おもちゃは箱を飛び出して

(おもちゃははこをとびだして)
初演日:0/0 作者:重松舞
─登場人物─

ピエロ………ピエロ……人形。
キョンシー…キョンシー……人形。
ばあや……ばあや【エリザベス】……人形。
猫…………猫(ねこ)……人形。





   大きな箱がいくつかある。
   客電消え、「おもちゃのチャチャチャ」の音楽がかかっている。
   舞台明るくなり、同時に音楽もFO。
   箱の中からピエロの格好をした男が一人、苦戦しながら出てくる。
   出るとき、転ぶ。

ピエロ  あっ、痛ってー。ったく、適当に詰め込みやがって。出る方の身にもなれってんだ。あーあ、ぐちゃぐちゃになっちゃったよ。ええと……。

   ピエロ、自分の出た箱を漁り、台のような物(机でも椅子でも可)を取り出す。
   取り出すときも悪戦苦闘している。

ピエロ  ふう。(台に座る)ええと、後は……(再び箱を探る)あれえ?ないなあ。確かここに入れたはず……。
ばあや  これのことかい?

   ばあや、別の箱から登場。
   手には楽器を持っている。

ピエロ  ばあさん!何であんたの家にあるんだよ。
ばあや  知るもんかい。間違って入れちゃったんだろうよ。整理されてないからね、私の家は。
ピエロ  おれの家だってそうだけど。まあいいや。それ返してよ、ばあさん。
ばあや  あのね、何度も言うようだけど。その「ばあさん」ってのはやめてくれないかい?いくら親しい間柄だってさ。
ピエロ  じゃあおばあさん。
ばあや  おんなじだよ。私はまだ20歳だよ?せめてお姉さん、とかさ。
ピエロ  20歳?おれより年下じゃん。
ばあや  当たり前でしょ。ここじゃあんたが一番古株なんだから。
ピエロ  老けてるな、ばあさん。
ばあや  あ、あんたこのシワのこと言ってるんだろ。来た時にも説明したじゃないか。これはずーっと前に悪ガキに落書きされたものなんだよ。まったく乙女の顔にひどいことするねえ。(いつの間にか鏡を取り出して見ている)
ピエロ  ま、そんなことどうでもいいけどさ。シワなんかあったってなくたって関係ない顔してるじゃん。
ばあや  失礼ね!これでも若い頃は相当もててたんだよ。
ピエロ  若い頃、若い頃、言うようになったら年取った証拠。おれなんか見て。いつまでも若々しい肌!溢れ出るパワー。この姿を見て誰が生後50年だなんて思う!?
ばあや 50年!?へえー私の倍以上は生きてんだね。あんた。そりゃいろいろなことがあったろう。
ピエロ  そう、あった。辛い目、悲しい目、寂しい目。死にたくなるときもあった。だけど!だけどぼくは挫けない!泣くのは嫌だ、笑っちゃおう!
ばあや  進め〜♪
ピエロ  ひょっこりひょうたんじ〜ま♪ってそんな話じゃなくて。……ばあさんよくこんな歌知ってんな。
ばあや  なめるんじゃないよ。何年生きてると思ってるんだい。
ピエロ  さすが年の功。(また箱を漁る)
ばあや  まだ何か探してるのかい。いったい何やろうってんだい?今夜は。
ピエロ  歓迎会の準備さ。決まってんだろ。何を今更……。
ばあや  歓迎会って誰の。
ピエロ  はあ?ばあさん。もうぼけたのか?明日は何の日だよ。
ばあや  明日?明日はえっと……駄目だねえ、思い出せない。年かねえ。
ピエロ  カレンダー見ないのかよ。ほら!(カレンダーを突き出す)
ばあや  んー?(覗き込む)

   間。

ばあや  あああっ!
ピエロ  やっと気付いたか。
ばあや  今日は13日の金曜日じゃないの!縁起悪ー。
ピエロ  ちがーう!ここだ!ここ!
ばあや  あ……。
ピエロ  わかったか。
ばあや  そうかー。明日は君恵ちゃんの誕生日なんだね。
ピエロ  そ。
ばあや  誕生日プレゼントに新入りが来るってわけか。……それで歓迎会?
ピエロ  そ。
ばあや  なんでまた今年に限って?
ピエロ  実はな、おれひそかに期待してるんだ。今年こそ、可愛い女の子の人形が来るんじゃないかって。
ばあや  またそんなこと言ってるのかい。去年もそんなこと言ってたよね。でも来たのは結局、あのクソ生意気なクレヨンしんちゃんのぬいぐるみだけだったじゃないの。
ピエロ  そりゃ去年はそうだったけどさ。
ばあや  一昨年は蛙。その前は熊。その前は狸。その前は……
ピエロ  ああ!わかったよ。わかってる。十分わかってるけどさ。期待するくらいいいじゃんか。
ばあや  期待が大きいと失望も大きいんだけどね。
ピエロ  わかってるって言ってんだろ!
ばあや  ……怒鳴らなくてもいいじゃないか。何をいらついてるんだい。
ピエロ  今年は最後のチャンスかもしれないだろ。
ばあや  は?
ピエロ  もう君恵ちゃんも、お人形やぬいぐるみで満足してる年じゃないってこと。おれたちなんか生まれたときから一緒にいるのにさ。もう滅多におれと遊んだりなんかしないぜ。
ばあや そりゃ私だってそうだけどさ。でも私たちは昔可愛がって貰えたんだからまだいいよ。悲惨なのだっているだろ。例えば、ほら向こうに住んでる……
キョンシー ぼくのことかい。
ばあや  ひやあ!

