空が空色

(そらがそらいろ)
初演日:1996/1 作者:柴田奈美・川村武郎
      〈キャスト〉

        サチコ(女子高生)
        ミキ(女子高生)
        タケシ(サチコの兄)
        ノリコ(女子高生)
        母
        アユミ(女子高生)
        緒方(家庭教師)




   ある朝。
   とある家庭のダイニングキッチン。
   女子高生サチコが、かけ込んでくる。

サチコ  いやあ、もう!
母    おはよう。

   サチコ、バタバタと何かを探している。

母    サチコ、おはようは?
サチコ  それどころじゃないの。これの、もう片方知らない?
     (と、おさげ髪の、髪飾りのついてない方を見せる)
母    知らないわよ。おはようは?
サチコ  きのう寝る前に、確かに洗面所の棚の上に置いといたのに。
母    おはようぐらい言いなさい。
サチコ  (投げやりに)おはよう。ねぇ、知らない? 洗面所に置いといたのよ。お母さん、洗濯機に入れたりしてない?
     ‥‥‥ミゾに落っこっちゃったのかなぁ。
母    見といてあげるから、ほら、早く、ごはん食べないと。

   サチコ、朝食を食べ始める。

サチコ  いただきます。‥‥‥あ、カバンの中! ‥‥でもないか。もう、最近、物忘れがひどいんだから‥‥‥。
母    何よ、年寄りみたいに。
サチコ  ねぇ、今日のお弁当、何?
母    こんなの。(と見せる)
サチコ  えー、また味付けイワシ!?
母    こないだは、おいしいって言ってたじゃない。
サチコ  今日はイワシの気分じゃないの。
母    イワシの気分て何よ。わがまま言ってんじゃないの。
     ‥‥‥イワシはね、カルシウムが豊富なのよ。そうやって朝っぱらからカリカリするのは、カルシウムが足りないんじゃない?
サチコ  ‥‥‥お母さん、寝坊したでしょ。
母    何でよ。
サチコ  わかるわよ。寝坊したら缶詰、缶詰だったら、寝坊。ニッスイの味付けイワシの法則!
母    うるさいわね。あんただって寝坊するじゃない。
サチコ  あーあ、愛情弁当食べたーい。
母    もう、そんなこと言うんなら、お弁当作らないわよ。
サチコ  お父さんいないからって、すっかりくつろいじゃって。
母    ‥‥‥今日は、やけにつっかかるわね。何かあったの?
サチコ  そうだ、お父さん、土曜日どうするって? 帰ってくるって?
母    え?
サチコ  お父さん。
母    ああ、何かね、会議が入っちゃったんだって。
サチコ  ふーん、先週もじゃなかった?
母    3月だからね。
サチコ  3月だから?
母    ほら、年度末って、決算とか、人事異動とか、いろいろあるじゃない。
サチコ  もしかして、お父さんも転勤?
母    無理よ。まだ一年だから。
サチコ  ‥‥‥サラリーマンは大変ねぇ。
母    そう、お父さんも大変、お母さんだって大変。こんなにがんばっても、わがままな娘が、ちっともわかってくれないんだから。
サチコ  私だって大変なのよ。
母    何が大変なのよ。
サチコ  大人にはわからない。あーあ、もう、ゴムどこいっちゃったんだろ。
母    ちゃんと整理しないからでしょ。そうそう、帰ったら、部屋そうじしなさいよ。むちゃくちゃじゃない。机の上とか山積みだし。いったいどこで勉強するの?
サチコ  あー! お母さん、また勝手に入ったの! やめててって言ったでしょ!
母    洗濯物持って行っただけよ。
サチコ  そう言って、いつも適当に入ってきて、適当に片づけちゃうんだから。
母    だって、足の踏み場もないじゃない。
サチコ  だからって、勝手にそうじすることないじゃない。どこに何置いたとか、どこにどれしまったかとか、わかんなくなっちゃうのよ。
母    へー、あんなのでわかるの?
サチコ  お母さんには、わからなくても、私にはわかるのよ。
母    器用なのねぇ。
サチコ  ごまかさないでよ。だいたいプライバシーの侵害じゃない。
母    そんな大げさなもんじゃないでしょ。
     さぁ、つまんないこと言ってないで、さっさと食べた。
サチコ  つまんないことじゃないわよ。

