冬のキリギリスたちへ

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初演日:2006/12 作者:ことばたらず
『冬のキリギリスたちへ』


登場人物

 桐谷幸介(ホスト)
 有村佐和子(OL)
 油ノ木満(保父)
 桑原光利(会社員)
 蒲田信夫(ニート)
 蝶野つみき(アイドル)
 蛍原 愛(死神)


     明かりが点くと、舞台の中央に佐和子が座っている。
     佐和子、「アリとキリギリス」と書かれた絵本を読んでいる。
     風呂上りの油ノ木満がタオルで頭を拭きながら、入ってくる。

油ノ木 気持ち良さそうに眠ってたよ。
佐和子 あの子、「お父さんまだ?!」ってさっきまで騒いでたのよ?
油ノ木 もうちょっと、早めに帰ってくれば良かったかな?
佐和子 しょうがないじゃない、仕事忙しいんだから。さて、ご飯の用意するね。

     佐和子、本をイスに置き、立ち上がる。

油ノ木 自分の子そっちのけで他人の子、か……。
佐和子 それは言わない約束でしょ?
油ノ木 あ、ごめん、ごめん。

     油ノ木、本を手にとりイスに座る。
     佐和子、台所でご飯の準備をしている。

油ノ木 どうしたのこれ?
佐和子 未希のためにね。
油ノ木 また、古典的な。
佐和子 そうでしょ? 私もどうしてそれを選らんだのか不思議で。

     油ノ木、パラパラと絵本をめくる。

油ノ木 アリとキリギリスか……。

     暗転

     明かりが点くと、そこは5年前の夜行バスの中。
     舞台構造は上手に3席。通路を挟んで下手に3席。
     下手の窓際の席に座っている蝶野つみき、帽子を深く被り窓の外を見つめている。
     下手の通路側の席に座っているスーツ姿の桑原光利、うとうとと眠っている。
     つみきをチラチラと見ている蒲田信夫、下手の真ん中に座っている。
     上手の通路側の席の油ノ木満、上手の真ん中の席に座っている有村佐和子の肩に
     頭を預け眠っている。
     ホスト風な桐谷幸介、上手の窓際の席に座り携帯電話で話している。


桐谷  (携帯で)もしもし、今、夜行バスの中でさ、明後日なら店にいるから。うん。あ、そうだ、
     今度ドンペリ抜いてよドンぺり。
佐和子 あの。
桐谷  (携帯で)俺さ、そろそろナンバー1狙おうと思ってんだ。いろいろ金がいってさぁ。
    あ、もちろん女じゃないよ。心配するなって〜。
佐和子 あーの!
桐谷  (佐和子に)何?
佐和子 静かにしてもらえません? 眠れないんですけど?
桐谷  (油ノ木に)寝てるじゃん。
佐和子 彼は特別なんです。実家が環状線の横に建ってて。
桐谷  あっそ(携帯に)でさー俺がナンバー1になったあかつきには。
佐和子 (強引に携帯を奪い切る)
桐谷  あ、なにすんだよ!
佐和子 私はこの旅行を凄〜く楽しみにしてたんです。半年前から計画して、お金もためて。
桐谷  (携帯を奪い返し)俺は今を楽しんでんの。この、超暇な時間を乗り切って、
    すすきので遊ぶの。あ、知ってるすすきの?
佐和子 知ってるわよ。札幌雪祭りの第3回会場で。
桐谷  はぁ? 風俗街だよ。ふ・う・ぞ・く・が・い。月に一度のお楽しみってわけ。
佐和子 最低……。
桐谷  男はみんなこんなもん。あんたの彼氏さんだって影でこっそり楽しんでるって。間違いない。
佐和子 油ノ木くんが他の女と寝るわけないじゃない!
桐谷  それは理想。現実は違うって。

