サマータイムブルースが聞こえない。

(さまーたいむぶるーすがきこえない。)
初演日:2002/8 作者:川村武郎
〈登場人物〉

男1 男2 女1 女2 女3 女4
山岸(源さん) 純子 
高塚 藤森 直子 美樹 由美
高橋 柴田 宏美 道恵 洋子
橘 タマコ 珠恵 幸子 良江






        夏の昼間。
        快晴。
        蝉時雨の中に読経の声。
        中央に祭壇。
        焼香をする数人の男女。

男1 それにしても、暑いですねぇ。
男2 ‥‥え?
男1 今日は、格別に暑いですわ。
男2 ああ‥‥そうですな。
男1 今さら言うてもしょうがないけど‥‥。
男2 暑いのがですか?
男1 いや‥‥何で、葬式いうたら、暑い暑い時か、寒い寒い時ばっかりなんでしょうな。
男2 そら、病人がしんぼたまらんよって死によりますんや。
男1 やっぱし、そうですやろか。
男2 そうです。

        セミの声。

男2 ‥‥昔、ハイヤーの運ちゃんに聞きましたんやけどな、夏冬は葬式、春秋は結婚式、って、こうビシッと使い分けてるらしいですわ。考えたら、現金な話ですわ。
男1 何がです?
男2 考えてもみなはれ。まあ、葬式はよろしわ。けど、その骨壺抱えたり、塩まいた車で結婚式でっせ。験糞悪おまっしゃろ。
男1 まあ、そらそうですけど、しょうがないのとちゃいますか。ほら、冠婚葬祭とも言いますし‥‥。昔から二つでひとセットなんですわ。
男2 いや、私は、これはハイヤー会社の陰謀やと睨んでます。そもそも別々に車用意したらよろしねん。だいたい両方とも黒い車ちゅうのがあきませんな。葬式だけ黒い車にして、結婚式は白い車にするとか‥‥ほら、ネクタイかて、黒と白とで分けてますやん。‥‥それとも、どうせおんなじにするんやったら、いっそのこと新郎新婦を霊柩車に乗せたらよろしねん。金ピカで派手やから、けっこう喜ぶやつがいよるかもしれへん。こら、案外、グッドアイデアやで。アハハハハハハ。
男1 ‥‥‥。

        セミの声と読経と男2の笑い声。

女1 ‥‥お母ちゃん。
女2 何?
女1 おしっこ。
女2 え? ‥‥もうちょっと辛抱できひん?
女1 あかん。出る。
女2 なんで、そんなぎりぎりになるまで言わへんの。
女1 そんなん言うたかて、急にしとなったんやもん。
女2 困った子やねぇ。トイレ、祭壇の向こうやし‥‥。
女1 お母ちゃん!
女2 何!
女1 もう出る。
女2 しゃあないねぇ‥‥お母ちゃんについておいで。
女1 あかん。歩けへん。
女2 何で!
女1 出る。
女2 それやったら、もう、ここでしよし。‥‥お母ちゃん、知らんわ!
女1 お母ちゃん!
女2 何!
女1 エーン。(泣く)
女2 泣いてもはじまらへんやろ! 行くんか行かへんのか、はっきりしよし!
女1 ‥‥行く。(泣きながら)
女2 ほな、ついておいで。(手を引く)
女1 ‥‥‥。(泣きべそをかきながら)

        女1・2、焼香客の前を通り抜ける。

女2 ごめんやっしゃ。ごめんやっしゃ。
女1 お母ちゃん‥‥。

        女1・2、去る。
        しばしの沈黙。
        セミの声。読経。

女3 寂しい葬式やな。
女4 え?
女3 親戚の人、誰も来てへんのやろ。
女4 ‥‥そうらしいね。
女3 親兄弟も。
女4 うん。
女3 源さん、親とか親戚とかおらへんの?
女4 さあ‥‥一人ぐらいおるやろ。
女3 そやったら‥‥。
女4 そんなん、知らんわ。
女3 ‥‥‥。
女4 ‥‥‥。
女3 源さんて、どこの人なん?
女4 知らんわ。
女3 関西弁しゃべってたし、関西の人間やろな。
女4 そうちゃう?
女3 それやったら、葬式来れるやん。
女4 なんで?
女3 近いし。そやのに、なんで一人も来いひんのやろ?
女4 そやから、知らんて。‥‥そや、うわさやけど、源さんっていうの、ほんまの名前ちゃうらしいで。
女3 へぇ、そうなん。‥‥ひょっとしてあっちの人?
女4 それは知らんけど、けっこうワケアリの人みたいやで、あの人。