   兄(タケシ)が二階から降りてくる。
   パジャマ姿。

タケシ  おはよ。
母    あ、おはよう。
サチコ  お兄ちゃん、お母さん、また私の部屋に勝手に入ったのよ。
母    タケシ、上に何かはおってきたら? まだ寒いんだから。
タケシ  平気だよ。
サチコ  ねえ、お母さん、このごろしょっちゅう入ってんだよ。ひどいと思わない?
タケシ  ああ。コーヒーちょうだい。
母    ごはんは?
タケシ  あとで。
サチコ  ねぇ、聞いてる?
母    フレッシュ入れる?
タケシ  いい。
サチコ  ねえってば。
タケシ  聞いてるよ。
母    あんたが散らかしっぱなしにしてるからじゃない。
サチコ  だって。
母    だってじゃないの。
サチコ  こないだだって数学のプリント捨てたじゃない。
母    あれは、あやまったでしょ。
サチコ  あやまったからって、あの宿題、結局、提出できなかったんだから。
母    だいたい、そんな大事なものをほっとくからいけないんでしょ。
サチコ  自分の部屋の中よ。勝手でしょ。
母    勝手じゃないでしょ。あんたの部屋だって、ウチの中なんだから。ウチの中にゴミ箱みたいな部屋があったら、恥ずかしいじゃない。
サチコ  そんなの関係ないわよ。見せ物じゃないんだから。
母    関係あるわよ。
サチコ  ないわよ。
母    あります。
サチコ  ない。
タケシ  たしかにサチコの部屋はきたない。
サチコ  何よ、お兄ちゃんまで。‥‥‥お兄ちゃんも私の部屋に入ったの?
タケシ  入ってないよ。入らなくても、十分きたないよ。
サチコ  ‥‥‥そりゃ、きれいじゃないけどさ。でも、私にはちょうどいいのよ。すわったままで、何でも手が届くし。だから、きたない方がいいの。
母    いいわけないでしょ。はい、コーヒー。(コーヒーを置く)
タケシ  うん。
母    やっぱり、何かはおってきたら?
タケシ  いいよ。
母    風邪ひいちゃうでしょ。ホラ。
タケシ  いいって。また寝るんだから。
サチコ  いいわねぇ。大学生は気楽で。
タケシ  何とでも言え。悔しかったら大学生になってみな。
サチコ  何よ!
タケシ  ほらほら、高校生、遅刻するぞ。
サチコ  むかつく! こいつ!
母    ‥‥‥きのう、何時まで起きてたの?
タケシ  んー、四時半かな。
母    昼と夜とひっくり返ってるじゃない。何してるの?
タケシ  何だっていいだろ。
サチコ  そうよ、何してんのよ?
タケシ  うるさいな、お前には関係ないだろ。ゼミのレジュメ。
サチコ  何それ?
タケシ  だから、お前には関係ないんだよ。あれ、サチコ、こっちの取れてるんじゃないか? だっせー。
サチコ  もう! 取れてるんじゃなくて、見つからないの! お兄ちゃん、知らない?
タケシ  さあ。
サチコ  もう、どこいっちゃったんだろ。
タケシ  そっちも取っちゃえば。
サチコ  そうじゃなくて。
タケシ  だいたい、ガキくさいぜ。そういうの。
サチコ  もう、わかってないんだから、乙女心が。ねぇ、お母さん。
母    取っちゃえば?
サチコ  もう!
母    ほら、もう行かないと。
サチコ  わ、もうこんな時間。‥‥‥ごちそうさま。