     桐谷、佐和子の肩をポンとたたく。

佐和子 触らないで!! セクハラで訴えるわよ!
桐谷  あんたも触ってたじゃないかよ。女のボディタッチはいいってわけ? 男女差別。
佐和子 はぁ?(油ノ木を揺さぶって)ちょっと、かわいい彼女が変態に襲われそうになってるのよ! 
    起きて、起きてよー!
桐谷  ちょっ、誰が変態だよ!
佐和子 あんたよ!
桐谷  はぁ? 俺から言わせてもらえばな、あんたみたいなのは、かなりの変わり者で堅物で変態だ!!
佐和子 強引に変態にしないでよ!
桐谷  それはこっちの台詞だ! 
佐和子 こ、この、変態の変態の変態!
桐谷  変態の変態の変態の変態!! へっ! 俺の方が一回多い。
佐和子 !?

     桐谷と佐和子、「変態」と大声で言い合っている。

桑原  (起きて)おい。

     桐谷と佐和子、気がつかない。

桑原  いい加減にしろ!
佐和子 (同時に)なに?
桐谷  (同時に)なんだよ?
桑原  うるさいんだよ。特にあんた。
佐和子 私は注意しただけです!
桑原  その声がキンキンキンキン頭に響くんだよ!
つみき おじさんも結構うるさいと思うけど?
桑原  お、おじさん?!
桐谷  まじめな奴は馬鹿をみるってか? (プット笑う)
佐和子 こ、この!(桐谷の首をしめる)
桐谷  あ、死ぬ、死んじゃう!
つみき あ。

     つみき、窓を開ける。

桑原  おい、排気ガスが入るだろ。
つみき 好きなのトンネル。
桑原  どうしてもこうも……自己中が多いんだよっ!
蒲田  あ、あの、もしかして……。

     間

つみき 違うと思う。
蒲田  え?
つみき あなたが想ってる人とは、少し違うと思う。
蒲田  で、でも。
つみき 君はもっと現実を知った方がいい。
蒲田  ……ど、どうして、それ……。
つみき 私、いろんな人を見てるの。だから大抵の人間は目を見れば分かる。あなたの目、
    死んでるから。
蒲田  しゃ、社会は残酷です。僕みたいなはみ出しものは、だ、誰からも求められていない……。
つみき そうやって人は現実から逃げたがる。だけど生きなきゃならない。食べるために。
蒲田  ……だ、けど、ツッキーさん!!
桑原  ん?
桐谷  ツッキー?
佐和子 え?
蒲田  あ。
佐和子 まさかね。
桐谷  だよなぁ〜。
蒲田  す、すいません……。
つみき ほら、誰も気がつかない。これで分かったでしょ? 少し違うのよ。
蒲田  ……。
つみき あ。
蒲田  どうしたんです?
つみき 光った。
蒲田  え? 
つみき ほら、トンネルの出口付近。
蒲田  あ。
桐谷  雷?
桑原  違うんじゃないか?
佐和子 何?

     SE 爆発音。車がスリップする音。
     叫ぶ乗客。
     暗転
     SE トンネルが崩れる音
     静寂。
     暗闇の中、台詞が聞こえる。

桐谷  いてて、くそ、どうなってんだよ……。
佐和子 油ノ木くん! 生きてる!?
油ノ木 うん。起きてる。
佐和子 良かった! って今頃?!
桑原  おい! 誰か明かり!
蒲田  それなら携帯を。
桐谷  お、ナイスアイデア!

     全員、携帯を出して開ける。
     光が6つ。

桑原  おい、これ以上前には!
桐谷  運転手! 何があった!
佐和子 なんだこれ。ベトベトしてる。
蒲田  う、うわっ!
桐谷  どうした!?
蒲田  だ、誰かいます!
桐谷  なんだと!?
    
