでますか?
王様    見れば分かるだろう。
男     ……死んでますか。
王様    生きてる!どう見ても!余がそんな簡単に死んでたまるか。
男     生きてるんですか……
王様    残念そうだな。
男     じゃあ仲良くしましょう。
王様    やかましい!貴様が何者か知らんが、余との会話が許されるのは大臣級の位を持つものだけだ。というか何者だ?
男     僕ですか?近くの町に住んでた者ですけど。
王様    随分汚い格好だな。貧民か?
男     貧民……そうかもしれない、でも貧民というのは言い過ぎで……
王様    どうでもいい。
男     どうでもいい……
王様    余はこんなところで油を売っている暇などないんだ。少々道に迷ってしまったようだ。城への道を案内せい。
男     お城ですか?
王様    そうだ、城へ帰るのだ。
男     できません。
王様    なに?この辺りの者なら知っているだろう?
男     はい、知ってます。でもできません。
王様    ……わかった、多少の褒美なら出してやろう。貧民が一週間働いても稼げないくらいの額を出してもいい。
男     ……
王様    一ヶ月働いても稼げ…
男     それはありがたいけど、帰ることはできません。
王様    なぜだ!まさか貴様、余をどうするつもりだ?
男     どうもしませんよ。本当に案内なんてできないんです。
王様    ただ道を示すだけだろう!
男     じゃあ敢えて道を示すというなら。

 男は天に向かい、指を突き指した。

男     向こうです。
王様    は?
男     ……
王様    貧民というだけでなく、気も狂っているのか。
男     違います!
王様    なら早く城へ連れていけ!
男     だからできないって言ってるじゃないですか!
王様    なぜできない!
男     抜け出せないんですよ!
王様    抜け出せない!?
男     ここは落とし穴なんです!出口はあそこしかありません。
王様    落とし穴?ん?聞いた覚えがあるな。そうだ、大臣が言ってた。ここがそうだっていうのか?出口はないだと?
      ……出口はないだと!!?

 男、頷く。

王様    それでは帰れないじゃないか!
男     だから言ってるでしょう。
王様    なんとかせい!
男     できませんよ。
王様    飛べ!
男     無理です。
王様    うわあああ!
男     落ちついてください。

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