   サチコ、二階へかけ上がる。
   タケシ、コーヒーを飲みながらテレビを見ている。
   母、サチコの食器を片づけている。

母    この頃、忙しいの?
タケシ  まあね。
母    ちゃんと寝ないと。
タケシ  ‥‥‥。
母    学校、ちゃんと行ってる?
タケシ  うん。
母    昼まで寝てるじゃない。
タケシ  昼から学校なの。高校とは違うんだよ。
母    そう。
タケシ  ‥‥‥。

   サチコ、駆け下りてくる。

母    あ、そうそう。これ、あんたのでしょ。

   母、エプロンのポケットから手紙を出す。

サチコ  あ、それ。
母    取ってきたんじゃないわよ。階段に落ちてたの。
サチコ  (手紙を取って)中、見た?
母    ‥‥‥見てない。
サチコ  ほんと?
母    見られると、困るの?
サチコ  じゃ、ないけど。人の手紙、ふつう見る?
母    だから、見てないって。
タケシ  おっ、サチコ、ラブレターもらったのか?
サチコ  そんなんじゃないわよ。

   サチコ、カバンに弁当をつめこむ。

タケシ  生意気。
サチコ  だから、そんなんじゃないって。
母    あんまり急ぐとあぶないわよ。
サチコ  ‥‥‥。
母    ローソンの前の信号こわれてるから。
サチコ  うん、わかってる。行ってきます!

   サチコ、出て行く。

タケシ  ‥‥‥男の手紙?
母    ‥‥‥そうみたい。
タケシ  なんだ、やっぱり、見てるんだ。
母    表だけよ。
タケシ  ふーん。‥‥‥春だねえ。
母    何言ってんのよ。

   テレビを見るタケシ。
   後かたづけをする母。






   とある女子高の教室。

ミキ   卵白でしょ。お砂糖でしょ。コーンスターチでしょ。小麦粉でしょ。チョコレートでしょ。
サチコ  えー? チョコレート?
ミキ   トッピング!
サチコ  ああ、なるほど。
ミキ   でね、カラースプレーとか。
サチコ  え、スプレーって‥‥シュシューってやんの?
ミキ   違う違う、パラパラって。
サチコ  ああ、そっか。
ノリコ  ねぇ、ねぇ、それ、何の話?
ミキ   マシュマロ。ホワイトデーの。
ノリコ  マシュマロ、作るの?
ミキ   ううん、もらうの。
サチコ  え?
ノリコ  だって卵白とかお砂糖とか。
ミキ   リョウヘイ君が作ってくれるって。だからミキ、こないだの日曜日、リョウヘイ君ちで作り方教えたんだ。
ノリコ  えー、冗談。
サチコ  えー、そうだったの?
ミキ   うん、そうだよ。
ノリコ  へぇ、ほんとにマシュマロ贈る人っているのね。
ミキ   え、どうして?
ノリコ  なんかヤじゃない? おあつらえ向きって言うかサ、お菓子屋さんのワナにひっかかってるみたいでサ。
ミキ   えー、ノリコちゃん、もらったことないのぉ?
ノリコ  ない!
サチコ  そんなに自信たっぷりに言わなくても‥‥。え、ひょっとして、ノリコ‥‥。
ノリコ  キャンディならもらったよ。
サチコ  なーんだ。
ノリコ  あと、ワインとか‥‥。
サチコ  え、それ問題ありじゃない?
ノリコ  いいじゃん、ワインぐらい。
サチコ  ‥‥まあね。
ミキ   えー。やっぱり、ホワイトデーは、マシュマロだよ。
サチコ  そっかなー。あんなのそんなに食べらんないよ。
ノリコ  そーそー、あれ、見かけはかわいいけど、ずーと口の中に入れてたら気持ち悪くなっちゃうよ。
サチコ  そしたら、バレンタインデーに、チョコレートばっかあげるのも、けっこう残酷だったりして。
ノリコ  それは、言えてる。

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