     全員で人の気配がある方向に携帯を照らす。
     SE パチンという指を鳴らす音。
     半明転
     学生服(なんでもOK)を着た蛍原愛が立っている。
     愛の横にはホワイトボード。
     ホワイトボードには6人の写真が張られている。

つみき あなたは?
愛   初めましてキリギリスのみなさん。私は死神の蛍原と申します。
   
     静寂。
     お互いをみる6人。
     やがて大爆笑。

佐和子 ねぇ聞いた? 死神だって?
油ノ木 佐和ちゃん、どうしたのそれ?
佐和子 え?(手が血だらけ)
油ノ木 ケ、ケガ、してるの?!
佐和子 え? 痛くないけど……。
つみき なんだか嫌な感じがする。
佐和子 な、何よ? これは誰がのケチャップが爆発して……。
桐谷  はぁ? どうしてケチャップが爆発すんだよ?
佐和子 い、いろいろあるのよ!!
愛   ではもう少し明るくしてみましょう。

     SE 指を鳴らす音。
     「ヒッ!」と言いながら慌てて、舞台の中央に集まる6人。

桐谷  な、なんだ!! どうなってんだよ!
蒲田  バスの前方がぺ、ペシャンコだ……。
桑原  お、おい、あそこを見ろ!
桐谷  え?
桑原  あれ、血じゃないのか?
佐和子 へ? 血? 
桐谷  だ、誰のだよ?
桑原  そ、そりゃ、バスの前方が潰れてるんだから……。
佐和子 (手を見つめて)ひっ! 
油ノ木 (ハンカチを出し)さ、佐和ちゃん!!
つみき 光ったの。トンネルの出口付近でパァって。
桑原  出口付近で?
つみき ええ……。
桐谷  ど、どういうことだよ! お、おい、説明しやがれ!!
愛   では、そろそろいいでしょうか?(歩きながら)あなた方が乗った夜行バスが、トンネルに、
    入った午前1時14分、石油を積んだトラックがトンネルの出口付近で、事故に遭い爆発。
    その衝撃でトンネルが崩壊。あなた方以外の乗客、及び、走っていた車の乗客は、瓦礫の
    下敷きになり死亡。ちなみに死者は35名。
佐和子 え?
桐谷  適当なこと言ってんじゃねーよ!
愛   さて、この状況が本当に適当なことでしょうか?
つみき さっきの光、爆発だったんだ。
蒲田  じゃあ、僕達、助かったんですか?
愛   ええ、一時的には。
油ノ木 一時的?
愛   そうです。1時間後の午前2時14分には、第二の爆発で全員瓦礫の下敷きに。
佐和子 そ、そんな……。
桐谷  みんな、落ち着け! これは夢だ! 俺たちはまだ寝ている! 偶然、見ている夢が、
    他人の夢に入り込んだ。そうだ、そんな状況なんだよ!! おい、そうだよな!
桑原  え? あ、ああ……。
愛   夢かどうか前のイスを覗いてみたらいかがです? きっと目が覚めると思いますよ。
桐谷  はぁ? おい、おっさん!!
桑原  じ、自分で見ろよ……。
桐谷  なに怖気づいてんだよ! これは夢だ。何を見ても、朝になると目が覚める。あいつは、
    そういう意味で言ったんだよ。
桑原  だったら自分で見ろよ。夢なんだろ?! 
桐谷  いや、でも、あれだ、あれ!!
桑原  (冷たい視線)
桐谷  あーわかった、わかったよ! 見てやるよ、くそ!
  
     前をそっと覗く桐谷。

桐谷  これは夢なんだ。ゆ、め……。

     後ろに後ずさりして吐き気を催す桐谷。

桐谷  くそ……(オエっと嗚咽)
桑原  おい、どうした?! 何があったんだ!
桐谷  自分で見ろよっ!
桑原  なんだと?
   
     桑原、そっと前のイスを覗き込む。

桑原  ひっ!!