        女1・2が戻ってくる。

女2 ごめんやっしゃ。ごめんやっしゃ。

女2 パンツぬれたん、家帰ったら、すぐはきかえや。
女1 うん。
女2 手、ちゃんと洗たか?
女1 うん。
女2 ほな、うちらもぼちぼち焼香しよか。
女1 うん。
女2 やり方、ちゃんと知ってるか?
女1 ‥‥だいたい。
女2 ほな、お母ちゃんのやるの見て、きっちしまねすんねんで。
女1 うん。

        女1・2、焼香に行く。

男1 それにしても、今日は無茶苦茶暑いですねぇ。(汗をぬぐう)
男2 ああ‥‥セミも鳴いとるしな。
男1 え? セミがなんか関係あるんですか?
男2 心理的効果っていうやっちゃ。よけいに暑く感じるやろ。
男1 ああ‥‥なるほど。
男2 だいたい、こんな黒い服着てたら、熱ばっかり吸収しよるわ。これも洋服屋の陰謀やな。
男1 え?
男2 だから、ハイヤーとおんなじで、結婚式は白い服、葬式は黒い服にしたらええんや。
男1 ‥‥でも、これ、葬式ですよ。
男2 ‥‥ああ、そうやったな。‥‥くそ。
男1 ‥‥‥。
男2 ‥‥‥。

        セミの声。読経。

男2 あの坊主、お経、えらい長いな。
男1 そうですかね。
男2 そうやて。‥‥客もおらんのに。‥‥キミ、坊主のとこ行って、はよやめろ、て言うてきて。
男1 そんな‥‥無茶ですよ。
男2 暑いのかなんのやろ。‥‥現代はスピード時代やで。夜のおつとめも昼のおつとめも短いのに限るわ。アハハハハハハハ。
男1 ?

        セミの声と読経。男2の笑い声。

女3 それにしても‥‥。
女4 え?
女3 やっぱし、もう、誰も来いひんのかな。
女4 そやろ。‥‥もう、そろそろ出棺の時間やで。
女3 そうか‥‥。
女4 あんた、えらい気にすんねんな。
女3 そやかて。
女4 あんた、なんか源さんに世話になってたん?
女3 そんなことないけど‥‥ほら、よく言うやん。死に方でその人の人生がわかるって。
女4 へえ、そうなん?
女3 そうなんよ。そやから‥‥。
女4 そやから?
女3 寂しい人生やなって‥‥。

        音楽。ザ・フー「サマータイムブルース」。
        ダンス!


        暗転。



        昼の公園。
        山岸雄二が、ベンチにすわってギターを弾いている。

山岸 バラが咲いた バラが咲いた 真っ赤なバラが
   さびしかった僕の庭にバラが咲いた
   たった一つ 咲いたバラ 小さなバラで
   さびしかった僕の心が明るくなった
   バラよ バラよ 小さなバラ
   そのままで そこに咲いてておくれ

        山岸の恋人、関根純子がやってくる。
        純子は、山岸の背後からそうっと忍び寄り、山岸
        に目隠しする。

純子 だーれだ。
山岸 えーと、ミユキちゃんかな、いや、ヨーコちゃんかな?
純子 違います。
山岸 この手のぬくもりは、ひょっとしたら島村先輩かな?
純子 もう!
山岸 冗談、冗談、純ちゃんやろ。