   キョンシー、「ぬっ」と出てくる。
   手を前に突き出してる。


ばあや  あー驚いた。あのね、あんたはもう流行にないの。君恵ちゃんはキョンシーのことなんか知らなかったじゃないか。
ピエロ  そうそう。ゲーセンのUFOキャッチャーで捕られた奴なんてそんなもんだよなあ。
キョンシー 何だよ。人形差別するのかよ。
ピエロ  差別じゃなくて区別。おれたち昔からいた組と、誕生日プレゼントになった組と、UFOキャッチャー組。さて誰が一番偉い?
ばあや  それ言っちゃったら差別だよ。でもまあUFOキャッチャー組にはあんまりでしゃばって貰いたくないね。所詮安物だし。壊れやすいし。
キョンシー うう……(顔を背けて泣き出す)
ピエロ  泣け泣け。弱虫。泣き虫。意気地なし。
ばあや  何いじめっ子みたいなこと言ってんだい。ほら、キョンシー。泣くと服が濡れるよ。そしたら湿ってかびが生えて余計相手にされなくなるよ。ま、そうでなくても相手にされないけどさ。
ピエロ  お、大人のいじめ……。絶対、おれよりひどいこと言ってるよな、こいつ(客席に向かって)
ばあや  誰に言ってんだい。
ピエロ  いや、こっちの話。ほら、キョンシー、いい加減立ち直れよ。幽霊のくせに情けないぞ。
ばあや  キョンシーって幽霊だったっけね?

   キョンシー、突然振り返り、ばあやの首を絞める。

ばあや  うう……実はあんた貞子!?
ピエロ  誰だ、そりゃ。ええい怨霊退散!

   ピエロ、キョンシーの額に札を貼る。

キョンシー ああ……。

   キョンシー、崩れ落ちる。

ピエロ  ……キョンシーって札はられると動きが止まるんじゃなかったっけ?

   キョンシー、立ち上がり、先ほどの首を絞めてるポーズ。

ピエロ  恥ずかしー。間違ってやんの!
ばあや  まあ、記憶力のない子だね。自分のことまで忘れちゃってるの。ピエロ、ありがとよ。あ、貞子ってのはね、
ピエロ  いいよ、もう。それよりだいぶ時間がたっちゃったな。早く用意しないと。
ばあや  あんたさあ、何の用意して何をするつもりなのさ。
ピエロ  だから、
ピエロ・ばあや 歓迎会。
ばあや  それは知ってるんだよ。具体的には?
ピエロ  まだ考えてないよ。まあでも可愛い子だったらアタックあるのみ!
ばあや  あんたみたいなの誰が相手にするもんかい。服は汚れて、つぎはぎだらけ。デザインだって古いしさ。
ピエロ  情緒。
ばあや  そうは言わないよ、普通。それに今時ピエロだろ?あんた、君恵ちゃんのお母さんの時代からのものでしょうが。
ピエロ  それも情緒!いいんだよ、古くたって。汚くたって。愛さえあれば!(箱を漁る)
ばあや  全く、何をこんなに思いつめちゃったかねえ。今年来るのが人形かどうかもわからないのに。
キョンシー ぼく知ってるよ。
ばあや  うわあ!何だい、あんた。しゃべれるのかい。
キョンシー しゃべれるけど動けない。はがしてくれると嬉しい。
ばあや  駄目だよ、あんたみたいな危険人物。それより知ってるって何を。
キョンシー 今年のプレゼント。前に君恵ちゃんとお父さんが言ってたんだ。今年は女の子のお人形。間違いない。それに頼んだ君恵ちゃんの言葉は「だってそろそろあの子にもお嫁さんがいるもんね」(このセリフだけ動く。ただしすぐ元に戻る)
ばあや  それってそれってもしかして。
ピエロ  そう!今ここにいる男の人形はおれを含めて3体。おれとキョンシーとクレヨンしんちゃん!
キョンシー ぼくの可能性もあるわけだ。
ピエロ  ないないない。ずえーったいない!おれの方が男前だし。だいたいお前、男のくせに色が白過ぎるんだよ。
キョンシー ぼくはこういうキャラクターであって……。
ばあや  それならピエロも白いはずだけどね。
ピエロ  白い男なんてそれこそ道化!男は黒くなくっちゃ。
キョンシー 君のはただの汚れだろ。
ばあや  ああ、なるほど。
ピエロ  うるさい!汚れは男の勲章だ!
ばあや  まあ別にいいけどさ。それで、何か見付かったのかい。
ピエロ  あ?ああ、まだまだ。ちょっと、このテーブルクロスかけといてくれよ。
ばあや はいはい。テーブルクロスねえ……どっからこんなもの……これで花でも置くのかい?
キョンシー はっ!

   キョンシー、突然思い出したように去る。

ピエロ  あれ?
ばあや  あれ。
ピエロ  あいつ、札貼ってあるのに。

   ひらり、と札が舞い落ちる。

ピエロ  せっこー。こんなのあり?って、あんな奴のことどうでもいいんだよ。どこに閉まったっけなーあれ。

   ピエロ、箱の中に入ってしまう。

ばあや  何だか気になるねえ。私も探してみようか、何探してんだか知らないけどさ。

   ばあやも自分の箱に入り込む。
   結局、テーブルクロスは敷かず、そのまま持っていってしまう。
   何やらごそごそ音が聞こえる。
   暗転。


ピエロ  ぐー。ぐー。(いびき)
ばあや  ごー。ごー。(いぎき)
キョンシー すぴー。すぴー。(?)

   すずめの声。
   舞台、明るくなる。


ピエロ  朝だ!

   ピエロ、箱から飛び出そうとしてこける。

ピエロ  あ痛たたたた。ん?(きょろきょろと周りを見回し)朝だ!朝、朝、……どうしようー。朝になっちゃったよー。
ばあや  うるさいねえ。あんた寝てたんじゃないのかい。

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