     青ざめた表情で後ずさりする桑原。

愛   本来ならばこの地区はクソまじめな田丸さんの担当でしてね。今日は非番だったので私が
    変わりに。いやぁ、あなた方は運がいい。
蒲田  運がいい? ど、どういうことですか?
愛   私は上司に内緒でゲームをするのが好きなんですよ。
つみき ゲーム?
愛   はい。(紙を出して)ここに各自一枚ずつ、合計6枚の投票用紙があります。1時間後に、
    投票していただくのですが、そのときに開票して一番多くの票を集めた人間一人だけが私の
    好意により、生き残れるというゲーム。名づけて「アリとキリギリスゲーム」。
蒲田  アリとキリギリス……。
桑原  ひ、一人だけ……?
桐谷  ふ、ふざけやがって……。
愛   ほら、童話であるじゃないですか「アリとキリギリス」ってやつ。アリは食料を蓄えて、
    キリギリスは歌ってばかり。冬になってキリギリスはアリに命乞いをする。その様が似てる
    ところから……。
佐和子 い、いかげんにしてよ! 私達、春に結婚するの! そのためにお金もためたし、辛いことも
    二人で乗り越えてきた! こ、こんなところで死ぬわけには行かないのよ!
愛   あ、うまいじゃないですか。そうそう、そんな感じで他の人にアピールしてください。
    自分の名前を書いてもらえるように。
佐和子 そ、そんなつもり…。
愛   何か質問は?
蒲田  あ、ひ、一つ?
愛   どうぞ。
蒲田  え、えっと、自分の名前を書くことは?
愛   できません。もちろん、他人の紙に名前を書くこともです。
つみき 私も。
愛   どうぞ。
つみき 票数が同じだったときはどうなるの?
愛   (ニコッと笑い)全員死にますね。
佐和子 そ、そんな!!
愛   他に何か? 

     間

愛   では、また何かあったら呼んでください。すぐに姿を現しますので。では頑張ってどんどん
    アピールしてください。温かいアリさんの家に入れるのは、一匹だけですよ。きまぐれなキリ
    ギリスさんたち……。

     愛、去っていく。
     静寂。

桐谷  アリとキリギリスだと? なめやがって! 

     桐谷、壁を探ったりしている。

つみき 何してるの?
桐谷  決まってるだろ。ここから出るんだよ!
つみき 窓の外は瓦礫で埋め尽くされてる。どうあがいても出れないわ。
桐谷  そんなの、やってみなくちゃわかんねーだろ!! 
つみき 時間の無駄だと思うけど? まぁご自由に。
桐谷  くそ!

     桐谷、壁を蹴ったりしている。
     間

佐和子 そ、そんな……将来のためにお金もためて、病気にならないように健康にも気をつけて。
    それが、こ、こんなことになるなんて。
油ノ木 さ、佐和ちゃん……。
佐和子 一人だけって……。いや、そんなの嫌だよぉ!! もっと、油ノ木くんと一緒にいたい! 
    油ノ木くんと結婚して子どもが産んで、幸せな……家庭を創って……ううう。
油ノ木 いいかい、佐和ちゃん。僕は必ず君を生き残らせてみせる。絶対にだ。
佐和子 油ノ木くん……。
油ノ木 僕が死んでも、佐和ちゃんは女だ。子どもを産める。僕は誰の子供だっていい。
    佐和ちゃんが幸せなら。
佐和子 駄目よ、そんなの駄目!! 私は油ノ木くんじゃないと駄目なの! 私は油ノ木くんの名前を、
    書く! 油ノ木くんを絶対に生き残らせて見せる!!
油ノ木 さ、佐和ちゃん……。
桑原  そんな馬鹿な……こんなことってあるか! えっ! 順風満帆な人生! 有名私立大学に、
    推薦で入り、大企業に入社して、美人な妻、かわいい子供、それにもうすぐもう一人産まれる
    予定だったんだ! それなのに、こ、こんな残酷な運命ってあるか!! 
桐谷  おっさん、 吠えてるだけなら誰でもできんだよ! ここから出たいなら出口を探せ!
つみき 無駄よ。現実は残酷なの。
桐谷  てめぇはさっきから何様だよ! え!
つみき あなたはまず、この状況を理解して。

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