        純子、手を離す。

純子 雄二のあほ! もうしらんわ。
山岸 あたりー!
純子 また講義さぼって、ギター弾いてんのやろ。
山岸 ちゃうよ。空き時間。
純子 ほんまー?
山岸 ほんまのほんま。
純子 そう。‥‥だいぶ、うまなったね。
山岸 まだまだやて。
純子 何ヶ月?
山岸 3ヶ月ちょっと。
純子 それやったら、うまい方やわ。
山岸 そうかな。
純子 一緒にうたお。
山岸 えー、緊張するやん。
純子 さっきうとてたやつ。
山岸 バラが咲いた?
純子 それ。

        山岸、ギターを弾く。ベンチの後ろに純子が立っている。

山岸・純子 バラが咲いた バラが咲いた 真っ赤なバラが
      さびしかった僕の庭にバラが咲いた
      たった一つ 咲いたバラ 小さなバラで
      さびしかった僕の心が明るくなった
      バラよ バラよ 小さなバラ
      そのままで そこに咲いてておくれ
      バラが咲いた バラが咲いた 真っ赤なバラが
      さびしかった僕の庭にバラが咲いた

        純子が拍手をする。

純子 すごい、すごい。プロみたいや。
山岸 そんなことないで。
純子 そんなことあるで。‥‥そや、二人でデビューしよか。トワ・エ・モアみたいに。
山岸 そんなあほな。
純子 トワ・エ・モアの曲、なんか弾けへんの?
山岸 練習したことないわ。
純子 今度やっといてね。ハモリとか入れて、バチッとやろ。えーと、「ある日突然」と「空よ」と、それから「虹と雪のバラード」。
山岸 そんな、いっぺんにできひんよ。
純子 私がメインボーカルで、あんたがギターとハモリやからね。
山岸 そんな無茶な‥‥。
純子 わかった?
山岸 ‥‥‥。
純子 わかった?
山岸 ‥‥わかりました。
純子 よーし、決まり。ボイストレーニングせな。‥‥まずは今度の学祭のステージやな。
山岸 もう、好きに言うて。
純子 何言うてんの。私、本気やからね。わかってる?
山岸 ‥‥前向きに検討いたします。
純子 何、政治家みたいに言うてんの。
山岸 ‥‥‥。
純子 あ、そや、政治家で思い出したわ。二十日の有事立法粉砕のデモと集会、雄二も来てくれるんやね?
山岸 ああ、行けたら行くつもりやけど。
純子 行けたら、やあかんのよ。もう、サークルのメンバーで名簿出してあるんやから。
山岸 え、そうなん?
純子 行かへんかったら、島村さん怒ると思うでぇ。
山岸 島村先輩が?
純子 そら、あの人が、今回の責任者やもん。あんた、島村さんに気ぃあるんちゃうん?
山岸 そんなんとはちゃうよ。‥‥けど、あの先輩、なんか、大人の女性って感じがするやん。
純子 島村さん、私とおない年なんやけどなあ‥‥。
山岸 ‥‥‥。
純子 ついでに言えば、あんたともおない年なんやけどなあ‥‥。
山岸 ‥‥‥。
純子 前から言おうと思ってたんやけど、その島村先輩と言うの、二人でいる時はやめてくれへん? 島村さんでええやん。そら、あんたは浪人したから先輩かもしれへんけど、おない年なんやし、あっちが島村先輩で、私が純ちゃんやったら、なんか、バランスが取れへんと思うんよ。それとも、私のこと、関根先輩って呼ぶ?
山岸 それは変やで。
純子 そやろ。‥‥ほな、島村先輩もなしな。
山岸 ‥‥わかった。‥‥でも、口癖になってるしなあ‥‥。
純子 わかった?
山岸 前向きに検討いたします。
純子 また言うてる。‥‥苦しい時はいつもそれやね。ハハハ。
山岸 ‥‥‥。
純子 ねぇ、なんかうたお。何できる?
山岸 え? ‥‥そやねぇ、「若者たち」は?
純子 それ、それがいい。それうたお。

        山岸、ギターを弾き始める。

山岸・純子 君の行く道は 果てしなく遠い
      だのになぜ 歯を食いしばり
      君は行くのか そんなにしてまで

      君のあの人は 今はもういない
      だのになぜ 何をさがして
      君は行くのか あてもないのに

      君の行く道は 希望へと続く
      空にまた 日が昇る時
      若者はまた 歩き始める

      空にまた 日が昇る時
      若者はまた 歩き始める


        暗転。







        大学のサークル部室。
        いくつかのテーブルが並んでいる。
        それを取り囲むように、部員たちがすわっている。

高塚 シュプレヒコール!
全員 オー!
高塚 シュプレヒコール!
全員 オー!
高塚 有事立法粉砕!
全員 有事立法粉砕!
高塚 思想と言論と表現の自由を守れ!
全員 思想と言論と表現の自由を守れ!
高塚 日本に戦争準備は必要ないぞ!
全員 日本に戦争準備は必要ないぞ!
高塚 米軍はベトナムからただちに撤退しろ!
全員 米軍はベトナムからただちに撤退しろ!
高塚 デートの自由を守れ!
全員 デートの自由を守れ!

        間。

高塚 ‥‥と、こんな感じでどうやろ?

純子 いいと思います。
直子 ええんとちゃいますか。
美樹 うん、こんな感じでしょ。
高塚 じゃあ、これで‥‥
由美 ちょっと。
高塚 え?
由美 最後の「デートの自由を守れ」っていうの、トーンが合わないと思わない? ‥‥それに、意味もよくわからないし。
高塚 それは‥‥全学連の新聞にも載ってたから入れたんやけど。
由美 でも、これだけじゃ、何が言いたいのかわからないじゃない?
美樹 ほら、昔、警職法の時、「デートもできない警職法」ってスローガンがあったやないですか。あれとおんなじパターンと違いますか? 有事立法を、自分たちの身近な問題として考えてもらおう、ちゅうことで。 
直子 ケイショクホウ?
美樹 警察官職務執行法のこと。略して、警職法。
直子 それ、いつ頃の話?
美樹 よう知らんけど、六〇年安保のちょっと前ぐらいとちごたかな。
直子 へえー、ようそんな昔のこと知ってるねぇ。‥‥美樹、あんた、ほんまは何歳?
美樹 うるさいな。こんなん常識や。‥‥確か、入学した頃の学習会でもやったやん。ねぇ?
純子 そういえば、そんな気もするけど‥‥。それにしても城之内さん、よう学習したはるねぇ。
美樹 それほどでもないけど。へへ。
由美 ちょっと、話をそらさないでよ。‥‥だからさ、「デートもできない警職法」なら分かるけど、「デートの自由を守れ」じゃ、意味不明なのよ。
高塚 そうかな?
由美 そうよ。
山岸 それじゃ、「デートもできない有事立法」じゃどうですか?
由美 それじゃ、ますます意味不明。
山岸 そうですか‥‥。
藤森 それじゃ、「デートの自由もおびやかす有事立法反対」じゃ、どうですか?
由美 ダメ。長すぎるし、説明的すぎて、シュプレヒコールにならない。
藤森 そうですか‥‥。
純子 島村さん。ダメ、ダメ、って否定ばかりしないで、対案出してよ。
由美 だいたいさ、デートだけが、身近な問題なのかな?
純子 え?
由美 みんな彼氏や彼女がいる人ばっかじゃないでしょ? ‥‥いない人には、かえって嫌みに聞こえるんじゃないかな。
純子 そんなことは‥‥。
美樹 あるある。大いにある。
直子 純子は、彼氏がいるもんねぇ。
美樹 デートの自由は大切よねぇ。
美樹・直子 おうらやましいわあ。

        山岸、赤くなる。

純子 何よ。そんな個人的なことを言ってるんじゃないでしょ。話をすりかえないでよ。
由美 だから、身近な問題を出すのはいいと思うわけ。でも、「身近」イコール「デート」という発想は、短絡的すぎると思うのよ。

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